ココに居ていいですか?

アキノナツ

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16 】良かった。

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 びっくりさせてしまったけど、身体は痛くなってみたいだった。それに楽しいと言ってもくれて…。正直、嬉しい。

 うん、嬉しいッ。
 映画は、一旦横に置いて。本当にお出掛けは楽しかった。行けて良かった。

 ハァ…、楽しかったなぁ…。

 湯船でだらんと浸かりながら、今日の得崎えさきさんを思い返していた。

『ちょっとエッチでしたね。彼女の出てる映画はハズレがないので、あまり内容確認してませんでした』

 観終わった後、モジモジと話してる彼の方が、なんだか色っぽく可愛いかった…。

 ッ! 何を考えてるんだ。
 湯船のお湯を掬い、思いっきりザブザブ顔を洗う。

 ぷふぁ~。
 身体の力を抜いて天井を眺める。

 エンドロールの流れる中、周りは移動してたが、俺たちは大音量の音楽を聴きながら、飲み物の残りを啜っていた。俺も得崎さんも映画の余韻を愉しむ方だったようだ。

 そんな中の得崎さんの言葉だった。
 音に負けないように声を張る訳にもいかないけど、伝えたかったのか、俺の方に身体を寄せて、俺の耳に手を添え『ごめんね』と声を掛けてきた。

 見遣ると、視線をスイッと逸らせて、ゆらゆらとさせながら、モジモジと伝えてくる。
 顔が赤い気がする。
 アクションも興奮する凄い迫力だったから、その所為もあると思う。
 俺もドキドキしてた。字幕も気にならない満足感と迫力のあるアクションで全身が熱く高揚していた。

 映画はハズレではなかった。とても良かったのだ。

 その後の行動は、映画が興奮させた所為だと思う。普段の俺では考えられない行動だったと思いたい。

 彼が動いた。座席に座り直すように肘掛けに乗り上げていた身体が離れて、傾いていた身体が座席に収まる。離れていく…。

 彼の手を掴んだ。衝動的に動いていた。
 グイッと引き寄せて、彼をこちらに向かせた。

「とっても良かったです。謝らないで」

 ハズレじゃなかった。字幕が気にならない映画なんて初めてだった。感動してた。色々と。得崎さんに伝えたい。出て来る言葉が単調で。困る。どう言えばいいんだろう。

「良かった。うん、凄かった。あの螺旋階段から飛んだ時なんて、」声は張ってないけど、興奮して僅かに早口で話してた。顔が近いのに。さっきよりは腕がある分、離れてるけど、もう少し引き寄せたら、さっきのキスシーンのように唇が触れ合えるかもって距離だ。

 驚きに固まっていた得崎さんの表情が、ふわっと笑顔に。その顔に言葉が途切れた。やってしまった。今の状態を客観的に感じて、ドギマギしていた。

 レンズ越しでも綺麗な目…。

「あ、すみません。とにかく良かったんですよ」

 両手で握り締めていた手を慌てて離して、頭をカキカキ、ホルダーに挿していたカップを掴んだ。ストローを咥え最後の残りを吸い込んだ。帰ろうと動く人も多い中、耳障りな音がしたところで気にする人もいないだろう。

 まだ耳の中で銃撃戦の音がしてるようだ。音響も良かった。自分の心臓も波打っている。全身心臓になったようだ。

「ありがとうございます」

 曲が終わり、得崎さんの言葉が耳に届くのと同時に辺りが明るくなった。一瞬くらっとする程の明るさ。
 得崎さんを見れば、笑顔だった。ほっとした。良かった。

 なんだかとっても嬉しい。心が踊ってる。

 風呂から上がって、スマホに通知が来ているのに気づいた。

 得崎さんからだった。

 犬のスタンプがいっぱい。可愛いなぁ…。
 楽しかったのだろう。ポンポン持って踊ってる。

 くふふ…。笑ってしまう。ホント、可愛い人だ。

 黒ぶちメガネで真面目にじっと見てくる表情って、実家で飼ってた愛犬を思い出してたのはナイショ。

 思い出した時は、撫でたくなったんだよ。…アイツはじっとくりっとした目でじっと見上げてきてさぁ…可愛かったんだよなぁ…。

 松村まつむらさんが撫でてたのが、なんとなくモヤッとしたのは、俺が出来ない事をしてたからだと思う。うん、そうだ。きっと、そうだ。

 さて、明日は早いし、もう寝よう。

『楽しかったですね。また何処か行きましょう。おやすみなさい』
 指も軽やかにタップして、スマホを伏せた。






=================


ちょっと接近?( ̄▽ ̄;)

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