5 / 46
5
しおりを挟む次の日、父様と一緒に登城した。
「セルヴィロ嬢、わざわざすまなかったな」
「いえ。滅相もありません」
まずは陛下に挨拶だ。
「どうも息子は、セルヴィロ嬢の噂を耳にしていたらしくてな」
「噂ですか?」
「ああ。セルヴィロ家の令嬢は、聡明で美しい。しかも剣の腕前は騎士より強く、剣を振るう姿は戦の女神のようだ。とな」
なんだその噂?
私の耳には一度も入っていてきない。
「噂は所詮噂です。真意の分からぬうちは、あまり本気にしない方がよろしいかと」
噂を本気にしてると痛い目を見る。
そんな奴を何人も見てきたからな。
「あははは!そうだな。しかし、聡明なのは確からしいな。アルティエロは鼻が高かろう」
「はい。ミレーナは常日頃剣術や書斎を漁っては、様々なことを学んでおります。親としては、もう少し年相応に育って欲しかった部分もありますが、今思えばそれも個性。私の娘はどこに出しても恥ずかしくない、自慢の娘でございます」
そんな風に思っていたのか。
まぁそうだろうな、子供のくせに口だけは達者だったからな。
「うんうん。セルヴィロ嬢が私の娘になってくれると言うならば、そんな嬉しいことは無い。しかし、こればかり双方の気持ち次第。無理強いはしたくはない」
私は王妃になるつもりなど毛頭ない。
「息子は自室にいるはずだ、部屋まで送らせよう」
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
騎士の一人が出てきた。先導してくれるらしい。
「それでは、陛下。失礼致します」
「ああ。いつでも訪ねてくるといい」
一礼し、騎士の後をついて行く。
※
コンコン
「殿下、セルヴィロ嬢をお連れしました」
「……入れ」
「失礼します」
扉を開けてもらい、殿下の部屋へと招かれた。
「初めまして殿下。私セルヴィロ家の長女ミレーナ・セルヴィロと申します」
「私はこの国の第一王子アレッシオ・カルネラだ。今日は呼び出して、すまなかった」
「いえ。とんでもございません」
一礼し、挨拶をすませ、ソファへと足を運んだ。
「セルヴィロ嬢の噂をよく耳にしてな。一度会ってみたかったのだ。ロベルトにも散々言ったのだが、会わせてくれなくてな」
そういえば、殿下と兄様は同い歳。
学園でも同じクラスだったはずだ。
「あいつは妹のことを自慢するくせに、会わせようとは絶対しない」
「私は、自慢するほどの妹ではありませんよ」
──噂の根源は兄様か。
「それに、噂は所詮噂に過ぎません。殿下はこれから、この国を守っていく身。噂に惑わされてはいけません」
「ああ、分かっている。だから直接本人を呼び出したのだ」
なるほど、真意を確かめる為の呼び出しか。
「では、噂は間違いだと改めてください。このままでは、噂ばかりが先行してしまいます」
「イヤ、噂は間違ってなどいなかった。そなたは美しく聡明だと見受けられる」
「外見はともかく、少し話した位で結論を出すのは如何なものかと思いますが?」
「イヤ。王子の私に媚びを売らない女など初めてだ。それも悪い噂でなく、いい噂なのに、その噂を改めろとまで言う」
──この流れはまずいな。
「単刀直入に言う。私の婚約者になってはくれないだろうか?」
──やっぱり
「殿下、私は父様と婚約者について決まり事があります」
「なんだ?」
「私の婚約者は、私自身で見つける。というものです。ですので、殿下の申し入れは大変嬉しく思いますが、これから先出会いは山のようにあります。その出会いの中で、私が好いた男性と婚約したいと思っております」
「……なるほどな」
これで諦めてくれるのならばいいのだが。
「では、セルヴィロ嬢の出会いの中に、私も含まれたということになるな?」
「あっ。そう……なりますね」
しまった。ドジを踏んだ。
今さら言ってしまったことに、取り消しはきかない。
「私も、セルヴィロ嬢の婚約者候補の一人と言う訳か」
「殿下にも出会いの場は沢山あります。私との出会いなど、すぐに忘れますよ」
そう。来年にはヒロインが登場する。
そして、ヒロインと結ばれるのだから。
──私は殿下と婚約などしない。
58
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい
真咲
恋愛
主人公ライナスを学生時代にいびる悪役令嬢、フェリシアに転生した。
原作通り、ライナスに嫌味を言っていたはずだけど。
「俺、貴族らしくなるから。お前が認めるくらい、立派な貴族になる。そして、勿論、この学園を卒業して実力のある騎士にもなる」
「だから、俺を見ていてほしい。……今は、それで十分だから」
こんなシーン、原作にあったっけ?
私は上手く、悪役令嬢をやれてるわよね?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる