墓守り令嬢と死にたがりの吸血鬼

甘寧

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プロローグ

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 墓守とは──

 主に墓の管理や維持を任されている者のことを言う。安らかに眠れるよう、墓地の掃除は当たり前。暗いイメージを払拭する為に花を植えるのもいいが、一番重要なのが、墓が荒らされないようにする見張ること。

 この国は、あまり治安がいいとは言えない。貴族達で賑わう華やかな通りから一歩裏に入れば、そこは暴力や恐喝は当たり前。道の端では、物乞いや売春婦が今日の相手を探している。

 毎日が命懸け。そんな毎日から抜け出したい者は多数いるが、物乞いから貴族に成り上がるのなんて、雲の上を掴むようなもの。せめて、金があれば…!そう思う者も少なくない。

 ある時、一人の男が貴族の墓を荒らした。その動機は、貴族に対する恨みや妬み…もしくは、単純に興味本位だったと思う。だが、一度蓋を開ければ、そこには一生かけても自分が手にする事が出来ない程の宝飾品を身に纏った骸があった。

 そこからは早かった。話を聞いた者達が墓を荒らし始めたのだ。毎夜毎夜、現れては墓を掘り起こし棺の中の金品を奪っていく。

 死んだ人間を着飾るより、生きた人間が生きる為に使った方が有意義だ。そう力強く述べた者もいた。

 その通りだと思うが、この世の全員が同じ考えかと言われればそうでは無い。現に、この国の貴族は自分主義者ばかり。弱い者を助けようという者はいない。

 そんな経緯で、墓守りなんてものが出来たのだが、一概に墓守りと言っても簡単なものでは無い。
 荒らす方も守る方も命懸けの仕事。それに加えて、森と墓に囲まれた薄気味悪い教会に一人で住まなければならい。

 そんな折、前任の墓守りが亡くなり、継ぎを選ばなくてはいけなくなった。

「墓は守りたいが…」
「あんな不気味な所に行くなど、私には無理だ!」

 いくら金を積まれてもやりたくないと言う者が殆どの中、手を挙げた者がいた。

 それがアリアネの父、リンスキー伯爵だった。

「うちに相応しい娘がおります」

 ニヤッと口角を吊り上げて言った。


 ***


 リンスキー伯爵家の長女として生まれたアリアネだったが、生まれたばかりの我が子を抱いた母から聞こえたのは喜びの言葉でも祝いの言葉でもなく、悲鳴に近い叫び声だった。

 リンスキー夫妻はどちらも明るい髪の色をしているが、生まれたばかりの子は薄暗い髪色。更に、小さな瞳は両方で色が違った。片方は父の瞳の色である翡翠の様な緑色だったが、もう片方は血で染めたように赤い瞳だった。

「こ、この子は悪魔の子だわ!」

 母は生まれたばかりのアリアネを投げ捨てるように産婆に渡すと、それ以降アリアネの姿を見るとパニックを起こすようになった。父からは母を追い詰めた悪魔だと虐げられ、離れで暮らすことを命じられた。
 両親からの愛情は一切なく、身の回りの世話をしてくれる者も乳母のクレア一人だけ。
 そのクレアもいなくなり、たった一人で離れ暮らしていたが、突如墓守りを命じられた。

「ようやくお前が役に立つ時が来た」

 要は厄介払いさせられただけだが、父が初めて見せた喜ぶ顔は、素直に嬉しかった。

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