13 / 13
男の日常 (5)
しおりを挟む荷物を担ぎ直す。
不動産屋に入った。
ピンとこない。どれも似たり寄ったりだけど。オレのふんわり要望を上手く汲んでくれてるという事かな。
いい人に出会った。
3件目で適当なのが見つかった。
ここがいいな。ここだね。
気に入った。
やる気になったら、すぐなんだけど、ここまでがフラフラしてしまう。
書類を作って貰ってる間にぼんやりしてると、彼を思い出していた。
あそこに置いてきちゃったね。
棒立ちだった彼。
『キライ』って言ってしまった。
だって、アイツちっとも条件守ってくれないんだもんよ。
腹も立つってもんだ。
色々言ってやりたかったが、ぐるぐるして、グワッと湧いてきた言葉がアレだった。
オレ付き合ってやってる気でいたんだが、アイツは違ったんだろうか。
ひと言に集約されてて、あの時の気分を言語化できてよかったと達成感的に嬉しくなる。
うん、あの言葉は、ビタッと来たよねッ!
アイツの今までのお相手がなんだか気の毒になってくる。
不履行はダメだよ。ふらふらしてるオレでも約束は守るよ。
ふらふら根なし草のオレでも誠心誠意ご奉仕するよ? だって等価だろ? そこはオレでもわかってるよ。
だ、か、ら!
お前が悪いんじゃ!
ムフフ…と密かに笑ってしまった。
「先生居る?」
先生が居るはずの部屋の扉を開けて、顔だけ突っ込んで尋ねる。
「居ませんよ。出張中です」
あー、この人なんか苦手。
なんですか?って感じでじっと見てる。
ドアの隙間に腕を突っ込んで、封筒をぷらぷらさせる。
不動産屋のロゴ入りの封筒。
「保証人になって欲しいんだ」
「は?」
「引越ししたいの。というか、前のところはもう更地かも」
「はぁあ?」
当たり前の反応だな。
あれから随分経ってる気がするから、こそっと指折り数えて『おー』と驚いてたのは内緒。
「渡してぇ~」
更にぷらぷらと振る。
事務仕事をしてたらしい事務方の男が漸く席を立ってくれた。コツコツと足音を響かせて近づいてくる。
封筒渡したら、今日はどこに行こうかなぁ~。
腕を掴まれて、中に引っ張り入れられた。
おっとと…
「仕方のない人ですね。お茶を淹れますから、顛末をお話し下さい。ーーー先生にも連絡とりますから」
この人優しい?
オレが研究生だから面倒みてくれてるだけだろうけど。
先生が気にかけてるオレだから、面倒見る対象って事だけなんだけどね。
書類を持って不動産屋に向かう。
事務の人が話つけたらしいので、即入居でいいそうだ。
オレがお茶してる間に先生と連絡が取れ、諸々の手続きが終わってしまった。詳しい事は知らんけど。
で、終わったら邪魔だと追い出された。
書類封筒を持っていくようにお使いを言い渡される。
かくして封筒と交換で鍵が貰えた。
その足で、軽トラックをレンタルして荷物を回収して部屋に入れた。
散々セックスで酷使された身体で動き回ったら流石に眠くなってきた。
寝袋を出して、潜り込むと、泥に沈み込むように眠った。
◇◇◇
メッセージを送り続ける。
既読にならない。
電話もした。
出ない。
俺を振るとは…。
振られた事なんて俺の人生で初めて動揺してしまった。
この俺がこんなに連絡してるというのに、何故、出ない。
俺を振るなんて認めない。
俺が好きだと言ってるのに。
俺専用のメス穴に仕上がってきてたってのに、何が気に入らないんだ。あんなに悦んでたじゃないか。
俺に媚びるようにケツを振っていい声で啼いていた。
思い出すだけで前が勃ってくる破壊力。
あれは…アイツは最高だよ。
タチにだって戻れない身体になってそうなのに…。
『だれぇ…?』
掠れた声。寝てた?
やっと出たよ。
「おい、俺を無視しや……あ、いや、寝てたのか? 寝れたか?」
『…………』
無言だ。
さっきまで腹を立ててたが、声を聞いたら、そんなのどうでも良くなった。
会いたい。
心が躍る。
心躍らせながら、不意に心配になってきた。身体は大丈夫か?
いつもなら帰ったらビデオ通話で確認出来てたが、今回は出来てない。
事後の様子が確認出来てないのは不安でもあった。ちょっと乱暴にヤっちまったからな。
「おいッ」
ちょっと強く言ってしまった。
言って後悔。
コイツに対してどうしてこうしか出来ないんだろう。いっつもこうだよ。
今までヤってきたヤツにしてたように、甘い言葉でも掛けてやればいいとは分かってるんだが。どうも優しく言えない。どうやったら言えるんだと悩む。
あー、コイツ相手だとなんでこうなるんだ。
どうしたもんだろう。
『……チッ』
小さいがはっきりと舌打ちが聞こえた。
「はぁあ?!」
寝起きだから、俺と認識するまで間があったのだと思うが、思うが!舌打ちはねぇんじゃねぇか?!
息を吸いこみ怒鳴り掛けた耳の軽やかな通話が切れる電子音が届いた。
ーーーーー!
切りやがったッ!!!
スマホを足元に投げつけそうになった。
既のところで、己の手で止めた。
ふるふる掴む手が震えていた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる