処女で恋人もできず39歳で不慮の死を遂げた私が、冷遇妃に転生した今世で幸せになれるまで【R18】

ウリ坊

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本編

許せない出来事

 冷めた気持ちで食堂に入ったリアトリスに、子供たちが手を広げて見せてくる。

「お母さま、僕ちゃんと手を洗いました!」
「俺も洗ったよ!」
「私も。洗ってうがいもしましたっ!」

 褒めてほしいのか必死にリアトリスにアピールしている。
 子供たちのアピールは可愛いと思えるのに、どうしてスカーレットがアイザックにアピールするのには憤りを感じるのだろう、と自分でも不思議に思う。
 
「みんな偉いわね。ちゃんと手を洗えて清潔にできる子は大好きよ!」

 みんなが嬉しそうな笑顔を見せて、満足そうに席に着いていく。
 その様子を見ていたリアトリスのエプロンを、誰かがツンツンと引っ張った。

「リアトリスお母さま……私、まだ洗ってませんでした。ごめんなさい……」

 泣きそうな顔で見上げている子がいた。この子は八歳のミヤという女の子だ。

「そうだったのね……素直に言えて偉いわ。そういえばお母さまもまだ洗っていなかったの。ごめんなさいね! 一緒に洗いに行きましょうか?」

 しゃがんでよしよしと頭を撫でると、泣きそうな顔に笑顔が戻る。

「はいっ! お母さまと一緒に洗えて嬉しいです!」

 手を繋いで手洗い場まで歩いていると、スカーレットとアイザックが並んで食堂まで来ていた。
 そしてやり取りを見ていたスカーレットが一言呟く。

「皇妃様って、子供たちにお母さまって呼ばせているんですか……?」

 口元に両手を当てたスカーレットは、不快感を匂わせるような怪訝な顔で呟いていた。
 一瞬聞き間違いかと思うほど、信じられない言葉だった。
 まるでリアトリスが子供たちに強要して、無理やり呼ばせているような言い方だ。
 
「呼ばせているのではなく、子供たちが呼んでくれているのです。……何か問題でもありますか?」
「でも、まだ子供じゃないですか。皇妃様が言わなければ、普通はそんなふうに呼びませんよね? それって子供が可哀想じゃないですか?」

 神経を逆なでするような言葉の数々に、抑えきれない怒りがふつふつと湧いてくる。
 この場で言うことではないし、子供たちが善意で呼んでくれているのに、その想いさえも踏みにじられているようで許せなかった。

「王女でん――」
「違うもんっ!」

 言い返そうとした声を遮ったのは、リアトリスの隣にいたミヤだった。

「っ!」
「お母さまはすごく優しいし、いっぱいぎゅってしてくれるから大好きなの! 本当の子じゃないから、お母さまって呼んじゃいけないの!?」
「……ミヤ」
「別に、わたくしはっ、そんなつもりで言ったわけじゃっ……!」
「なんで可哀想とか言うの!? ミヤは、今がすごく幸せなんだからっ!」

 しゃべり終えたあとわっと泣き出したミヤを、リアトリスはすぐ自分の腕に抱きしめた。
 他の子供たちも周りで聞いて触発されたのか、一緒になって泣いている子もいた。

「王女殿下……少し言葉が過ぎるのではなくて? ここは孤児院で、みんなそれぞれ事情のある子供が大勢いますわ。その子たちを前に、あまりに無神経な発言ではありませんかッ!」

 スカーレットを鋭く睨みつけて、抑えきれない怒りを落ち着かせるように肩で呼吸をする。
 身体が怒りで震え、怒鳴りつけたい気持ちをどうにか理性で抑えた。

「あ、アイザック様ぁ! わたくし、悪気はなかったんですっ!」

 なぜここでアイザックに弁明するのかわからないが、アイザックの腕を掴んで必死になって訴えている。
 悪気がなければ何を言ってもいいわけではないのだ。

「申し訳ございませんが、本日はもうお帰りください! そして、今後のご訪問も控えてもらいます!」
「ひ、ひどいわっ! わたくしは何も悪くないのにっ……!」

 まったく反省の色を見せないスカーレットに、苛立ちが治まらない。
 そんなに二人でイチャつきたいのであれば、さっさといなくなればいい。
 この二人が結ばれようが何をしていようが構わないが、大切な子供たちを傷つけられることも、自分の居場所を乱されるのも絶対に許せなかった。
 
「俺は皇妃の意見に賛成だ。第一王女はもうここに来ないほうがいい。馬車まで送ろう」
「――え……?」
「手を。招かれざる客は退散するべきだ」

 意味を理解していないのか首を傾げていたが、見かねたアイザックがスカーレットの腕を引いて、強引に外まで引っ張っていった。

「あっ、アイザック様!?」

 戸惑いの声を上げて歩き出したスカーレットが食堂からいなくなると、リアトリスは大きく息を吐いた。

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