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イフリートの鎧編
白雪と素質
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大輔はその場から動けずにいた。
ルシアナは見捨てていいと言ったが、大輔に見捨てるという選択肢はなかった。
命を助けてくれた恩人だから、しかし見捨てられない理由はそれだけではない。
一日の短い間で大輔はルシアナを娘の様に感じていたのだ。
俺が守ってやらないと.... 危ない事を背負うのはは大人の役目だ。
しかし、何も持たない俺に何が出来るのだろうか。彼女の様な力も使えない。この刀だってまともに扱える自信がない。
「結局俺に出来るのはルシアナちゃんが目を覚ますのを待つことだけなのか.... 」
「そしてまた彼女をこきつかうわけね」
背筋が震えた。大輔は握っていた刀を無意識に鞘から引き抜き、いつの間にか隣いた女性に構えていた。
白く透き通った肌に、白いワンピース。そしてあの時と同じ満面の笑み。
頭の中で電車のメロディーが流れる。
「あら、久しぶりに会えたのに酷い事をするのね?」
「黙れ!! 俺をここに連れてきて何のつもりだ!」
「ふふ、感情を露にするのはいいけど.... 体は正直なものね。手が震えてるわよ?」
彼女はカタカタと震えている刀を素手で握る。刀が掌に食い込み、血があふれでるがお構いなしに首もとに持ってくると、妖艶に微笑んだ。
「ほら、ここを適格に刺しなさいな。そしたら私の命なんて簡単に奪えるから」
喉に剣先が当たり、ぷつと血が垂れる。
「ヒッ!」
大輔は情けない声をあげ、刀をその場に落とした。
彼女はそれを拾うと、白いワンピースで刀についた血を拭き取る。
「覚悟がないなら最初からしなければいいのに... そういえば自己紹介がまだだったわね。私は白雪。仲間からは白い魔女と呼ばれているわ」
白雪はさてと呟くと、ルシアナに近づき、頬に手を添えた。
「可愛そうに.... 加護を使いすぎたのね。私の魔法で治療させてあげてもいいけど、魔女の魔力なんてこの娘は嫌がるでしょうね」
白雪はルシアナに微笑むと後ろで呆然としてる大輔に視線を移し、途端に表情を変えた。
それは冷たく、見るものを震え上がらせる絶対零度の表情だった。
「ルシアナちゃんがこうなったのは全部貴方のせいよ大輔」
白雪は大輔に歩み寄ると、胸ぐらを掴みあげた。
「貴方が無力だからいけないの。貴方に力がないからルシアナちゃんは倒れたのよ。恥ずかしくないの? 大の大人が幼い女性に助けられるなんて」
違う。俺のせいじゃない、そう言おうとしたが声が震え言葉が口から上手く出ない。
もしや、そいう魔法でもかけられているのか、そう思ったが違った。
大輔は恐怖を抱いていた。一度殺されかけた白雪に絶対なる恐怖が芽生えていたのだ。
「あら、何も言い返せないの? それは認めたってことでいいのよね? 貴方のせいでルシアナちゃんはこうなったって」
違う俺のせいじゃない! 全部お前たち魔女のせいじゃないか。あの人食いの魔女も、木に擬態した化物もさっきのデカイ獣だってきっとそうだ。魔女の毒牙にかかってルシアナちゃんは倒れたんだ。
しかしそれらの言葉はどれも口からでる前に泡のように儚く消えていく。
「ほんと何も言わないのね」
白雪はだったらと呟くと、大輔の耳元に口を近づける。
「ねぇ大輔.... もし私が今ルシアナちゃんを殺すって言ったらどうする?」
囁くその言葉は魔法のようだった。震えが止まり、大輔は力の限り白雪を押し飛ばした。白雪の手元から刀がカランカランと音をたて落ちる。
大輔はそれを拾うと、再び白雪に向けた。
「ふふ、素敵。そいう顔もできるのね」
大輔は獣の様に粗い息をあげ、一歩一歩白雪へと距離を詰める。
その手はもう震えていなかった。
「いいわ大輔。とってもいい! 大切な者を守る為に自分の感情を殺せる.... 貴方には素質があるわ。やはり貴方は私の見込んだ通りの男よ」
白雪は大輔に手を翳すと、紫の光が大輔を包んだ。
「大地に眠る死霊の魂よ精霊を喰らい、我が元に形を示せ!! 磔の魔 !!」
地中から聞こえるは死霊の呻き。大地が盛り上がり、そこから現れ出た無数の骸が大輔の自由を奪っていく。
大輔は刀を振り回し、骸を斬り倒すが、直ぐ様骨が集まり、元の姿を形成すると大輔の足を掴んだ。
「くそ!! 離せ!!」
刀で叩き斬ろうとしたが、背後にいた骸に両手を捕まれ、刀が虚しく落ちた。
「ふふ、大丈夫。痛くはしないから安心して? だって貴方は貴重な人材なんだから」
白雪は大輔に近づき、頬に両手を添える。そして妖艶に微笑むと、顔を近づけ、大輔の口を塞いだ。
「んぐぅ!」
口内に舌が侵入する。ピチャと水滴の音が響く。しかし、淫らな気持ちにはなれなかった。寧ろ吐きそうな不快感。
不快だ! 気持ち悪い!
大輔は貪る白雪の舌に歯を突き立てた。
「痛っ! ふふ、乱暴ね」
大輔は口に広がる彼女の血を唾と一緒にぷっと吐き飛ばし、白雪を睨んだ。
「怖い顔ねぇ。でもいいわ。貴方の素質は十分だとわかったし、それに傷口からの方が魔力も侵入しやすいから」
「ま、魔力! 俺に一体何を.... 」
次の瞬間、大輔の見るもの全てが歪んだ。グニャリと歪な形を見せ、グルグルと回転する。
「もう彼を自由にしていいわよ」
白雪が指を鳴らすと、無数の死霊は砂となり崩れていった。
拘束が解けたことにより大輔は膝からその場に崩れ落ちた。
視界が歪む。意識が崩れ落ちる。
「ルシアナちゃん.... 蓮.... な」
大輔の意識は闇へと沈んだ。
「ふふ、大輔貴方なら大丈夫よ。きっとじゃなくて絶対に。
だって貴方は私の見込んだ男なんだから。
貴方なら絶対にイフリートの力を手に入れる事が出来るわ」
ルシアナは見捨てていいと言ったが、大輔に見捨てるという選択肢はなかった。
命を助けてくれた恩人だから、しかし見捨てられない理由はそれだけではない。
一日の短い間で大輔はルシアナを娘の様に感じていたのだ。
俺が守ってやらないと.... 危ない事を背負うのはは大人の役目だ。
しかし、何も持たない俺に何が出来るのだろうか。彼女の様な力も使えない。この刀だってまともに扱える自信がない。
「結局俺に出来るのはルシアナちゃんが目を覚ますのを待つことだけなのか.... 」
「そしてまた彼女をこきつかうわけね」
背筋が震えた。大輔は握っていた刀を無意識に鞘から引き抜き、いつの間にか隣いた女性に構えていた。
白く透き通った肌に、白いワンピース。そしてあの時と同じ満面の笑み。
頭の中で電車のメロディーが流れる。
「あら、久しぶりに会えたのに酷い事をするのね?」
「黙れ!! 俺をここに連れてきて何のつもりだ!」
「ふふ、感情を露にするのはいいけど.... 体は正直なものね。手が震えてるわよ?」
彼女はカタカタと震えている刀を素手で握る。刀が掌に食い込み、血があふれでるがお構いなしに首もとに持ってくると、妖艶に微笑んだ。
「ほら、ここを適格に刺しなさいな。そしたら私の命なんて簡単に奪えるから」
喉に剣先が当たり、ぷつと血が垂れる。
「ヒッ!」
大輔は情けない声をあげ、刀をその場に落とした。
彼女はそれを拾うと、白いワンピースで刀についた血を拭き取る。
「覚悟がないなら最初からしなければいいのに... そういえば自己紹介がまだだったわね。私は白雪。仲間からは白い魔女と呼ばれているわ」
白雪はさてと呟くと、ルシアナに近づき、頬に手を添えた。
「可愛そうに.... 加護を使いすぎたのね。私の魔法で治療させてあげてもいいけど、魔女の魔力なんてこの娘は嫌がるでしょうね」
白雪はルシアナに微笑むと後ろで呆然としてる大輔に視線を移し、途端に表情を変えた。
それは冷たく、見るものを震え上がらせる絶対零度の表情だった。
「ルシアナちゃんがこうなったのは全部貴方のせいよ大輔」
白雪は大輔に歩み寄ると、胸ぐらを掴みあげた。
「貴方が無力だからいけないの。貴方に力がないからルシアナちゃんは倒れたのよ。恥ずかしくないの? 大の大人が幼い女性に助けられるなんて」
違う。俺のせいじゃない、そう言おうとしたが声が震え言葉が口から上手く出ない。
もしや、そいう魔法でもかけられているのか、そう思ったが違った。
大輔は恐怖を抱いていた。一度殺されかけた白雪に絶対なる恐怖が芽生えていたのだ。
「あら、何も言い返せないの? それは認めたってことでいいのよね? 貴方のせいでルシアナちゃんはこうなったって」
違う俺のせいじゃない! 全部お前たち魔女のせいじゃないか。あの人食いの魔女も、木に擬態した化物もさっきのデカイ獣だってきっとそうだ。魔女の毒牙にかかってルシアナちゃんは倒れたんだ。
しかしそれらの言葉はどれも口からでる前に泡のように儚く消えていく。
「ほんと何も言わないのね」
白雪はだったらと呟くと、大輔の耳元に口を近づける。
「ねぇ大輔.... もし私が今ルシアナちゃんを殺すって言ったらどうする?」
囁くその言葉は魔法のようだった。震えが止まり、大輔は力の限り白雪を押し飛ばした。白雪の手元から刀がカランカランと音をたて落ちる。
大輔はそれを拾うと、再び白雪に向けた。
「ふふ、素敵。そいう顔もできるのね」
大輔は獣の様に粗い息をあげ、一歩一歩白雪へと距離を詰める。
その手はもう震えていなかった。
「いいわ大輔。とってもいい! 大切な者を守る為に自分の感情を殺せる.... 貴方には素質があるわ。やはり貴方は私の見込んだ通りの男よ」
白雪は大輔に手を翳すと、紫の光が大輔を包んだ。
「大地に眠る死霊の魂よ精霊を喰らい、我が元に形を示せ!! 磔の魔 !!」
地中から聞こえるは死霊の呻き。大地が盛り上がり、そこから現れ出た無数の骸が大輔の自由を奪っていく。
大輔は刀を振り回し、骸を斬り倒すが、直ぐ様骨が集まり、元の姿を形成すると大輔の足を掴んだ。
「くそ!! 離せ!!」
刀で叩き斬ろうとしたが、背後にいた骸に両手を捕まれ、刀が虚しく落ちた。
「ふふ、大丈夫。痛くはしないから安心して? だって貴方は貴重な人材なんだから」
白雪は大輔に近づき、頬に両手を添える。そして妖艶に微笑むと、顔を近づけ、大輔の口を塞いだ。
「んぐぅ!」
口内に舌が侵入する。ピチャと水滴の音が響く。しかし、淫らな気持ちにはなれなかった。寧ろ吐きそうな不快感。
不快だ! 気持ち悪い!
大輔は貪る白雪の舌に歯を突き立てた。
「痛っ! ふふ、乱暴ね」
大輔は口に広がる彼女の血を唾と一緒にぷっと吐き飛ばし、白雪を睨んだ。
「怖い顔ねぇ。でもいいわ。貴方の素質は十分だとわかったし、それに傷口からの方が魔力も侵入しやすいから」
「ま、魔力! 俺に一体何を.... 」
次の瞬間、大輔の見るもの全てが歪んだ。グニャリと歪な形を見せ、グルグルと回転する。
「もう彼を自由にしていいわよ」
白雪が指を鳴らすと、無数の死霊は砂となり崩れていった。
拘束が解けたことにより大輔は膝からその場に崩れ落ちた。
視界が歪む。意識が崩れ落ちる。
「ルシアナちゃん.... 蓮.... な」
大輔の意識は闇へと沈んだ。
「ふふ、大輔貴方なら大丈夫よ。きっとじゃなくて絶対に。
だって貴方は私の見込んだ男なんだから。
貴方なら絶対にイフリートの力を手に入れる事が出来るわ」
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