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旅行編
独白
しおりを挟むウィルソンに促され、ソファーに腰をかけた。隣に向かい合うようにウィルソンも腰を下ろす。
「どういうことだ?何故君があの子供と同じ経験があるんだ?」
怪訝そうなウィルソンの言葉に、ルーシェは悲痛な顔をしながら、ポツポツと話し出す。
「……私がまだ、王都に来たばかりの頃…学園に入りたくて出稼ぎにやって来たんです。田舎から出て来たばかりで…都会なんて初めてでしたから…右も左も解らず、舞い上がってました。ただ、前世の知識もあったので、仕事も住む場所も直ぐに見つかると楽観的に考えていました」
「ですが、その考え自体が甘かったと直ぐに後悔しました。仕事がなかなか決まらず、持って来たお金もすぐに底をつきました。焦れば焦る程うまくいかなくて………その内食べる物もなくなり、路頭に迷ってしまいました」
「領地に戻ろうとはしなかったのか?」
ルーシェは首を横に振る。
「両親に心配をかけたくなくて……それに、その時にはうちの領地に戻るお金すらなかったですから……」
少し気まずそうに下を向きながら、ルーシェはボソボソ話す。
「その……仕事もあるにはあったんですよ?……でも、男の人を相手にする仕事とかは、絶対に嫌だったので……選んでいる場合ではなかったんですが」
それを聞いたウィルソンはあからさまに嫌そうな顔になる。
「それは絶対にダメだ」
ルーシェは慌てて首を振る。
「はい、大丈夫です。私も選択肢にはいれていません………ですが、そうこうしてたらある日、とうとう限界が来まして…道端で倒れてしまったんです」
ルーシェはスカートをギュッと握りこむ。
「そんな時に助けてもらったのが、私がお世話になっていた定食屋の女将さんと親父さんなんです」
「……そんな事があったのか」
ウィルソンはスカートを握っているルーシェの手を、上から包むように手を重ねる。
「はい……でもその時、女将さん達も店が繁盛していなくて困っていたんです……」
「そういえば以前行ったときに、店を畳もうとしていたと言ってたな」
「そうなんです。……それなのに、ですよ……私みたいな、どこの誰かもわからない人間に…お腹いっぱいご飯を食べさせてくれました…自分達だって…苦しくて、大変な状態…だったのに………」
ルーシェの瞳から再びボロボロと涙が溢れ出す。
「その時…に…思い…ました……誰も…助けてくれない……あの状況で……女将さん達の優しさが、こんなにも……嬉しくて、ありがたくて……どれ程、救われたことか……もし、あの時……手を差し伸べて…もらわなければ……私は、どうなって…いたか……わかりません……」
「だから!……だから、私は……」
「もういい!!」
ウィルソンがルーシェを腕の中に強く抱きしめる。
感情が溢れてしまったルーシェは、涙が止まらなかった。
「もう、わかった……私が浅はかだった……君の事情もろくに聞かず、自分の意見ばかり押し付けて、君の気持ちを蔑ろにしてしまった!」
ルーシェはウィルソンの腕の中で嗚咽を漏らしながら、首を横に振る。
「君があれ程までに怒った理由が、良くわかった……本当にすまない………私を、許してくれ……」
ウィルソンを責めたい訳じゃない。おかしいのは自分の方なのだから。
ただ自分の思いをわかって欲しかった。
「ウィル様は…何も悪くありません……全然貴族らしくない私がいけないんです………この事を話して、貴方に嫌われるかもしれないと思うと……怖くて言えませんでした……」
ウィルソンから身体を離し、ようやく治まってきた涙を服の袖で拭う。
ウィルソンはルーシェの肩を手で掴む。
「私が君を嫌になる時が来るとしたら、それは私が人の価値もわからない、愚かな人間に成り下がった時だけだ」
座りながら隣のウィルソンを見つめる。
「……ウィル様」
「私を見くびらないでくれ。これでも人を見る目はある」
「そんなことは……思っておりません……」
ウィルソンはルーシェの頬に両手を添え、真剣に見つめる。
「ルー……君はもう一人じゃないんだ。今度からは私にもちゃんと相談してくれ。出来る限り君の意見を尊重する……もうあんな思いをするのは懲り懲りだ」
ウィルソンの言葉に、感動と共に負い目のようなものも感じてしまう。
「は…い……申し訳ございません」
「謝らないでくれ。私の立つ瀬がない」
「では、ありがとうございます」
今度こそ笑顔になったルーシェを見て、ウィルソンも微笑み、唇を重ねた。
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