崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧

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結末

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 目が覚めたのは次の日の昼近くだった。

「おはよう」
「……おはよう」

 隣にいたティルと目が合う。何となく気恥ずかしくて、顔を隠してしまう。

(ああ、私、昨日……)

 思い出すのは、ティルの余裕のない表情に乱れた姿。それが嬉しくて何とも言えない幸せな時間だった。

「どうした?そんなもの欲しいそうにして…足りなかったか?」

 布団を被りながら一人で幸せを噛みしめていたら、頭上からそんな言葉がかかり「んなッ!?」と勢いよく頭を上げた。その拍子に布団がずり落ち、全身丸見えの状態。

「おお、これは絶景……」

 自分が服を着ていない事を完全に忘れていた。

「~~~~~ッ!!!!!!」

 慌ててティルの布団を奪い、ダンゴムシのように丸くなる。「あははは」と笑う声が聞こえるが、こちらは恥しくて穴があったら入りたい。

「ごめんごめん。ほら、可愛い顔を見せて?」

 優しく諭され、ゆっくりと顔を出した。

「ふっ」

 目が合った瞬間、唇を塞がれた。甘くて優しいキス…変な気分になっちゃいそう…

 蕩けた顔で見上げると、ティルがゴクッと喉を鳴らした。ティルは、リディアを覆い被さるようにして見下ろしている。完全にスイッチが入ってしまったようで、リディアは「待って」と声をかけるが、聞き入れてくれる様子は無い。

「リディア…愛してる」

 ティルの甘い声が、リディアの思考を麻痺させる。もういいか…そうやり投げになった所で「おい」と低い声が聞こえた。

「いくら若いからって、いい加減にしろ。続きは自分の屋敷に戻ってからやってくれ」

 扉にもたれ掛かるように腕を組み、呆れ顔のヴェルナーがこちらを見つめていた。

「キャァ!!」

 リディアは顔を真っ赤にしながら、再び布団の中へ。ティルは舌打ちしながら「いい所だったのに」とボヤいていたが、ヴェルナーに一喝されて、大人しくなっていた。

「無事に気持ちを伝えれたのなら良かったよ。正直、私の出番は要らなかったように思えるが…まあ、国王あいつの頼みだったからな」

 どうやら自分の気持ちに気がついておきながら、事に及ばないティルに陛下が業を煮やした結果だったらしい。今回の件は、陛下の拳の上で踊らされたようだ。

 なんと言うか…流石だ。としか言葉が出ない。

「ティルフォート、もう手を離してはいけないよ?次、離したら今度こそ本気で私が貰う」

 釘を刺す様に言われるが、ティルは顔色一つ変えずに微笑んだ。

「もう二度と離しませんよ」





 ***




「そうかそうか、収まるところに収まったと言うことじゃな」

 屋敷に戻って早々にやって来たのは、元凶の始まりであるレウルェの所。

 事の顛末を話して聞かせたが、結末を見透されていたように驚く事もしないので、話した方からすれば面白くない。

「少しは驚いても良くない?」
「なぁに、我は分かっておったからの。驚く意味が無い」

 まあ、相手は精霊様だからと言われたらそれまでなんだが…

(なんか、面白くない)

 眉間に皺を寄せていると「時に」とレウルェが神妙な顔で口を開いた。

「そなたの印は消えたじゃろ?」
「ええ、昨日確認したら、しっかり消えていたわ」

「ようやく自由よ」とスカートを巻くし上げて、太腿を見せた。

「ん?」
「おや」

 確かに咲いていた赤い花の蕾は無くなっていた。
 その代わりに、青い蕾がプックリ膨れている。

「な、な、な、なッ!?!?!?」

 あまりの状況に言葉が出てこず、顔面蒼白になるばかり。

「あははッ!!すまん、どうやら契約を二段階仕様でかけていたようじゃ。そなたがあまりにも色気がなかった故に我自身も不安だったのじゃろう。無意識の内に掛けておったようじゃ」
「はぁ!?」
「この印は子供が出来た時に消える。子種を一度注いだだけでは子が成せるか分からぬからの」

 いや、まあ、それはそうだが……

「まあ、精々励めよ」

 ニヤッと不敵に笑みを浮かべるレウルェ。完全に他人事だ。リディアは怒りと動揺で体を震わせていた。






 その後──

 ティルと身体の関係を持ってしまったリディアは、婚約をすっ飛ばし婚姻を済ませた。

 色々嫌味や陰口を言う者も多かったが、その度にティルが言い負かせてくれた。とても頼りになる旦那様だ。

 リディアが王家に嫁いでしまい、ベルフォート家は没落…という訳ではなく、王家預かりと言う異例の対策が取られた。リディアの子が引き継ぐ際、円滑に引き継げる様にと言う事らしい。

「……跡継ぎ……最低二人は欲しいって事よね……」

 王族の仲間入りを果たしたリディア。当然、世継ぎ問題がある。レウルェとこの国を護るためにも、ベルフォート家に跡継ぎが必要。この時点で二人は欲しい。

 頭を悩ませているリディアに、ティルはそっと肩に手を回した。

「じゃあさ、今からつくる?」
「ッ!!」

 耳元で囁かれ、ボンッと真っ赤に染まった。

 ──数年後、王族では歴代で一番の子沢山になったのは言うまでもない。
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