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27話 舞踏会
私が父にお願いしたのは、侯爵邸で、舞踏会を催すことだった。
私はアスラス様と舞踏会で踊ったことがない。
ラディーと夫婦として暮らしていたときも、一度もなかった。
ラディーが、舞踏会のような貴族がたくさん集う場に参加して、アスラス様だとばれることを危惧してのことだった。
だから最後に、思い出の一ページとして、華やかなドレスを着てアスラス様と一緒に踊りたい。
ロウタス家のリリアとして、彼の記憶の中に留まりたかった。
ロウタス侯爵邸は、その歴史と財力を現すかの如く、広大な敷地に絢爛豪華な館と、手入れが行き届いた美しい庭で成り立っている。
貴族たちの間では、なかなか見ることのできない名所旧跡のようにも思われている。
そう言うこともあり、めったに開かれることがなかった侯爵主催の舞踏会の招待状を、貴族の誰もが欲しがった。
それをわかっている父は、分け隔てなく、王都に住む全貴族に招待状を送った。
舞踏会の日、私は薄水色のシルクサテンのドレスに身を包み、銀色の髪を結い上げ、真珠とオパールを花の形に散りばめた髪飾りを付けた。
この髪飾りは、ラディーが私に買ってくれた大切な宝物。
ボレアリスで暮らし始めて、領主代理の仕事にも慣れてきた頃、私たちは、北部の商業地域に視察に出かけた。
その日、途中で立ち寄った宝石店で見つけた髪飾りだった。
「真珠もオパールも、リリアの銀髪によく似合うよ」
そう言ってラディーが買ってくれたのだ。
懐かしく甘酸っぱい思い出が、心の中によみがえって来る。
彼は、この髪飾りを見て、少しは思い出してくれるだろうか……。
ううん、きっと無理ね。
淡い期待と届かぬ思いが、心の中で交差する。
夕方になり、会場の大広間に、着飾った貴族たちが続々と集まってきた。
私は主催者側に立ち、にこやかな笑顔で入場してくる人々を出迎えていた。
最後に、キャロル様がアスラス様にエスコートされて入場するのを見た瞬間、笑顔は凍り付き、私の胸はドキンと跳ねた。
二人は青を基調としたお揃いコーデで、金糸の美しく繊細な刺繍が、より一層二人の仲を強調しているように見えた。
わかってはいたけれど、二人が一緒にいるのを見ているのは辛い。
だけど、私が凍り付いたのはほんの一瞬である。
おそらく、誰にも気づかれていないはず。
誰にも、私の心を悟られてはならない。
そのために、今まで諜報術をたたき込まれてきたのだから……。
父の開催の挨拶の後、音楽が流れて舞踏会が始まった。
私は父と初めのダンスを踊った。
チラリと横を見ると、キャロル様とアスラス様も踊っている。
二人の流れるような美しいダンスを見て、とても半年前に婚約破棄の修羅場を演じた二人だとは思えなかった。
これから半年後、キャロル様が二十歳の誕生日を迎えると、二人は正式に婚姻を結ぶことになる。
それを見せつけるようなダンスだと思った。
おそらく、この会場に来ている皆も、私と同じことを思っているのだろう。
二人を見る目に、驚きと疑いと羨望が混じっている。
一曲目のダンスが終わると、キャロル様はアスラス様から離れ、友人たちの輪の中に入って行った。
友人たちの、キャロル様をほめそやす言葉が聞こえてくる。
一人になったアスラス様、私はこのチャンスを逃さなかった。
「アスラス様、私はロウタス侯爵家のリリアと申します。一曲、お相手、お願いできますか?」
私はアスラス様と舞踏会で踊ったことがない。
ラディーと夫婦として暮らしていたときも、一度もなかった。
ラディーが、舞踏会のような貴族がたくさん集う場に参加して、アスラス様だとばれることを危惧してのことだった。
だから最後に、思い出の一ページとして、華やかなドレスを着てアスラス様と一緒に踊りたい。
ロウタス家のリリアとして、彼の記憶の中に留まりたかった。
ロウタス侯爵邸は、その歴史と財力を現すかの如く、広大な敷地に絢爛豪華な館と、手入れが行き届いた美しい庭で成り立っている。
貴族たちの間では、なかなか見ることのできない名所旧跡のようにも思われている。
そう言うこともあり、めったに開かれることがなかった侯爵主催の舞踏会の招待状を、貴族の誰もが欲しがった。
それをわかっている父は、分け隔てなく、王都に住む全貴族に招待状を送った。
舞踏会の日、私は薄水色のシルクサテンのドレスに身を包み、銀色の髪を結い上げ、真珠とオパールを花の形に散りばめた髪飾りを付けた。
この髪飾りは、ラディーが私に買ってくれた大切な宝物。
ボレアリスで暮らし始めて、領主代理の仕事にも慣れてきた頃、私たちは、北部の商業地域に視察に出かけた。
その日、途中で立ち寄った宝石店で見つけた髪飾りだった。
「真珠もオパールも、リリアの銀髪によく似合うよ」
そう言ってラディーが買ってくれたのだ。
懐かしく甘酸っぱい思い出が、心の中によみがえって来る。
彼は、この髪飾りを見て、少しは思い出してくれるだろうか……。
ううん、きっと無理ね。
淡い期待と届かぬ思いが、心の中で交差する。
夕方になり、会場の大広間に、着飾った貴族たちが続々と集まってきた。
私は主催者側に立ち、にこやかな笑顔で入場してくる人々を出迎えていた。
最後に、キャロル様がアスラス様にエスコートされて入場するのを見た瞬間、笑顔は凍り付き、私の胸はドキンと跳ねた。
二人は青を基調としたお揃いコーデで、金糸の美しく繊細な刺繍が、より一層二人の仲を強調しているように見えた。
わかってはいたけれど、二人が一緒にいるのを見ているのは辛い。
だけど、私が凍り付いたのはほんの一瞬である。
おそらく、誰にも気づかれていないはず。
誰にも、私の心を悟られてはならない。
そのために、今まで諜報術をたたき込まれてきたのだから……。
父の開催の挨拶の後、音楽が流れて舞踏会が始まった。
私は父と初めのダンスを踊った。
チラリと横を見ると、キャロル様とアスラス様も踊っている。
二人の流れるような美しいダンスを見て、とても半年前に婚約破棄の修羅場を演じた二人だとは思えなかった。
これから半年後、キャロル様が二十歳の誕生日を迎えると、二人は正式に婚姻を結ぶことになる。
それを見せつけるようなダンスだと思った。
おそらく、この会場に来ている皆も、私と同じことを思っているのだろう。
二人を見る目に、驚きと疑いと羨望が混じっている。
一曲目のダンスが終わると、キャロル様はアスラス様から離れ、友人たちの輪の中に入って行った。
友人たちの、キャロル様をほめそやす言葉が聞こえてくる。
一人になったアスラス様、私はこのチャンスを逃さなかった。
「アスラス様、私はロウタス侯爵家のリリアと申します。一曲、お相手、お願いできますか?」
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