11 / 17
第11話 長
しおりを挟む
イノシシは解体され、みんなの食料とされた。
残りはジャーキーにされる。
今夜はイノシシ肉の焼いたものが出る予定だ。
あれからしばらく、解体がその場で行われつつ、踊りが続いていた。
運ばれていくイノシシ肉の塊はすごい迫力がある。
それからイノシシの魔石。
動物も例外なく魔石がある。
というか人間にも魔石はある。
人間もゴブリンもみんな広義では魔物なのだ、この世界では。
だから「モンスター」というくくりは人間の都合で決められているに過ぎない。
そういう意味でゴブリンをモンスターに含めるかは、場合による。
人間の中には、ゴブリンを家畜に含めようという意見もある。
教会は「人間はモンスターではなく、選ばれた種族である」としているが、俺たちゴブリンからしたら噴飯物だろう。
教会では人間から魔石を採取することを禁止しており、そもそも人間から魔石が採れることを隠している。
だから一部の人しか知らないのだ、人間もモンスターだと。
イノシシは牙もかなり立派だ。
それから皮も人間に売れるだろうから大事に剥ぐ。
こうしてしばらくイノシシ料理が続くことになる。
イノシシ肉も少し臭いがあるものの、オオカミ肉ほど癖がなく食べやすい。
この個体はメスだったようだ。
オスのイノシシはもう少し臭いという噂だ。
イノシシで盛り上がって一週間くらいしたある日。
長であるベダがどうも調子が悪いらしく、寝込んでいる。
「俺はもうダメだ。長はドルに継がせる」
「あなた」
「ゴホゴホ……」
いきなりそう言う話になった。
ベダの子どもは何人もいたのだが、他の子たちはオオカミに襲われたり、この前のガルのパーティーが全滅したときに、上の兄二人も失った。
一人はメスなので長には通常ならない。
今までも俺は長の息子として、あれをしよう、これをしようと意見を言ってはいた。
ただ本当に長になるつもりはなかったので、びっくりしたのだ。
俺より経験豊富な年長のオスのゴブリンもたくさんいる。他にも適任者はいそうなものだが。
「ドルは賢い。これからは頭の時代だ」
「長、ベダ……」
そこからはあっという間だった。
四日ほど寝込んでいたが、ほとんど食事もせず、そっと息を引き取った。
恒例に従い死亡したゴブリンは、心臓近くにある魔石を取り出す。
この魔石は奥の倉庫で保管される。
ベダの魔石はゴブリンの中でも一番大きいサイズであった。
さぞかし強いゴブリンだったのだろう。
ゲームでいうところのレベルが高いというやつだ。
この世界にはゲームのようにステータスは表示されないが、冒険者ランクのような制度はある。
洞窟の外で穴を掘り、木の枝で囲い、そっと遺体をそこに置いて、火をつける。
「ベダが安らかに眠れますように」
「ベダ」
「おじいちゃん……」
グレアから見たらおじいちゃんに当たる。
今回は遺体が残っていることから、死というものがどういうことなのか、グレアにも分かるようだった。
火をつけて見守っているとき、珍しく涙を流してワンワン泣いていた。
それをみんなは静かに見守る。
ゴブリンである以上、人同様、生まれてくることもあれば、死ぬこともある。
こうして俺は長を継ぐことになった。
「まずは防御力を高める」
「鎧ですね」
「そうだ」
ガルドと商品の打ち合わせをする。
短槍の数を増やし、さらに戦士の人数分に加えて予備も合わせて鎧を購入する。
初心者冒険者が使うような安い革鎧だ。
しかし牙や木槍くらいであれば、十分な防御力を有する。
今までは草の服だったからな。
しかもゴブリン用は小さいので子供用と一緒でそのぶんお安いのだそうだ。
ありがたい。
ガルドに大量に発注して持ってきてもらう。
今回はなるべく早く欲しいので、リーリアを付けた。
リーリアもたまには村に戻って神父に会ったり、何か欲しい物を探したり、息抜きくらいしたいだろう。
「ママ、いない……」
「ママは出張中だよ。すぐ戻ってくる」
「ママ、ママ」
グレアはしきりにママがいないことを気にしていた。
どうもベダが死んでから、いないなら死んでしまったのではないかと考えているのかもしれない。
なんとかみんなでなだめている。
「戻ってきたわよ」
今回は思ったより早かった。
「あっ、まま」
「グレア、いい子にしてた?」
「うんっ」
毎日、洞窟の入口で外を眺めてリーリアを待っていたグレアが飛び出していく。
話を聞くと、どうも以前に、さらに武器防具を欲しいと言ってあったのがよかったらしく、先に注文はしてくれていたそうだ。
それで村の往復だけで済んだ。
「おりゃああ」
「うりゃああ」
「ゴブゴブ」
「グギャギャ」
しばらくゴブリンたちが戦闘訓練をする声が洞窟周辺で聞こえた。
攻撃力も防御力も上げた。
火魔法の棒も増やしてある。
弓矢の訓練も交代でさせている。
こんなに強くしてどうする気だと思うかもしれない。考えがあるのだ。
そのためには強ければ強いほどいい。
それに加えオークの脅威もある。
もちろんワイバーンやドラゴンなども世界を見渡せばいるが、それは例外だろう。不運だと思うほかない。
ガルたちが誰に殺されたか分からないが、ゴブリン五人をあっけなく殺せる相手がどこかにいることは事実なのだった。
残りはジャーキーにされる。
今夜はイノシシ肉の焼いたものが出る予定だ。
あれからしばらく、解体がその場で行われつつ、踊りが続いていた。
運ばれていくイノシシ肉の塊はすごい迫力がある。
それからイノシシの魔石。
動物も例外なく魔石がある。
というか人間にも魔石はある。
人間もゴブリンもみんな広義では魔物なのだ、この世界では。
だから「モンスター」というくくりは人間の都合で決められているに過ぎない。
そういう意味でゴブリンをモンスターに含めるかは、場合による。
人間の中には、ゴブリンを家畜に含めようという意見もある。
教会は「人間はモンスターではなく、選ばれた種族である」としているが、俺たちゴブリンからしたら噴飯物だろう。
教会では人間から魔石を採取することを禁止しており、そもそも人間から魔石が採れることを隠している。
だから一部の人しか知らないのだ、人間もモンスターだと。
イノシシは牙もかなり立派だ。
それから皮も人間に売れるだろうから大事に剥ぐ。
こうしてしばらくイノシシ料理が続くことになる。
イノシシ肉も少し臭いがあるものの、オオカミ肉ほど癖がなく食べやすい。
この個体はメスだったようだ。
オスのイノシシはもう少し臭いという噂だ。
イノシシで盛り上がって一週間くらいしたある日。
長であるベダがどうも調子が悪いらしく、寝込んでいる。
「俺はもうダメだ。長はドルに継がせる」
「あなた」
「ゴホゴホ……」
いきなりそう言う話になった。
ベダの子どもは何人もいたのだが、他の子たちはオオカミに襲われたり、この前のガルのパーティーが全滅したときに、上の兄二人も失った。
一人はメスなので長には通常ならない。
今までも俺は長の息子として、あれをしよう、これをしようと意見を言ってはいた。
ただ本当に長になるつもりはなかったので、びっくりしたのだ。
俺より経験豊富な年長のオスのゴブリンもたくさんいる。他にも適任者はいそうなものだが。
「ドルは賢い。これからは頭の時代だ」
「長、ベダ……」
そこからはあっという間だった。
四日ほど寝込んでいたが、ほとんど食事もせず、そっと息を引き取った。
恒例に従い死亡したゴブリンは、心臓近くにある魔石を取り出す。
この魔石は奥の倉庫で保管される。
ベダの魔石はゴブリンの中でも一番大きいサイズであった。
さぞかし強いゴブリンだったのだろう。
ゲームでいうところのレベルが高いというやつだ。
この世界にはゲームのようにステータスは表示されないが、冒険者ランクのような制度はある。
洞窟の外で穴を掘り、木の枝で囲い、そっと遺体をそこに置いて、火をつける。
「ベダが安らかに眠れますように」
「ベダ」
「おじいちゃん……」
グレアから見たらおじいちゃんに当たる。
今回は遺体が残っていることから、死というものがどういうことなのか、グレアにも分かるようだった。
火をつけて見守っているとき、珍しく涙を流してワンワン泣いていた。
それをみんなは静かに見守る。
ゴブリンである以上、人同様、生まれてくることもあれば、死ぬこともある。
こうして俺は長を継ぐことになった。
「まずは防御力を高める」
「鎧ですね」
「そうだ」
ガルドと商品の打ち合わせをする。
短槍の数を増やし、さらに戦士の人数分に加えて予備も合わせて鎧を購入する。
初心者冒険者が使うような安い革鎧だ。
しかし牙や木槍くらいであれば、十分な防御力を有する。
今までは草の服だったからな。
しかもゴブリン用は小さいので子供用と一緒でそのぶんお安いのだそうだ。
ありがたい。
ガルドに大量に発注して持ってきてもらう。
今回はなるべく早く欲しいので、リーリアを付けた。
リーリアもたまには村に戻って神父に会ったり、何か欲しい物を探したり、息抜きくらいしたいだろう。
「ママ、いない……」
「ママは出張中だよ。すぐ戻ってくる」
「ママ、ママ」
グレアはしきりにママがいないことを気にしていた。
どうもベダが死んでから、いないなら死んでしまったのではないかと考えているのかもしれない。
なんとかみんなでなだめている。
「戻ってきたわよ」
今回は思ったより早かった。
「あっ、まま」
「グレア、いい子にしてた?」
「うんっ」
毎日、洞窟の入口で外を眺めてリーリアを待っていたグレアが飛び出していく。
話を聞くと、どうも以前に、さらに武器防具を欲しいと言ってあったのがよかったらしく、先に注文はしてくれていたそうだ。
それで村の往復だけで済んだ。
「おりゃああ」
「うりゃああ」
「ゴブゴブ」
「グギャギャ」
しばらくゴブリンたちが戦闘訓練をする声が洞窟周辺で聞こえた。
攻撃力も防御力も上げた。
火魔法の棒も増やしてある。
弓矢の訓練も交代でさせている。
こんなに強くしてどうする気だと思うかもしれない。考えがあるのだ。
そのためには強ければ強いほどいい。
それに加えオークの脅威もある。
もちろんワイバーンやドラゴンなども世界を見渡せばいるが、それは例外だろう。不運だと思うほかない。
ガルたちが誰に殺されたか分からないが、ゴブリン五人をあっけなく殺せる相手がどこかにいることは事実なのだった。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる