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二話

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 あの壮絶な魔王討伐勅命クエストを成功に収た勇者エイジは、枯渇した魔力と傷ついた体に鞭を打ちながらも、三か月かけて王城グラデシアへ帰ってきた。
 なぜなら魔王討伐という吉報を早く国王ゼファードに届けたかったからだ。それに魔王戦で倒れた勇者パーティーの仲間を早く蘇生させたいとも思っていた。仲間の遺体が乗った馬車をゆっくりと城門へと近づけるとやっと帰ってきたのだと安息が許された瞬間だった。

「リア、お疲れ様。キミの魔力も枯渇しきっているのに無理させたね」
「いいえ、私は勇者様の担当ですから。遠慮なさらず、何なりと」
「女神をここまでコキ使ってしまって、後で罰が当たるのを覚悟しておくよ」
「私は裁きの女神ではないので、罰するスキルは持ち合わせてませんよ。ふふ」

 リアは疲れた表情を一切見せず、エイジに微笑む。

「リア、ありがとう…」

 リアの魔力の枯渇の原因は、仲間の身体を時空魔法で今もなお時間を止めているからだ。身体の損傷が酷くなるとそれだけ完全蘇生の確立が低くなってしまうのを何とか食い止める為の苦肉の策だ。

「リア、少し待っていてくれ。話を通してくる」
「はい。ここは精霊が多く居ますので少し魔力を分けてもらいます。慌てずにどうぞ」
「いや、慌てるさ。キミをこれ以上苦しめるつもりはないよ」
「ありがとうございます。実はもう、まぶたが閉じそうです(笑」
「す、すまない。行ってくる!」

 勇者エイジは、残りの体力のすべてを脚力に集め、一つ目の城門を潜り抜け、二つ目の城門の前に来た所でエイジは足を止めた。重装甲を纏った聖騎士が十数に立ち塞がっていたからだ。彼らは勇者エイジの凱旋を祝す為に迎えられたものではなかった。それは戦士が戦で放つ『殺気』を隠すことなく纏っていた。静寂の中、聖騎士団長らしきものが声を張り詰めた空気に轟かせる。

「勇者エイジ! いや、魔王の手先となった裏切り者め!!」
「なっ! 何を言っている? 俺は魔王を討伐したんだぞ!」
「姑息にも気を許した勇者パーティ全員の息の根を止め、神に仕えし聖獣をも手にかけた悪魔め!!」
「待ってくれ! パーティの仲間を傷つける真似はしないし、聖獣の件は魔王討伐前に話し合った最終手段だっただろ!!」
「えぇい! うるさい! この悪魔め! この醜い悪魔を討伐する! ゆけぇ!」

 聖騎士団長の号令でサポート魔法の光に包まれた聖騎士全員が一斉にエイジのもとへと動き出す。

「ぐ! 体が動かない! なんなんだよ!! 仲間を生き返らせて、魔王討伐をみんな笑顔で楽しく褒めあって酒を飲みかわすんじゃないのかよ! なんなんだよぉ!」

 聖騎士の魔法付与された聖剣はとっさに構えたエイジの剣を難なく両断し、エイジの腕も切り落とした。

「ぐぁあああ!!」

 魔力の枯渇しきった勇者は、至上のどんなものも切れる魔剣も、どんな攻撃にも耐える魔法障壁も作り出せないただの人となっていた。腕からおびただしい血液が噴き出し地面を赤く染める。聖騎士たちは容赦せず襲い掛かってきた。





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