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吸血鬼、ヴァンパイア、ドラキュラ…様々な言い方があるが、大抵の者は『化け物』そう呼ぶ。
「最近、吸血鬼の被害が続出しているとは聞いてましたけど…」
まさか、こんな身近で事が起こるなど予想していなかった。
アリアネ自身、吸血鬼本人をこの目で見るのは初めてだったが、不思議と恐怖はなかった。
月明かりの下、血を啜る現場を目撃すればトラウマになってもおかしくない。そうならなかったのは、あの人の瞳が何故か、思い詰めたように悲しげに見えたからかもしれない。
「……」
窓から見える月を眺めながら、アリアネは眠りについた。
***
『……リネ……』
(ん?)
『…アリア……ろ……』
(誰かの声が…)
『アリアネ!!起きろ!死にたくなければな!』
耳からではなく、脳に直接響く声に「はっ!」と目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、馬乗りになる先程会ったばかりの吸血鬼。その様子は、息が荒く目が血走っている。完全に捕食圏内にいる状態。
「あらあら…おかわりがご所望でしたの…?」
額に汗を滲ませ、引き攣る顔で精一杯平常心を装った。
そう言えば、今日は満月だったことを思い出した。満月の夜は吸血鬼ら魔の者が活発になると言われている。そんな者に力で勝てるはずがない。
チラッと視線を向けたのは、唯一の武器である鎌の場所。いつもはベッド脇に置いておくが、今日に限ってドア近くに立て掛けてある。
(最悪な状況ですこと…)
もう笑うしかなく、苦い笑みを浮かべた。
「ふ-…ふ-…」と荒い息が近付いてくる。
一食分の血は摂取済み。上手く行けば致死量まで摂られずに済むかもしれない。
アリアネは覚悟を決めたように、大きく息を吐いた。
「分かりました。これも運命、受け入れましょう。美味い不味いの文句は受け付けませんので、予めご了承ください」
そう言うと、アリアネは白く透明感のある首筋を「どうぞ」とさらけ出した。
男は大きく口を開けると、鋭く光る牙が目に入る。
言ってしまった手前、今更命乞いはしない。だが、あんな牙が肌に食い込むと思うと、多少なりの恐怖心が芽生えてしまう。
アリアネはギュッと目を瞑り、襲い来る痛みを迎え入れる準備をしたが、聞こえたのは「スパーンッ!!」と何かを激しく打ち付ける音。
「~~ッ痛…」
驚いたアリアネが見たのは、自分の頬を自分で殴りつけ、痛みに悶絶している男だった。
「えっと~…これは一体…?」
戸惑うアリアネに、男は「す、すまない」と一言。
「怖がらせるつ、つもりはなかったんだ。き、君に頼みがあって来た」
荒ぶる血を抑えようと、必死に抗っているのが分かる。それでも、耐えれなくなってくると「バチンッ!」と再び自身を殴りつけて自我を保とうとしている。
「ちょ、大丈夫ですの!?そこまでして私に何の用です!?」
これは早いとこ要件を聞かなければ、顔が二倍ぐらいに膨れ上がりそうだ。
「君、魔力持ちだろ?」
「──え」
「その瞳、魔力持ちの証だ。片方だけだが、力はそこそこある」
男の言葉にアリアネの胸は早鐘を打っている。
(眼帯…外していたのが仇になりましたか…)
この男の言う通り、アリアネは魔力持ち。その事を知ったのは、ヘレンからの言葉
「お嬢様のこの瞳は特別なものです。決して他の者に見られてはいけませんよ?」
「どうして?」
「お嬢様のお爺様やお祖母様よりもずっと前…ご先祖様にとても強い力を持った方がおりました。お嬢様はその力を受け継いでおるのです」
今も昔も魔力持ちというのは忌み嫌われる存在。当時のご先祖様も例外ではなく、相当当たりは強かったらしい。ただ、アリアネと決定に違うのは、家族が自分の存在を認めて愛してくれたという事…
「…ご先祖様は、狡いですわ…」
こんな力、望んでいなかった。平凡でいい、両親に愛されたかった。「生まれてきてくれてありがとう」そう言われたかった。
自分だけ愛されて育った知りもしないご先祖を恨んだ。泣きそうになり、顔を顰めるアリアネをヘレンが抱きしめた。
「ヘレンはお嬢様を愛しておりますよ。私の可愛い可愛いお嬢様。どうか、ご自身を…ご先祖様を恨まないでください」
その言葉と温もりに救われた。
まさか、こう言った状況で魔力持ちだとバレる事になろうとは思いもしなかったが…
「…知られてしまったからには、否定はしません」
「潔いいね」
「否定したところで、納得するとは思えませんもの」
「賢明な判断だ」
苦しそうに笑う男を見て、アリアネは困惑を深めた。
魔力持ちの女なんて、この人からしたらご馳走に違いない。それをみすみす逃してまで頼みたい事なんて一体…
「さて、そろそろ本題にいこうか。…僕もいい加減限界だ」
アリアネはゴクッと唾を飲み込んだ。
「頼む…僕を殺してくれ」
そう懇願した。
「最近、吸血鬼の被害が続出しているとは聞いてましたけど…」
まさか、こんな身近で事が起こるなど予想していなかった。
アリアネ自身、吸血鬼本人をこの目で見るのは初めてだったが、不思議と恐怖はなかった。
月明かりの下、血を啜る現場を目撃すればトラウマになってもおかしくない。そうならなかったのは、あの人の瞳が何故か、思い詰めたように悲しげに見えたからかもしれない。
「……」
窓から見える月を眺めながら、アリアネは眠りについた。
***
『……リネ……』
(ん?)
『…アリア……ろ……』
(誰かの声が…)
『アリアネ!!起きろ!死にたくなければな!』
耳からではなく、脳に直接響く声に「はっ!」と目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、馬乗りになる先程会ったばかりの吸血鬼。その様子は、息が荒く目が血走っている。完全に捕食圏内にいる状態。
「あらあら…おかわりがご所望でしたの…?」
額に汗を滲ませ、引き攣る顔で精一杯平常心を装った。
そう言えば、今日は満月だったことを思い出した。満月の夜は吸血鬼ら魔の者が活発になると言われている。そんな者に力で勝てるはずがない。
チラッと視線を向けたのは、唯一の武器である鎌の場所。いつもはベッド脇に置いておくが、今日に限ってドア近くに立て掛けてある。
(最悪な状況ですこと…)
もう笑うしかなく、苦い笑みを浮かべた。
「ふ-…ふ-…」と荒い息が近付いてくる。
一食分の血は摂取済み。上手く行けば致死量まで摂られずに済むかもしれない。
アリアネは覚悟を決めたように、大きく息を吐いた。
「分かりました。これも運命、受け入れましょう。美味い不味いの文句は受け付けませんので、予めご了承ください」
そう言うと、アリアネは白く透明感のある首筋を「どうぞ」とさらけ出した。
男は大きく口を開けると、鋭く光る牙が目に入る。
言ってしまった手前、今更命乞いはしない。だが、あんな牙が肌に食い込むと思うと、多少なりの恐怖心が芽生えてしまう。
アリアネはギュッと目を瞑り、襲い来る痛みを迎え入れる準備をしたが、聞こえたのは「スパーンッ!!」と何かを激しく打ち付ける音。
「~~ッ痛…」
驚いたアリアネが見たのは、自分の頬を自分で殴りつけ、痛みに悶絶している男だった。
「えっと~…これは一体…?」
戸惑うアリアネに、男は「す、すまない」と一言。
「怖がらせるつ、つもりはなかったんだ。き、君に頼みがあって来た」
荒ぶる血を抑えようと、必死に抗っているのが分かる。それでも、耐えれなくなってくると「バチンッ!」と再び自身を殴りつけて自我を保とうとしている。
「ちょ、大丈夫ですの!?そこまでして私に何の用です!?」
これは早いとこ要件を聞かなければ、顔が二倍ぐらいに膨れ上がりそうだ。
「君、魔力持ちだろ?」
「──え」
「その瞳、魔力持ちの証だ。片方だけだが、力はそこそこある」
男の言葉にアリアネの胸は早鐘を打っている。
(眼帯…外していたのが仇になりましたか…)
この男の言う通り、アリアネは魔力持ち。その事を知ったのは、ヘレンからの言葉
「お嬢様のこの瞳は特別なものです。決して他の者に見られてはいけませんよ?」
「どうして?」
「お嬢様のお爺様やお祖母様よりもずっと前…ご先祖様にとても強い力を持った方がおりました。お嬢様はその力を受け継いでおるのです」
今も昔も魔力持ちというのは忌み嫌われる存在。当時のご先祖様も例外ではなく、相当当たりは強かったらしい。ただ、アリアネと決定に違うのは、家族が自分の存在を認めて愛してくれたという事…
「…ご先祖様は、狡いですわ…」
こんな力、望んでいなかった。平凡でいい、両親に愛されたかった。「生まれてきてくれてありがとう」そう言われたかった。
自分だけ愛されて育った知りもしないご先祖を恨んだ。泣きそうになり、顔を顰めるアリアネをヘレンが抱きしめた。
「ヘレンはお嬢様を愛しておりますよ。私の可愛い可愛いお嬢様。どうか、ご自身を…ご先祖様を恨まないでください」
その言葉と温もりに救われた。
まさか、こう言った状況で魔力持ちだとバレる事になろうとは思いもしなかったが…
「…知られてしまったからには、否定はしません」
「潔いいね」
「否定したところで、納得するとは思えませんもの」
「賢明な判断だ」
苦しそうに笑う男を見て、アリアネは困惑を深めた。
魔力持ちの女なんて、この人からしたらご馳走に違いない。それをみすみす逃してまで頼みたい事なんて一体…
「さて、そろそろ本題にいこうか。…僕もいい加減限界だ」
アリアネはゴクッと唾を飲み込んだ。
「頼む…僕を殺してくれ」
そう懇願した。
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