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6.保健師の悪夢 ※
しおりを挟む動悸が治らない。
布団干さないと。
干せる時間もないから、布団乾燥機出動だな。
エアコンのドライもかけるか。
汗びっしょり。
気持ち悪い。
風邪引きそう。
取り敢えず風呂。
フラつく足を叱咤しながら、浴室に来た。
頭からシャワーを被る。
夢を見た。
最悪だ。
過去の悪夢。
相手の顔なんて覚えてない。覚えてたかもしれないかも知れないが、記憶から消した。
手に触れた筋肉質な腕や胸の感触は、忘れようにも身体が覚えてるみたいだ。
あー、嫌だなぁ。
何年前の話だよ。忘れて欲しい。
もう何年も夢なんか見なかったのに。
原因は分かってるけど、相手の所為にしたら悪い。これは自分の問題。
シャワーに打ちつけられて皮膚感覚がなくなってきた。
ふと込み上げて来た感覚に驚愕した。
えっ、マジ?!
突然、嘔吐いた。吐く…。
ビシャビシャに濡れたままトイレに駆け込んだ。
一人暮らしので良かった。
えっと、今日は休もう。
今日の予定は後日に回せそうだし、養護の先生にお願いしよう。
ソファでうつらうつらしてる。
目が覚めたのが夜明け前だった。
熱も無いし、吐いたのは一度きり。
眠いから寝たいのに寝れない。
すーっと眠れそうになると、ふと首を絞められる感覚にハッと目が覚める。
自分で息を止めて、苦しくなってるだけだった。
自分が弱ってる。なんとかコントロールしないと。
そろそろ学校に連絡しようか。
手足が動かない。
助けも来ない。
終わるのを待つしか無いのか。
終わったら、自分は無事でいれるのか。
口の中は血と精液が貼り付いてる。
粘りつく精液が喉に絡みついて、胃までいっぱいだ。
鼻も臭いでバカになってる。
喚いたら頬を張られる。
腹が苦しい。
尻も感覚が鈍い。
後孔から太腿を伝って何か垂れ溢れ出てる。
気持ち悪いとも思わなくなっていた。
パンパンと肉が打つかる音だけが響いてる。
また尻を思いっきり叩かれた。
絞まんなくなってきたのかもしれない。
また首絞められる?
もう嫌だぁ
内臓が押し上げられて奥に注がれてる。
もう入らないって。
次のヤツが来る。
いつ終わる?
どいつもこいつも体格良すぎるんだよ。
精力まで強過ぎだろ。
自分の呻き声で目が覚めた。
スマホが震えてる。
震える手でなんとか掴む。
「佐々木先生、お見舞い行っていいですか?」
明るいな!
底抜けに明るい声がする。
お見舞いって感じの声じゃないぞ。
「馬鹿ゴリラ来んな」
ガッサガサの声で返すと切った。
歯食いしばってたのかな。顎痛い。
家は教えてないから来れないだろ。
水飲もう。
立ち上がって、ガクッと膝が折れた。
足が震えて立てない。
マジかー。
這って冷蔵庫まで。
酷いな。ここまでとは。
冷蔵庫に凭れて、ペットボトルを傾ける。
別な事を考えるか何かしないと引きずり込まれる。
どっかで変なスイッチが入ったんだな。
大丈夫。
別なスイッチを入れたらいいだけだ。
ペットボトルを横に置くと、震える手で、足をマッサージする。
大丈夫。
動ける。
大丈夫。
やれる。
学校が待ってる。
仕事場がある。
私の居場所。
大丈夫。
大丈夫。
暗示をかける。
寝てた。
冷蔵庫に凭れてたから、背中バッキバキ。
今度は夢を見なかった。
ゆっくり立ち上がって。
湯を沸かす。
もう夕方か。
過去に振り回された一日だった。
吐き気がして、トイレに移動できそうになくて、近くの流しに吐く。
水を流す。
胃液しか出ない。
白いのが出てる錯覚にゾッとして、口を濯ぐ。
カップ麺でいいかな。
焼きそばなかったかな。
白いのは見たくないな。
ストックの棚を漁る。
ピンポーン
宅配?
ごめん。居留守。
ピンポーン
五月蝿いな。
置き配でいいよ。
ピンポーン
執拗い!
ゴリラの顔が浮かんだ。
まさか。
ピンポーン
もう!
無視してもいいが、電子音が頭に響く。
漸く動くようになった足を引きずるように玄関に。
「どなた?」
「小宮です」
なんで?
「よく家分かったね」
「教務に教えて貰いました」
個人情報!
「ノロだと不味いから帰って」
今は顔見たくない。
「明日学校行くって連絡したんんでしょう? ノロじゃないの分かったんですよね?」
仕方ないな。
気分が楽になって来てるし、大丈夫かな。
面倒になってきた。
いいか。
鍵を開ける。
「散らかってるよ」
招き入れた。
デカイな。
部屋狭くなる。
そう考えると、ゴリラの部屋広いのか。
ポトフを作ってくれるらしい。
台所で大きな身体を小さくして作ってる。
私はソファでソファでゴロゴロしながら、その様子を眺めていた。
ふわふわする…。
額がひんやりして気持ちいい。
頭撫でてくれてるのか。
結構気持ちいいもんだな。
目の前にゴリラがいた。
寝てしまっていたようだ。
顔近いな。
この流れはキスか。
受け入れた。
啄むような可愛いキスだった。
そう言えば、キスした事なかったな。
強姦された時もなかったな。
フェラはされたけど、させられなかったな。
食いちぎられると思ったか。
笑える。
初キスか。
もう少し頭がしっかりしてる時したかったかも。
絆されてるなぁ。
「みのるさん、起きれます?」
さらっと下の名前。
お前な。
腹立ち紛れに無言で両手を突き出す。
起こせ。
嬉しそうだな。
ローテーブルの上にポトフがあった。
私は、ゴリラの胡座の中にすっぽり収まってる。
えーと、これで食べるの?
ちょこっと前に出て、アツアツのポトフにありついた。
うっまぁ!
ハフハフ食べてたら、背中をつつーっと指で撫でてきた。
お前は暇かもしれんが、私は食事中!
キッと振り返って、顔を見る前に張った肩が視界に入る。
咄嗟に口を押さえた。
折角作ってくれたものを吐きたくない。
涙目で飲み込んだ。
「食事中!」
膝から降りると、ローテーブルの向こう側に回る。
顔を見ると不思議そうにしてる。
「体調悪いのはホントだから」
なんとかポトフに集中しよう。
「寝室見ていいですか?」
「散らかってるよ」
「寝れるようにしてきます」
「ありがとう…」
空になった器を流しに置くと寝室から渋い顔でゴリラが出てきた。
「人型に汗染み出来てましたよ。さっさと寝て下さい。明日出勤する気なんでしょ?」
「お、おう」
「シーツ替えたんで、ちょっとは寝やすいと思いますよ」
「ありがとう」
気まずい…。頭カキカキ礼を言った。
「片付けはこっちでするんで、お風呂入ってさっさと寝て下さい」
「うん」
なんか押しが強いな。
サッパリした。
お腹も膨れて、幸せ。
洗濯機が回ってる。
台所も片付けてる。
器用なヤツだな。
寝ろって言われるけど、これってセックスする流れか?
いやー、この精神状態ではムリだな。
準備もしてないし。
寝よ。
整えられたベッドに潜り込んだ。
また額がひんやりする。
気持ちいいな。
この手が気持ちいいのか。
掌に鼻を押し付ける。
あったかいな。
柔軟剤の匂いか。
目を開けるとゴリラが覗き込んでた。
キスか?
いいぞ。しようか?
首に腕を絡ませるとまた啄むような可愛いキスだった。
「また魘されてましたよ」
辛そうな顔だな。
「そう? 忘れた…」
お前がそんな顔する必要はない。
「明日、学校で。帰りますね」
私から何かを感じたのか、なんとか笑おうとしてる顔。
可愛いヤツだな。
「うん。明日…」
いい夢が見れそうだ。
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