【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

文字の大きさ
94 / 99

定め

しおりを挟む
 
 この嵐が収まるまでに無駄に日にちが経ってしまった。
 その間オリビアは外に出ることもできず、二日ほど缶詰め状態で宿屋で暇を持て余していた。
 ジャンに叩かれた頬の腫れも引き、ようやく湿布も取れた。

 そして城を出てから五日目で嵐も収まり、午後から船が出航すると言われ、久しぶりに外の空気を吸った。
 
 荷物を持って宿から出ると、気分転換もかねて浜辺で定期船が来るのを待っていた。
 外は暴風雨で危険だったため外出を控えていたせいか、外の世界が輝いて見えるほどだった。
 前日の嵐のせいか人出は少なく、砂浜にも人の姿はなかった。
 
 砂浜に置かれていた流木に腰掛け、この国で見るであろう最後の海の景色を目に焼き付けていた。

(連日の寝不足で体が重いや。船に乗ったら少しは寝れるかな……)

 重いため息を吐いて海を眺めていると、何やら砂を踏む足音が近づいてくる。
 誰かが散歩でもしているのだろうと、フードを被り直し、とくに気にすることもなかった。

「オリビアっ……!」

 不意に背後から名前を呼ばれ、振り向いた先には、離れた場所に馬を繋いだイクシオンが、息を切らして走って近づいてきていた。

「でっ……、でん、か……??」 

 一瞬、自分の願望が創り出したものかと思ったが、目を擦ってもイクシオンが消えることはなかった。

「こんな所にいたのかッ……! 捜したんだぞッ!!」

「――っ!?」

 立ち止まったとたん、険しい顔をしたイクシオンが大きな声を上げたことに驚いた。

「出て行くなら手紙一つじゃなく、ちゃんと面と向かって挨拶くらいしていけ! それが最低限世話になった礼儀というものだろうがッ!!」

 捲し立てるように怒鳴るイクシオンの剣幕に、オリビアは目を瞑って肩を竦めた。
 
「は、はいっ! たいへん申し訳ございませんでしたっ! それに関しましては、返す言葉も、ございませんっ……」

 たしかに何も言わずに出ていった自分に非がある。
 本気で怒っているイクシオンに、オリビアは即座に頭を深く下げて真摯に謝った。
 だが、なぜイクシオンがここにいるのか理由がどうしてもわからなかった。

「ですが、どうして、殿下がここに……?」
 
 そろそろと顔を上げて、目の前で不機嫌そうに腰に手を当てているイクシオンを見上げた。

「忘れ物だ!」

 そう言ってイクシオンが懐から取り出したのは、互いの名前が書かれた離縁状と最後に手紙と共に残した死亡届だった。

 オリビアの前に二通の書類を出し、一言言ったきり不機嫌そうな顔で黙って立っている。
 
 しばらく二枚の紙を見て考え、ようやく一つの考えに至った。

「――あぁ、なるほど。私に出して来いとおっしゃりたいんですね。……申し訳ございませんが私は死んだことになるので、神殿に届け出ることは不可能です。殿下が面倒でしたら、こちらで他の者に頼んでおきます」

 改めて自分の愚かさにため息をつきながら、書類を受け取ろうと手を伸ばした。

 だがイクシオンは突然、オリビアの目の前で書類をビリビリに破いてしまった。

「――なっ!! 何をしているんですかっ?! 神殿に出す書類は手続きがものすごく面倒で、一年に一度しか発行してもらえないんですよ!?」

 破れた離縁状と死亡届はイクシオンの手をすり抜け、風に乗って遠くに飛んでいってしまった。

「じゃあ俺たちはまだ夫婦で、お前はここを離れられないということだな」

 腕を組んだイクシオンは、なんでもないことのように話している。

「なぜ、そうなるのですか……! もう、契約は終わりました。これ以上私がここに留まる理由はありませんっ」

「……オリビア」

 名前を呼ばれるが、心境は複雑だった。
 やっと今日定期船がやって来るのに、このタイミングでイクシオンが離縁状と死亡届を破くとは思ってもいなかった。

「どうして、急にこんなことを……? むしろ、困るのは殿下のほうでしょう? 私がいつまでも殿下の周りをウロウロしていたら、貴方がいつも探してる運命の相手を逃してしまうかもしれないんですよっ……?!」

 すぐ近くまでイクシオンが近づいてきて、オリビアはとっさに顔をそむけた。

「そうかもしれないな」

「――でしたらっ!」

 肯定されたことにカッとなり、顔を上げて声を荒らげた。

「お前は、俺がいなくても平気なのか?」

「はい?」

「このまま遠い異国の地へ渡り、これまでのことなど何もなかったように暮らしていけるのか?」  

 見上げたイクシオンの美しい顔はどこか疲れていて、オリビアを見下ろす表情は憂いを帯びていた。
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...