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第1話 ある男の死
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僕は川口凛音、ここ静岡で冒険者をしている。
日本平ダンジョンは静岡市にあるレベルBダンジョンで、上層階はそれほど難易度も高くない、はずだった。
「おい、下がれ、下がれって言ってるだろ!」
怒声を上げる斎木さんはシルバー級冒険者で、ここ日本平ダンジョンでは上位者の一人だ。
その斎木さんがみんなに警告を発し、一人アダマンタイトの軽鎧を装備した格好に、ミスリウムのショートソードで前に進んでいく。
反対に、何人もの冒険者が前線から後退して戻ってくる。
「斎木さん……いくらあなたでも」
「お前らブロンズだろ、昼から潜ってたんなら、もうすぐ五時間経つダメだ、下がれ」
「はい、す、すみません」
「いいんだ。こういうときのシルバー級だ。俺は後で来たんで時間もある」
「ご武運を」
ダンジョンの奥のほうでは、無数のキングオーガが暴れており、そして地竜であるアース・ドレイクが道をふさいでいる。
くっ、引くしかないのか、確かに僕たちでは到底勝てまい。
僕たちブロンズの一般冒険者は必死に引き返していく。
しかし、斎木さんは僕たちを逃すために、一人その場に留まっていた。
斎木直樹さんが死んだ、という情報は翌日、正式に告知されていた。
正確には死亡したと推定されると発表されたのだ。
後で調査のため現場に行ったシルバー級の冒険者パーティーが遺留物とみられるアイテムをいくつも発見したという。
当の本人は結局見つからず、その遺留物をもって死亡認定がされた。
アース・ドレイク相手に勝てるとも思えない、というのが冒険者ギルドの見解だ。
冒険者ギルド静岡支部に集まっていた冒険者たちはその知らせを受けて、泣いたり驚いたりしていた。
そして、僕は頭の中が真っ白になっていた。
「あの、斎木さんが……」
高校を卒業し、初心者冒険者だったころからの顔馴染みだった。
いつも気にかけてくれた兄貴分、それが斎木さんだ。
顔は怖いけど、心は優しい人だった。
今年の関連死亡者は全国で十一人目であった。
毎年、百人程度の死亡者が出るとされる。
ドライバーの交通事故に比べれば、大したことはないという意見もある。
しかし、冒険者はドライバーに比べれば全国を足してもずっと少ない。
正確には冒険者になる人は毎年たくさんいる。
しかしその九割以上は一年も持たずにケガをしたり、適性がないとして諦めたりして、辞めていく。
残された人も、ずっと続けるのは難しい体力勝負の仕事だった。
さらに関連産業に転職して現役を引退する人も少なくない。
冒険者は死亡率を見ると、かなり高いことが分かっている。
だから探索者、猟師ハンターでもなく「危険を冒す人」、冒険者と呼ばれてきた。
世界にダンジョンが突如出現しだして二十五年。
今ではダンジョンは都道府県に数個ずつ、全国に二百か所くらいある。
最初の一、二年で全世界に次々と出現して、その後は落ちついている。
どうしてそのようになったのかは、解明されていない。
とにかく斎木さんの死以降、僕はショックから、ずっと実家に引きこもっていた。
そんなニート生活を続けていたある日、朝起きたら体に異変を感じた。
「あれ、なんか背が縮んだ気がする?」
「あ、あれ? なんか声も、高くて、かわいい声に……」
胸もなんとなくある。そして男の重要なブツが……なくなっている。
鏡を見る。
「なんじゃこりゃああ」
女の子になっていた。それも十六歳くらいの美少女も美少女である。
いつも行っている内科の病院に駆け込んだ。
「えっとTS病ですね。ダンジョンができてから、ちょくちょくあります」
「TS病……そんなの」
「それがあるんですよ。珍しいですけどね。最近何か強いストレスとか強力な魔力波とか浴びませんでした?」
「え、いや、あの、斎木さん先輩の冒険者が死んじゃって、それからアース・ドレイクの魔力波なら体感するほど近くで浴びましたけど」
「それですね、はい」
「そうですか。これっていつ治ります?」
「たぶんですが、治らないじゃないですかね」
「そうなんですか」
「はい。体のほうは思ったよりは健康そうです。血液検査の結果も異常値はありません」
「わかりました。あのTS病の薬とか」
「ないですね。自分を受け入れることです。幸い、かわいいですしね」
「そうですね」
うん、自分で言うのもなんだが、理想的なかわいい容姿だった。
男の視線もすごいし、おばちゃんとかもにっこり笑顔を向けてくれる。
髪の毛もロングに伸びてたし。びっくりしたけど、今では受け入れるしかないと思っている。
僕は女の子になっちゃったのだ。
そして、女の子なのを受け入れるため、僕は再び立ち上がった。
ダンジョン配信者として、比較的珍しい女性冒険者として。
ダンジョンの入り口前、そこに空撮ドローンを連れて配信を始めた。
「はーい。はじめまして! 新人配信者リオンのダンジョン配信、なんと第一回目です。みなさん、応援してくださいね」
ぶっちゃけ、元男だろうと、めちゃくちゃ、こんなの、恥ずかしい。
でも僕はこの容姿を生かして活動したい。そしてダンジョンにリベンジ、つまり復讐するんだ。
それにしても、お金がかかる。
以前使っていた防具はサイズが合わなくなって、買いなおしになった。
僕が使っている魔鉄のショートソードはそのまま使えるからよかった。
「防具は革鎧ですね。ブラック・マウスの革で、正直、性能はいまいちですけど、安いんです。はい」
「魔鉄のショートソードは中古品ですね」
「それから、中級治療ポーションは万が一のためですね。これもけっこうお高いです。お財布はもう空っぽです。あはは」
斎木さんのようにすぐ死んじゃわないように、ポーションは保険だ。
無一文ではないが、これでもだいぶ無理をした。
僕は再び、ダンジョンに潜る。まだブロンズ級にすぎないけれど、いつかはシルバー級、そして斎木さんを超えるゴールド級を目指して……。
日本平ダンジョンは静岡市にあるレベルBダンジョンで、上層階はそれほど難易度も高くない、はずだった。
「おい、下がれ、下がれって言ってるだろ!」
怒声を上げる斎木さんはシルバー級冒険者で、ここ日本平ダンジョンでは上位者の一人だ。
その斎木さんがみんなに警告を発し、一人アダマンタイトの軽鎧を装備した格好に、ミスリウムのショートソードで前に進んでいく。
反対に、何人もの冒険者が前線から後退して戻ってくる。
「斎木さん……いくらあなたでも」
「お前らブロンズだろ、昼から潜ってたんなら、もうすぐ五時間経つダメだ、下がれ」
「はい、す、すみません」
「いいんだ。こういうときのシルバー級だ。俺は後で来たんで時間もある」
「ご武運を」
ダンジョンの奥のほうでは、無数のキングオーガが暴れており、そして地竜であるアース・ドレイクが道をふさいでいる。
くっ、引くしかないのか、確かに僕たちでは到底勝てまい。
僕たちブロンズの一般冒険者は必死に引き返していく。
しかし、斎木さんは僕たちを逃すために、一人その場に留まっていた。
斎木直樹さんが死んだ、という情報は翌日、正式に告知されていた。
正確には死亡したと推定されると発表されたのだ。
後で調査のため現場に行ったシルバー級の冒険者パーティーが遺留物とみられるアイテムをいくつも発見したという。
当の本人は結局見つからず、その遺留物をもって死亡認定がされた。
アース・ドレイク相手に勝てるとも思えない、というのが冒険者ギルドの見解だ。
冒険者ギルド静岡支部に集まっていた冒険者たちはその知らせを受けて、泣いたり驚いたりしていた。
そして、僕は頭の中が真っ白になっていた。
「あの、斎木さんが……」
高校を卒業し、初心者冒険者だったころからの顔馴染みだった。
いつも気にかけてくれた兄貴分、それが斎木さんだ。
顔は怖いけど、心は優しい人だった。
今年の関連死亡者は全国で十一人目であった。
毎年、百人程度の死亡者が出るとされる。
ドライバーの交通事故に比べれば、大したことはないという意見もある。
しかし、冒険者はドライバーに比べれば全国を足してもずっと少ない。
正確には冒険者になる人は毎年たくさんいる。
しかしその九割以上は一年も持たずにケガをしたり、適性がないとして諦めたりして、辞めていく。
残された人も、ずっと続けるのは難しい体力勝負の仕事だった。
さらに関連産業に転職して現役を引退する人も少なくない。
冒険者は死亡率を見ると、かなり高いことが分かっている。
だから探索者、猟師ハンターでもなく「危険を冒す人」、冒険者と呼ばれてきた。
世界にダンジョンが突如出現しだして二十五年。
今ではダンジョンは都道府県に数個ずつ、全国に二百か所くらいある。
最初の一、二年で全世界に次々と出現して、その後は落ちついている。
どうしてそのようになったのかは、解明されていない。
とにかく斎木さんの死以降、僕はショックから、ずっと実家に引きこもっていた。
そんなニート生活を続けていたある日、朝起きたら体に異変を感じた。
「あれ、なんか背が縮んだ気がする?」
「あ、あれ? なんか声も、高くて、かわいい声に……」
胸もなんとなくある。そして男の重要なブツが……なくなっている。
鏡を見る。
「なんじゃこりゃああ」
女の子になっていた。それも十六歳くらいの美少女も美少女である。
いつも行っている内科の病院に駆け込んだ。
「えっとTS病ですね。ダンジョンができてから、ちょくちょくあります」
「TS病……そんなの」
「それがあるんですよ。珍しいですけどね。最近何か強いストレスとか強力な魔力波とか浴びませんでした?」
「え、いや、あの、斎木さん先輩の冒険者が死んじゃって、それからアース・ドレイクの魔力波なら体感するほど近くで浴びましたけど」
「それですね、はい」
「そうですか。これっていつ治ります?」
「たぶんですが、治らないじゃないですかね」
「そうなんですか」
「はい。体のほうは思ったよりは健康そうです。血液検査の結果も異常値はありません」
「わかりました。あのTS病の薬とか」
「ないですね。自分を受け入れることです。幸い、かわいいですしね」
「そうですね」
うん、自分で言うのもなんだが、理想的なかわいい容姿だった。
男の視線もすごいし、おばちゃんとかもにっこり笑顔を向けてくれる。
髪の毛もロングに伸びてたし。びっくりしたけど、今では受け入れるしかないと思っている。
僕は女の子になっちゃったのだ。
そして、女の子なのを受け入れるため、僕は再び立ち上がった。
ダンジョン配信者として、比較的珍しい女性冒険者として。
ダンジョンの入り口前、そこに空撮ドローンを連れて配信を始めた。
「はーい。はじめまして! 新人配信者リオンのダンジョン配信、なんと第一回目です。みなさん、応援してくださいね」
ぶっちゃけ、元男だろうと、めちゃくちゃ、こんなの、恥ずかしい。
でも僕はこの容姿を生かして活動したい。そしてダンジョンにリベンジ、つまり復讐するんだ。
それにしても、お金がかかる。
以前使っていた防具はサイズが合わなくなって、買いなおしになった。
僕が使っている魔鉄のショートソードはそのまま使えるからよかった。
「防具は革鎧ですね。ブラック・マウスの革で、正直、性能はいまいちですけど、安いんです。はい」
「魔鉄のショートソードは中古品ですね」
「それから、中級治療ポーションは万が一のためですね。これもけっこうお高いです。お財布はもう空っぽです。あはは」
斎木さんのようにすぐ死んじゃわないように、ポーションは保険だ。
無一文ではないが、これでもだいぶ無理をした。
僕は再び、ダンジョンに潜る。まだブロンズ級にすぎないけれど、いつかはシルバー級、そして斎木さんを超えるゴールド級を目指して……。
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