悪役令嬢は、貴方を絶対に愛さない。

深月カナメ

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 私は世界一可愛いお姫様なの!
 屋敷の庭を駆け回る私に、パラソル付きのテーブルの下で、両親は目尻を下げていた。

「カトリーナは可愛いわね」
「カトリーナ、欲しいものがあったら、何でも言うんだぞ」

 両親にそれはもう盛大に甘やかされて、非常におバカで、わがままを言いたい放題。
 人の言う事をまったく聞かない。世界は私を中心に回っていると、でさえ思っていた。

「あははは、あははっ」

 毎日、公爵家に響くのは私の笑い声。
 メイドが慌てて、お嬢様が危ない遊びをなさっておりますと、それを聞いても微笑むだけで全く動じない両親。

 最近の流行は手すり滑り。二階から一階に滑り降りていた。

「カトリーナお嬢様、おやめください」

「怪我をなさってしまいます」

 メイドの言うことさえ、一切聞く耳を持たない、私は悪気もなく笑う。

「だって、面白いんだもん」

 何度目かの手すり滑りで。
 私は階段から滑り落ちて、額を床に打ちつけて気を失った。


「「カトリーナお嬢様⁉︎」」


 屋敷の中は大慌て、すぐさま両親は医者を呼び、私は部屋のベッドに寝かされた。


 ♢


「……つぅ、いてて」

 目を覚ますと、ふかふかなベッドに寝ていた。ぶつけてた額を撫でながら、ぼんやり、思い出したことを口にする。


「ここ、小説の世界だ」


 昔に読んでいた小説の物語に似ていた。
 そして、私は悪役令嬢カトリーナだ。このままでは第一王子ピエトラ様の婚約者になる。

 彼との幸せはそんなに長くは続かない。学園が始めると王子の運命の人、ヒロインが登場する。

 ヒロインは無垢で、無邪気、他の令嬢とは違う彼女に、王子はしだいに惹かれていく。
  
「婚約者でもない、あなたがどうしてピエトラ様と二人きりでいるのです。彼の婚約者はわたしですわ!」

 嫉妬心からヒロインをいじめた。その挙げ句の果てに、人を雇いヒロインの暗殺計画を立ててしまう。


「カトリーナ嬢、私の大切な人に何をするんだ!」


 暗殺計画を王子に阻止されて、カトリーナはその場で、ピエトラ王子に婚約破棄を言い渡される。

 彼女の行き着く先は王城の地下牢屋。


『お前は私の娘ではない!』


 あれだけ、カトリーナを甘やかした両親。彼らは自分達の爵位を守る為に、彼女を見放した。
 
 悪の限りを尽くした、悪役令嬢カトリーナ。


 彼女が待つのは破滅のみ。


 騎士に引きずり、連れてこられたギロチン台。高台にいる王子を眺めながら「どうして、私を見てくれないのです?」と叫び、最後を迎える。



「……そんな、最後は嫌だわ」
 

 小説の内容に震えて、王子を好きになってはダメと、自分に言い聞かせ続けた。

 そして、婚約候補となった私の、ピエトラ王子と初顔合わせに日。


「初めまして、カトリーナ嬢」


 見目麗しいピエトラ王子に一目惚れをして、見るもの全てが薔薇色に変わった。

 婚約者候補を蹴落として、彼の婚約者になり、カトリーナと同じ道を歩んでいても気付かない。
 王子だけを愛して、王子も私を愛してくれていると信じていた。


 ヒロインが現れるまでは……。


「愛しのアリス嬢」

 彼は私ではない名を呼び。微笑んで、私では無い、彼女をファーストダンスに誘う。

「今宵の舞踏会のエスコート、ピエトラ様は婚約者の、私を誘ってはくれないのでしょうか?」

「カトリーナ嬢、すまない。アリス嬢が舞踏会に参加をするにが初めてだと聞き、彼女をエスコートする約束をしてしまった。悪いが君は他の者を誘ってくれ」

「ごめんなさい、カトリーナ様」

 舞踏会はすでに始まっているのに、他の者を誘え? 
 二人並んで舞踏会の会場に入っていく、背を一人で惨めに見送った。

 扉の前に立つ騎士の視線が突き刺さる。


「……ピエトラ様、言うのが遅いんじゃなくて、私じゃない人を誘うなんて酷い、ひどいわ」


 ピエトラの瞳に私は映らない、痛い、心が悲鳴を上げる、苦しい。

 でも、あんな最後は嫌だと、最後にピエトラと結婚をするのは私だと、歯を食いしばり踏み止まっていた。

 
 しかし、最後の崩壊は彼の口から、言葉の矢となり放たれた。


「公爵令嬢カトリーナ・デュリアン、貴様と婚約破棄をする!」


 ヒロインに何もせずとも、私は王子に婚約破棄を言い渡された。


 その、言葉の矢は深深く胸に突き刺さる。
 じわりじわり、全身を蝕み漆黒に染まった。

 純粋な愛は憎悪に塗り替えられた。

 
「憎い。憎い。憎い。憎い。ああ、なんて憎いの……この胸のうずきを消し去りたい」


(だったら……二人を消してしまいなさいよ)


 もう一人の自分が言う。


「それは、いい案ね」


 じゃ、二人を消すには何から始めましょうか?



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