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本編
ジレンマ
ひどい男だと思った。
人の心を弄び、最後はなんの感情も見せることなく他の女を選び、突き放すのだ。
自分は本当に男運が悪い。
「もう、そろそろ食事の時間なので、子供たちを呼びに行ってまいりますわっ!」
そう言い、ぐっと力強く胸を押した。
この先の未来を知っていて、自分だって追放されることを望んでいる。
それなのに最近、違う感情が芽生えつつある。
けれど気付きたくなくて、ずっと無視していた。
「俺も共に行こう」
「――っ」
離した腰を再び引き寄せられた。
周りの若い職員たちが「きゃっ」と声を上げ、自分たちのやり取りを見て顔を赤らめている。
自分の身体に回された腕の太さ、密着している服の上からでも分かる身体の逞しさ、そして目の前の整った顔立ちを眺めて逸る心臓を落ち着かせるために、スッと視線を横へ逸らした。
最近、毎日のように抱かれることが原因だということはわかっている。
アイザックとの身体の相性が良すぎて、心が勘違いしているのかもしれない。
でなければ、こんなに傲慢で冷たい男にときめくわけなどないのだ。
(私って、男運が悪いのではなくて、男を見る目がないのね……)
はぁっ、と短く息を吐き、目の前の人物に視線を戻した。
「承知いたしました」
皇宮では冷遇されていても、外の人間たちにそんなことはわからない。外面を良くしておきたいだけなのはわかっていた。
こんな男、早くスカーレットと結ばれてしまえばいい。
諦めることには慣れている。
ただ一定の期間、耐えればいいだけだ。そのあとは適当に別のことに打ち込み、気を紛らわせていればじきに忘れていく。
まだ傷が浅いうちに、自分の心が完全に気づかないうちに、早く――
◇◆◇
外まで出てきたリアトリスの視界に、子供たちが遊んでいる姿が目に入る。
一緒に遊んでいると思っていたスカーレットは、木陰の中に一人で佇んでいた。
「あっ! リアトリスお母さまっ!」
「お母さま、一緒に遊びましょう!」
「僕、鬼ごっこがしたい! 母さまはすごく上手だから、またやろうよ!」
わっと子供たちがリアトリスの周りに集まってきた。
みんな汗だくで、ニコニコしながらリアトリスの返事を待っている。
しゃがんで目線を合わせたリアトリスは、子供たちに向かい説明する。
「そうね。一緒に遊びたいけれど、もうご飯の時間よ。汗を拭いて手を洗ってから食事にしましょう」
「えぇっ~!? もっと遊びたいのにぃ!」
「ねぇお母さま、食事が終わったら一緒に遊んでくれますか?」
まだまだ遊び足りないのか、子供たちに一斉に話しかけられて苦笑する。
「わかったわ。じゃあ、ちゃんと食べて休んでからよ。……けど、さっきまで王女殿下と遊んでいたのではないの?」
「ううん。最初は遊んでくれたけど、疲れたって言ってすぐにどっか行っちゃったよ」
「見てないなら意味ない、とか? よくわからないこと言ってた」
「お姫様ってぜんぜん遊んでくれないんだね」
(呆れた……子供だから何も分からないとでも思ったの? 信じられないわ!)
このくらいの小さな子供は大人のことをよく見て、大人の話を意外とよく聞いている。
そして何も考えずになんでもそのまま話すのが、幼い子供の特徴でもある。姪っ子たちもそうだった。
だから前世でも面倒を見ていた時に何度かやられ、子供の前で滅多なことは言えないと痛感していたのだ。
「そう……とりあえず手を洗って、ご飯にしましょうか」
「「「は~い!」」」
子供たちは素直に返事をして孤児院の中に入っていった。
走って施設に戻る子供たちに気づいたのか、今度はスカーレットがリアトリスのもとへ歩いてきた。
「子供たちがすごく懐いてくれて大変でした。一緒に遊んで遊んでってすごかったです。張り切って走ったから、ちょっとだけ木陰で休んでいました」
先ほど子供たちから聞いた話とずいぶん違う。
話を脚色しているのか、自分ではそう思っているのか……リアトリスは話を聞きながら呆れ果ててしまい閉口していた。
「第一王女は子供が好きなんだな」
辟易しているリアトリスの隣から声をかけたのはアイザックだった。
待ってましたとばかりに、スカーレットが満面の笑みをアイザックに近づいた。
「はいっ! 子供って小さいし可愛いし、大好きです! だからわたくしも、自分の子供はいっぱい欲しいと思ってます!」
精一杯自分をアピールしているのか、上目遣いでアイザックを見つめていた。
女神のような清らかな見た目でこんなふうに見つめられたら、普通の男ならイチコロだろう。
(まぁ、男の人ってこういう女に弱いのよね。自分に好意を寄せてくれてるならなおさらだわ。前世の職場にもいたわね……こういう小狡い娘)
それが悪いことだとは言わない。
意中の男性をオトしたいのなら、これも一つの手だろう。
だが見ていて不快で、自分の心がスッと冷めていくのを感じる。
二人で好きなように話していればいい。
会話を聞いているとムカムカと苛立ってしまうので、リアトリスはすぐにその場から離れた。
人の心を弄び、最後はなんの感情も見せることなく他の女を選び、突き放すのだ。
自分は本当に男運が悪い。
「もう、そろそろ食事の時間なので、子供たちを呼びに行ってまいりますわっ!」
そう言い、ぐっと力強く胸を押した。
この先の未来を知っていて、自分だって追放されることを望んでいる。
それなのに最近、違う感情が芽生えつつある。
けれど気付きたくなくて、ずっと無視していた。
「俺も共に行こう」
「――っ」
離した腰を再び引き寄せられた。
周りの若い職員たちが「きゃっ」と声を上げ、自分たちのやり取りを見て顔を赤らめている。
自分の身体に回された腕の太さ、密着している服の上からでも分かる身体の逞しさ、そして目の前の整った顔立ちを眺めて逸る心臓を落ち着かせるために、スッと視線を横へ逸らした。
最近、毎日のように抱かれることが原因だということはわかっている。
アイザックとの身体の相性が良すぎて、心が勘違いしているのかもしれない。
でなければ、こんなに傲慢で冷たい男にときめくわけなどないのだ。
(私って、男運が悪いのではなくて、男を見る目がないのね……)
はぁっ、と短く息を吐き、目の前の人物に視線を戻した。
「承知いたしました」
皇宮では冷遇されていても、外の人間たちにそんなことはわからない。外面を良くしておきたいだけなのはわかっていた。
こんな男、早くスカーレットと結ばれてしまえばいい。
諦めることには慣れている。
ただ一定の期間、耐えればいいだけだ。そのあとは適当に別のことに打ち込み、気を紛らわせていればじきに忘れていく。
まだ傷が浅いうちに、自分の心が完全に気づかないうちに、早く――
◇◆◇
外まで出てきたリアトリスの視界に、子供たちが遊んでいる姿が目に入る。
一緒に遊んでいると思っていたスカーレットは、木陰の中に一人で佇んでいた。
「あっ! リアトリスお母さまっ!」
「お母さま、一緒に遊びましょう!」
「僕、鬼ごっこがしたい! 母さまはすごく上手だから、またやろうよ!」
わっと子供たちがリアトリスの周りに集まってきた。
みんな汗だくで、ニコニコしながらリアトリスの返事を待っている。
しゃがんで目線を合わせたリアトリスは、子供たちに向かい説明する。
「そうね。一緒に遊びたいけれど、もうご飯の時間よ。汗を拭いて手を洗ってから食事にしましょう」
「えぇっ~!? もっと遊びたいのにぃ!」
「ねぇお母さま、食事が終わったら一緒に遊んでくれますか?」
まだまだ遊び足りないのか、子供たちに一斉に話しかけられて苦笑する。
「わかったわ。じゃあ、ちゃんと食べて休んでからよ。……けど、さっきまで王女殿下と遊んでいたのではないの?」
「ううん。最初は遊んでくれたけど、疲れたって言ってすぐにどっか行っちゃったよ」
「見てないなら意味ない、とか? よくわからないこと言ってた」
「お姫様ってぜんぜん遊んでくれないんだね」
(呆れた……子供だから何も分からないとでも思ったの? 信じられないわ!)
このくらいの小さな子供は大人のことをよく見て、大人の話を意外とよく聞いている。
そして何も考えずになんでもそのまま話すのが、幼い子供の特徴でもある。姪っ子たちもそうだった。
だから前世でも面倒を見ていた時に何度かやられ、子供の前で滅多なことは言えないと痛感していたのだ。
「そう……とりあえず手を洗って、ご飯にしましょうか」
「「「は~い!」」」
子供たちは素直に返事をして孤児院の中に入っていった。
走って施設に戻る子供たちに気づいたのか、今度はスカーレットがリアトリスのもとへ歩いてきた。
「子供たちがすごく懐いてくれて大変でした。一緒に遊んで遊んでってすごかったです。張り切って走ったから、ちょっとだけ木陰で休んでいました」
先ほど子供たちから聞いた話とずいぶん違う。
話を脚色しているのか、自分ではそう思っているのか……リアトリスは話を聞きながら呆れ果ててしまい閉口していた。
「第一王女は子供が好きなんだな」
辟易しているリアトリスの隣から声をかけたのはアイザックだった。
待ってましたとばかりに、スカーレットが満面の笑みをアイザックに近づいた。
「はいっ! 子供って小さいし可愛いし、大好きです! だからわたくしも、自分の子供はいっぱい欲しいと思ってます!」
精一杯自分をアピールしているのか、上目遣いでアイザックを見つめていた。
女神のような清らかな見た目でこんなふうに見つめられたら、普通の男ならイチコロだろう。
(まぁ、男の人ってこういう女に弱いのよね。自分に好意を寄せてくれてるならなおさらだわ。前世の職場にもいたわね……こういう小狡い娘)
それが悪いことだとは言わない。
意中の男性をオトしたいのなら、これも一つの手だろう。
だが見ていて不快で、自分の心がスッと冷めていくのを感じる。
二人で好きなように話していればいい。
会話を聞いているとムカムカと苛立ってしまうので、リアトリスはすぐにその場から離れた。
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