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悪役令嬢をシミュレーションすべし

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リリーはどうやって自身の屋敷まで戻ってきたのか分からないほど混乱していた。

対象者であるアバンはシルビアの事をなんとも思っていない。更シルビアには既に想い人がいるという事実がどうにも理解出来ないでいた。

アバン曰く、確かにシルビアには助けられた恩はあるがそれが恋慕に繋がるかと言われれば答えはノー。
そもそも、助けられたぐらいで恋してたら世の中ピンクめいた雰囲気になって気持ち悪いだろ?とご最もな意見を言われてしまった。

「……これ以上考えても答えは出ないわね」

とりあえず、アバンはこちらリリー側になってくれた。
それだけでも充分収穫だと思い直した。



❊❊❊❊



それからのリリーは本家悪役令嬢であるジルを完コピするべく、度々ジルの元を訪れ悪役令嬢の極意を学んだ。……と言っても、実際話した事もなければ面識もない。
毎回物陰に隠れて、悪役令嬢らしい文言をメモったり仕草を真似したりしている。傍から見たら完全にストーカー。

けど、そのおかげで悪役令嬢っぽくはなってきた。

例えば──……

「あら?リリー様じゃないの。相変わらず薄幸なお顔ですわね」

クスクスと笑うルーファス推しのご令嬢達に囲まれても、普段のリリーならば言い返すのが面倒で相手にしないが、今回ばかりは違う。

「あらぁ?そんなに厚化粧を施したお顔で言われても……ねぇ?本来のお顔を世間に見せれないと言うことでございましょう?それに、随分と体臭がキツいようですが……」

扇を広げあからさまに臭そうな顔をしてやると、目の前の令嬢は顔を真っ赤にさせ「これは香水よ!!」と怒鳴りつけてきた。

「まあ!!申し訳ありません。随分と鼻につく臭いでしたので、てっきり……」
「ふ、ふんっ!!香水と体臭の区別もつかないなんて、ルーファス様もとんだ貧乏くじを引いたようですわね」

負けずに言い返してきたが、顔は真っ赤に染まったままだ。

「……一つ、教えて差し上げましょう。獣は盛りがくると身体から雄を呼ぶ為に臭いを発するらしいですよ?まるで、今の貴方がたの様に……ね?」
「──なっ!!!!」

遠回しに獣の様だと言っていることが伝わったのか、令嬢達は更に激昂した。

「な、なんなの貴方!!!失礼よ!!!」
「誰が獣よ!!!」

キャンキャン騒ぎ始めた令嬢にリリーはいい加減面倒くさくなってきた。

悪役令嬢も楽じゃない……そんな事を思いながら溜息を吐くと、その仕草一つでも気に入らないらしく一人の令嬢が掴みかかろうとしてきた。……が、その手は横から現れた人物により取り押さえられた。

「……何をしているんです?」
「ルーファス様!!!」

先程まで顔を真っ赤にして激怒していた令嬢達は意中の人物の登場に一瞬にして恍惚の表情に変わった。

「ルーファス様ァ~リリー様ったら酷いんですよぉ?」
「そうです!!私達の事獣の様だと仰るんですよぉ!?」

目の前に婚約者であるリリーがいるのにも関わらず、これ見よがしに豊満な胸をルーファスの腕に押し当て勝ち誇ったような顔をしている。
別にリリー本人はルーファスに興味が無いのだから無意味でしかないのだが……

ルーファスは一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに令嬢達に笑みを向けた。

「私の婚約者が申し訳ありません。この場は私に免じて収めて頂けますか?」

そう手を取り言われた令嬢はうっとりとした表情で頷いた。
そして、きゃあきゃあ言いながらこの場から去って行った。

「──さて」

ルーファスは先程の笑みは嘘のような冷たい視線をリリーに向けられ、ビクッと肩が震えた。

普通逆じゃないの!?婚約者に対して何この絶対零度感!!!

文句を言いたいが、どうせ言ったところで倍になって返ってくるのが目に見えて分かっているので敢えて何も言わない。

「貴方は何をしているんです?いつもならあんな安い挑発など乗らないはずでしょ?」

誰のせいで絡まれたと思ってんだ!!っと喉のすぐそこまで出かかって飲み込んだ。

「はぁ~……今回は私がたまたま通りかかったから良かったものの……次からは気をつけなさい」

呆れるように言い捨て、リリーの横を通り過ぎようとしたところで「ちょっと待ちなさいよ」と自分でも驚くほど冷たい声が出た。

「それが絡まれた婚約者に対する言葉?随分上から目線で言われるのですね?」
「は?」

ルーファスは眉間に皺を寄せながらリリーを見た。
まさか言い返してくるとは思いもしなかったのだろう。
流石のリリーも我慢の限界だったのだ。

「私が通りかかったから良かったですって?そもそも誰が助けてくれなんて頼みました?あの程度、私でも十分対応できましたけど?それとも何?婚約者を助ける自分かっこいいとか思ってんの?……自惚れるのも大概にしてくれる?」

ルーファスと婚約して数年。こんなに砕けた言い方で話すのも初めてだし、こんなに強気に言い返すのも初めての事でルーファスは目を見開いて驚いている。
それもこれも悪役令嬢の努力の賜物。

しかしそこはこの国の宰相様。ちゃんと言い返してくる。

「──……で?言いたいことはそれだけですか?助けなんて頼まれなくても助けますよ。……貴方は私の婚約者なんですから」

何を言っているののかという雰囲気を醸し出しながら言う。

二言目には婚約者だから……本当いい加減にして……

「……婚約者らしいことなんてしたこともされたこともないのに何が婚約者よ……」
「貴族同士の婚約なんてそんなものでしょう?」
「……そうね。いくら好きな相手がいても好きでない相手と婚約しなければいけないしね」
「…………………………は?他に好きな人……ですって?」

自然と口から出た言葉に「しまった!!」と思ったが、既に遅い。
目の前のルーファスは信じられないと言った顔でリリーを見ていた。

まさかシルビアの事がリリーに知られているとは思ってもいなかったのだろう。
残念ながら全てお見通し。

「リリー……それは一体どういう……!?」

珍しく狼狽えているルーファスを見れて気分がいいが、これ以上話すのはまずい。
リリーは「なんでもありません!!忘れてください!!」と言い残しその場から逃げ去った。
追いかけてくるかな?とも思ったが好きでもない女に割く時間はないのか追いかけてくる様子はなく、リリーは息を切らしながら静まる廊下を駆けた。
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