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2】分かってない。
しおりを挟む「返却に来ました~」
カラにしたUSBを持って再び訪れた資料室には彼の気配しかないように思うが、電話中のようだ。
「…ですから、データは既に送りました。ーーーー分かりました。もう一度送りま、はぁ? 秘書のどなたに…切れた…」
お困りのようだ。
「得崎さん?」
驚かさないように、離れたところから、ちょっと足音立てつつ、声掛け。
「あ、営業の…」
目を細めて首から下げた社員証を見ている。もしかして、名前覚えるの苦手かな?
「吉田です。USBの返却に来ました」
「ああ、吉田さん。ありがとうございます」
「何かお困りですか?」
「あー、主任さんにデータの再送信をね。秘書のところによろしくって…」
検索掛けてるが、担当秘書まで書いてあったかなぁ…。そもそも秘書なんて重役クラスしかついてないけど? 部署付きのサポートの事か?
お世話になったし、手伝おうかな。
「どの主任ですか?」
カウンターの中に入って、後ろに近づく。
「この人です」
「ああ、この人なら、秘書課の山下さんに送って置いたらよろしくしてくれますよ。メールタイトルに主任の名前と至急って入れたら大丈夫ですよ」
「担当なんですか?」
「秘書課のトップです」
「あー、そんな方だったら忙しいのでは?」
「彼はやり手ですから、それぐらい捌けますよ」
「出来る人ですか。それは羨ましい。簡潔に…詫びも入れておきましょう…ありがとうございます」
この人もやり手だと思う。俺と話しながら文面を書き上げている。添付をペタッと社内メールであっという間に送信完了した。
「あ、吉田さんのお名前使ってしまいました」
ぺこりと頭を下げて謝られた。待たされた感ゼロだった。
「大丈夫です」
こちらからの提案だ。今までがそうだったから使われても当然だと思っていたが、確かに使うよと了承はいるか。これは初めてだな。使用した事を申告の上、謝られたとは驚きだ。
「訊きたい事があるんですが…」
USBを渡しながら、この機会だからと、モヤモヤしてた事を訊いてみる事にした。
「はい、僕で、あ、私で出来る事でしたら、なんなりと」
いつもの業務ですねと言いたげな表情で姿勢を正した。丸顔だからだろうか…この人、なんて表現したらいい? 可愛いなぁ。
事務椅子にちょこんと座って、膝に手をついて姿勢正しくこっちの発言を待ってる。ほっぺ突きたくなる。なんの衝動だよぉ~。
「あー、この前、AIに学習させてるって言ってましたよね。それって…あー、なんと言うか…、いずれは、得崎さんが、異動になるって事ですか?」
なんとも歯切れの悪く、要領の悪い質問。
「はい、近い将来そうなります。ココも閉鎖になります。あ、書庫は残りますよ、たぶん。管理は総務部かな」
あはは…と、はにかむように笑ってる。
「閉鎖ッ? 得崎さんしか出来ない仕事だと思いますけど、会社はそんな方針なんですか?」
「そうなりますね。僕しか出来ない仕事じゃないですし。このシステムよく出来てますし…」
パソコン画面を指さされる先に、例の検索画面が表示されていた。
それの土台を作ったのは俺だけど…。みんなで共有できて、最適化されるように構築、提案もする…そんな感じに作りたかった。そんな要望でもあった。
俺が彼の仕事を奪ったって事なのか?
自分自身も仕事場もを追いやられた訳だが…。何やってんだろう…。
「すみません…」
頭を下げてた。
「え? なんで謝るんですか?」
心底驚いてる。ああ、そうか。このシステムは俺が完成させた訳じゃなかった。クレジットにも俺の名前なんてないだろう。
「会社の一員として、なんだか申し訳なくて…。こちらの漠然とした要望に対して、社内の保管資料からもだけど、社外からのデータの拾い方なんて、得崎さんしか出来ないですよ。こんなセンス、AIだって覚えられない…」
「そんな事ないですよ。人の思考なんてパターンです。将棋やチェスだって今じゃ凄いんでしょ? よくは知らないけど。僕の、あ、私の思考パターンなんてありきたりです。最近は『この子』が対応してくえて、資料の電子化が捗ってます」
ニコニコ顔に何も言えなくなった。この人は自分の価値を分かってない。
何も言えずに、退出した。
================
吉田さん、得崎さんの事がなんとなく可愛く感じてます。なにか覚えのある感覚なのに思い出せない。
得崎さんにしたら、変な人だなぁ的な感じでしょうか( ̄▽ ̄;)
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