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本編
手合わせ
舞踏会まで後2日。
ルーシェは早朝の鍛練に向かった。
体を解してから、いつも通り樹木に向かい打ち込みを始める。
打ち込んでいる途中、人の気配を感じる。
嫌な予感がして、動きを止めた。
振り返ると、軽装のウィルソンが練習用の木刀を片手に歩いてきた。
ルーシェは思った。これは手合わせさせられる、と。
そして、その予感通りウィルソンは手合わせを求めてきた。
「クロウド様、私はお断りしたはずです!」
「私は大丈夫だと答えたはずだが?せっかく来たんだ、一戦交えよう」
ルーシェは頭が痛くなってきた。
この人ってやっぱりお坊っちゃんだから、人の話なんて聞かないんだ。と呆れてしまった。
(もう、知らない!私はちゃんと断ったからね!)
もう何から突っ込めば良いのかわからなくなってきた。
「先に申し上げておきますが、もしお怪我などされても、私は一切責任を取りませんので」
ウィルソンはどこか楽しそうに笑って、木刀を構える。
「無論承知の上だ。君に責任を問うような不粋な真似はしない。君にも怪我はさせないと誓おう。」
「それには及びません」
それを聞いて安心した。ルーシェも持っていた木刀を構えた。
そして手合わせが始まる。
先手を取ったのはルーシェだ。踏み込んでから、一気に懐に入み木刀を振りかざす。が、寸で躱されてしまう。ウィルソンも正面から木刀を一直線に振り降ろす、それをルーシェが下から弾く。
それから激しい打ち合いが続いていく。
(これは、まずいな……楽しい!)
木刀を振りながら、打って避けて躱す。ウィルソンが本気を出しているかわからないが、やはり人間相手の、行動が予測出来ない動きはワクワクして心が踊る。
しばらく続いたが、結局はルーシェが負けた。ウィルソンは意外と強いらしい。王子殿下の側近だからと少し嘗めていたかもしれない。ルーシェだって幼い頃から剣術を習っていたのに勝てなかった。
「私の…完敗です。クロウド、様は…お強いのですね」
木刀で体を支えながら息を切らし、額の汗を手で拭いながらルーシェが賛辞を述べる。素直な感想だった。
「こちらの方が驚いた。思わず本気を出してしまった」
ウィルソンも持っていた木刀を地面に刺し、チョコレートブラウンの髪は少し乱れ、額には汗を浮かべていた。
ルーシェは木刀を地面に置くと、近くに置いてあった手拭いをウィルソンに差し出し、ついでに水差しを取りコップにレモネードも継いで渡す。
「宜しかったら此方もどうぞ。サッパリすると思います」
「あぁ、すまない。…………!本当に飲みやすいな。甘酸っぱくてうまい」
一気に飲み干したウィルソンが、薄紫色の瞳を見開いて驚いている様子を見て、ルーシェが愉しげに笑う。
「ふふ…レモネードというものです。運動した後にピッタリの飲み物なんですよ」
「───ようやく笑ったな」
ウィルソンがルーシェを見ながら、薄紫色の瞳を細め嬉しそうに微笑む。その不意討ちの笑みに胸が高鳴る。
「……っ!」
その言葉と表情に心が落ち着かなくて、咄嗟に視線を下に外した。
「君は私の前だと緊張しているのか、すぐに身構えるだろ?表情も口調も固い」
それを聞いて、ルーシェはダラダラと背中に冷や汗が流れるのを感じた。ウィルソンに対する態度がバレバレだった。
持っていた手拭いを握りしめ、黙ってしまう。何か返さなくてはと思うのに、言葉が出なかった。
「別に咎めているわけじゃない。出来れば今みたいにもう少し笑ってほしい」
そう言いながら、ウィルソンは空のコップを渡してくる。ルーシェは両手で受け取った。
「ぜ…善処…します」
顔を赤らめ視線を逸らしながら、ルーシェはなんとか答えた。
「あぁ、そうしてくれ」
ウィルソンはルーシェの頭にポンッと片手を置いた。思わずルーシェは身を竦ませる。くしゃりと髪を撫ですぐに離れてしまった。
「また機会があったら手合わせしよう」
「……………は、はい」
ウィルソンは差してあった木刀を抜き、屋敷の方へと戻って行った。
ルーシェは一人で立ち尽くしている。
(坊っちゃんて……本当に、よくわからない)
触られた頭を手で押さえながら、ルーシェは顔が赤くなるのを止められなかった。
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