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第12話

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「ご機嫌よう。アルエさん」

私の目の前には、上品に微笑んでいるエリーザがいた。

何故エリーザが……?

私は今この状況が上手く呑み込めずにいた。
母は「こんな可愛らしいお嬢様といつの間にお友達になっていたの?」と嬉しそうにエリーザを私の部屋に案内するように言ってきた。

──母よ、分不相応って言葉しているかい?

侯爵令嬢のエリーザを私の部屋に案内しろと?
あんな小汚い部屋に!?
勘違いされては困るけど、掃除はちゃんとしているからね。気持ち的にね。
侯爵令嬢を平民の部屋に案内出来るわけないだろ。

しかし、店で話する訳にも行かないし……

「アルエさんの部屋に案内して頂けるの?それは嬉しいわ……」

エリーザは頬に手を当て、頬を赤らめていた。

エリーザがいいならいいけど……って事で、私の部屋に案内した。

部屋に入るなりエリーザは部屋の中をキョロキョロと見渡し興味津々。
まあ、貴族が平民の部屋に入る事なんて一生の内一度あるかないかの出来事だもんな。

「すみません。私の部屋にはテーブルも長椅子もないので、ベッドの上に座ってください」

机と椅子はあるけど、こんな硬い椅子に座らせる訳にもいかず、ベッドを軽く整えてからエリーザに座るよう促した。
人の寝ている場所に座るのは抵抗がいるかな?とおもっていたが

「まあ!!いいんですの!?……ここに毎日アルエさんが……」

思った以上に好反応。
しかも、何やら不穏な言葉が聞こえたような気がした……

私も椅子に腰掛け、エリーザと向かい合った。

「それで、エリーザ様は私に何の御用があるのですか?」
「『様』なんて敬称は要りませんわ。エリーザと呼んでちょうだい」
「いえ、そう言う訳にはいきません」
「そんな他人行儀な敬語も要りませんわね」

……この人、面倒臭い!!話も噛み合わない!!
リリアンがどれだけ楽だったか思い知らされる。

「……あの、エリーザ様は何か用があって来たのではないんですか?あっ、パンを買いに来たとか!?」
「あら、用がなきゃ会いに来てはダメかしら?」

……何言ってんだこの人……?
普通、用がなきゃ平民の所に来ないよね?

リリアンは例外。あの人は特例だ。

「ふふっ。冗談よ。この間のお詫びに伺いましたの」

……この間……?

──あぁ、夜会の件か!!

リリアンとエリーザが言い争ってルカリオが止めに入ってくれた事件。
あの時、リリアンはルカリオが抱いてくれたけど、エリーザはどうしたのか気にはなっていたんだよね。

「い、いえ、お詫びされる事なんてしてないです!!むしろ、あれからエリーザ様が大丈夫だったかな?って心配してたとこです」
「まあ!!私の心配をしてくださったの!?」

エリーザは私が心配していたのが余程嬉しかったのか、私の手を取って歓喜した。

「アルエさんはお優しいのね」
「いや、普通……だと思いますよ?」

前々から思ってたけど、この人距離感おかしくない!?

「……あの、その、手を……」

──離してくれませんか?

エリーザの手を解こうとしているが、その都度掴まれる。

相変わらずエリーザは表情を崩さない。
誰か助けてくれ!!と思った、その時──……

バンッ!!

勢いよくドアが開かれ、鬼の形相のリリアンが立っていた。

(助かった……)

そう思ったのも束の間。

「あらぁ?ヴェロニク侯爵家のご令嬢がこんな所に何の用かしら?」

──こんな所で悪かったな。
こちとら18年ここに住んでるんですけど?

「あら、貴方………………………どちら様?」
「リリアンよ!!エンバース家の娘よ!!この間夜会で会ったでしょ!?」
「あぁ~、あの時の……ごめんなさい。私興味のない方の顔を覚えるのは不得意で……」

しまった……この二人は塩素タイプと酸性タイプだった。要は混ぜるな危険。

「へぇ~、エリーザ様は物覚えが悪いのね」

「意外」とクスクス嫌味たらしくリリアンが言えば……

「私は不必要なものは覚えない主義ですの。そんなものに時間を費やすほど暇じゃないので……あぁ、リリアン様は暇を持て余しているのですね」

「羨ましいこと」とこちらもクスクスしながら反撃。
リリアンは顔を真っ赤にして言い返せないでいる。

……リリアンよ、相手が悪い。
口喧嘩じゃエリーザの方が1枚上手だ。

(もぉ~、これじゃさっきの方がマシだったよ)

「──ふんっ。まあ、いいわ。私はアルエに用があるの。席を外してくださる?」
「何を訳の分からないことを……私が先客だと言うことをお忘れかしら?順序というものも分からないのかしら?」
「何ですって!?」

──誰でもいいから助けてくれ!!




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