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「コルネリア!!起きろだす!!ご主人を助けてくれだす!!おい!!早く起きろ!!」

「うるさい!!何度も何度もデカい声で呼びやがって!!」

ある日の夜更け、バジャーに大声で起こされた。

「ったく、何だ?まだ暗いじゃないか」

いい気分で寝ていた所を起こされ、少々機嫌が悪い。
バジャーの首根っこを掴み上げ、睨みつける。

「いや、起こして悪っただす……。けど、そんな事はどうでもいいだす!!ご主人を助けてくれだす!!」

「一体何があったんだ?」

鬼気迫るものを感じ、バジャーを下ろし事情を聞く事にした。

「ご主人が人間に捕まっただす……」

「は?」

「今日もご主人はいつも通り、魔石を集めて研究をしてただす。そしたら剣を持った奴らが急に来てご主人を連れてっただす!!」

魔石の事がバレたか?
森の奥の洞窟だから大丈夫だと思っていたが、甘かった。

「──仕方ない……ラルスを呼んできてくれ。私が呼んでいると言えばすぐ来る」

バジャーにラルスを呼んでくるよう頼んだ。
私は、今世の情勢がよく分からない。ラルスの手を借りようと思ったからだ。

「お呼びですか?」

「うおっ!!!」

バジャーがラルスを呼びに行こうと、ドアを開けたら目の前にラルスが立っていた。

「お前!!どこで聞いていた!?」

「コルネリアが私をお呼びとならばいつ、何時なんどきでも馳せ参じますよ」

この男は……

「まあ、いい。どうやらパウルが誘拐されたらしい……」

私の言葉を聞いたラルスはピクッと眉を動かした。

「それは、魔石の事バレたからですか?」

「多分な……」

魔石は、魔力の持っていない奴にとってはもの凄く魅力的な代物。
普段魔石の使用は、家の灯りや調理する際の竈など、生活の一部分に使用するだけ。
しかし、パウルは違う効力を魔石に吹き込んだ。
きっとパウルを連れてった奴は国の重鎮だろう。
パウルの魔石を戦争か他国の情報収集に使用しようと考えているのだろう。

「また、面倒な事になりましたね」

「面倒だが、魔石が広まる方が面倒だ。ラルス、少し手を貸してくれ」

「当然。私はコルネリアの相棒ですよ?」

「ふふっ、そうだったな……」

私とラルスはパウルを奪還する為に、動き出すことにした。

「とりあえず、ラルスはパウルの気配を追ってくれ」

「……それが、何者かに遮断されているようで追えないんです」

ラルスが申し訳なさそうに言ってきた。

あっちにも魔法を使える奴がいるという事か?
しかも、ラルスでも破れない壁を作る奴とは──面白い。
つい、ニヤと笑みがこぼれた。

「──仕方ない、パウルの洞窟に行って魔力を追うか」

「しかし、あいつの魔力は微力ですよ?国内なら何とかなりますけど、国外に行ってしまったら……」

「私を誰だと思っている?まだ大魔女の名を棄てたつもりは無いよ?」

ニヤッとラルスを見ると、ラルスは心底嬉しそうな顔をして私を見た。

「ああ、また貴方の戦う姿が見れるとは……」

「そうだな。どうせ殺り合いになるだろうな。──もう二度と殺ることは無いと思っていたのにな……」

「お、お前、大魔女だすか!?──ってか殺る前提なんだすか!?」

私たちの会話を聞いていた、バジャーが私を指さして驚いている。

「当たり前だ。奴らも殺る気で来るぞ。お前死なないよう、精々頑張るんだな。お前の面倒までは見れんぞ」

私の言葉を聞いたバジャーは、一瞬で自分の置かれている立場を察したらしい。

「お、オイラ、ちょっと腹の具合が悪いだす。大人しく待ってるだ──」

「さて、行きますよ」

バジャーがうずくまり、腹が痛い素振りを見せたが、そんなもの私らに通用しない。
ラルスが手早くグルグルとバジャーの体に縄を巻き付け、そのままラルスが担ぎあげた。バジャーは完全に逃げ道を失った。

「イヤだす!!まだ死にたくないだす!!」

「お前のご主人の為だ、頑張りな」

「イヤだす----!!!!!!」

バジャーの叫び声と共に、私達はパウルの洞窟まで飛んだ。
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