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矛盾
しおりを挟むイクシオンがまだアフロディーテに未練を持っていようとも、オリビアにはどうすることもできない。
また胸の奥がモヤモヤする。
実際にアフロディーテをこの目で確認し、イクシオンの反応を目の当たりにすると、明らかに嫉妬している自分がいる。
その嫉妬心を振り払うように、首を横にぶんぶん振って払拭させた。
「珍しいですね。殿下があれほどの美女を見て飛びつかないのは。もしや、すでに口説かれたあとでしたか?」
わかっていたがあえて聞いた。
知らない振りをしないと不自然だし、気を抜くと余計なことまで言ってしまいそうだった。
「俺は……人のものには手を出さない」
イクシオンは一言話すと、気まずそうに視線を逸らしていた。
そしてまたチクチクと胸が痛むが、今度は無視して言葉を続けた。
「……なるほど。殿下のご様子からなんとなく察しました。細かいことは聞かないでおきます」
これまであまり見たことのないようなイクシオンの愁傷な表情に、やはりまだ想いを引きずっているのだと悟る。
「お前の想像している理由とは、違うと思うがな」
男性は過去の女性を引きずる傾向にある。
イクシオンも例に漏れず、きっとそうなのだろう。
「そうかも、しれませんね……」
オリビアもボソッと返事を返した。
今度は胸の奥を抉るように、ズキッと心が痛む。
「――ですが、妻としての慰めが必要でしたら、遠慮なくおっしゃってください」
自分の慰めなど意味はないのだろう。
イクシオンはそんなものは求めていないとは思うが、アフロディーテに本気だったことだけは理解していた。
前に自分の思いを吐き出したとき、イクシオンもオリビアの話をはぐらかさずにきちんと聞いて慰めてくれた。
「なにを……」
イクシオンに向かい、無理やり笑顔を作った。
自分は今、うまく笑えているのだろうか。
話くらいなら自分でも聞いてあげられるし、もしイクシオンが未だにアフロディーテを想っていても、それは仕方のないことだからだ。
「もし、いつも通り口説きたいのであれば、どうぞ行ってらしてください。私はここで、目を瞑って知らない振りをしています」
現実のアフロディーテを見たあとだと、さらに現実を思い知らされる。
(陛下が言ってた通り、イクシオンは状況で自分を作り出す。女遊びはするけど、道に逸れたことはしたくない。今は私と契約しているし、そういう設定だから他の女には目もくれずにいる。だから仕方なく夜の行為も私で我慢してるだけ)
その場でグッと拳を握り締めて、また同じことを自分に言い聞かせた。
これまで自分の容姿など気にすることもなかったのに、どうしてこんな風に考えてしまうのか自分でもわからなかった。
「お前の言葉は矛盾している。一体どっちが本音だ? 俺が浮気をしても、お前は平気な顔で見守るつもりなのか?」
イクシオンのことを考えて言った言葉だったが、反応が思わしくない。
むすっとした表情で咎めるように顔を近づけられると、とっさに一歩後ずさった。
「矛盾はしていません。私は殿下に何かを強要できる立場ではないので、殿下のこれまでの行動から推測しているだけです」
「やはり矛盾してるぞ。仕事はしろと強要されてる」
「それは、領地のために言っています。私は強要しているのではなく、殿下にお願いしているだけです」
こういう時のイクシオンはどこまでも意地悪だ。自分の望む言葉を言うまで機嫌が治らなかった。
「ともかく、今の言い方は気に入らない! 却下だっ」
なぜここまで頑なに否定しているのか、イクシオンがどう答えてほしいのかなんてわからない。
黙ってしまったオリビアに、イクシオンがさらに畳み掛けるよう言葉を続けている。
「お前はどうしてほしい? お前の言う通りにしてやろう」
目の前のイクシオンは怒っているように鋭くオリビアを見つめている。
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