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本編
厚意と好意と行為
「俺の厚意は受け取れないということか」
不機嫌になったアイザックが、僅かに眉を寄せて低い声で話す。
「滅相もございません。私のことなど、気にかける必要はないと申し上げているだけで、陛下のご厚意を無下にしているわけではありませんわ。それより他にしなければならないことがございましょう? 貴重な情報を聞かせていただけただけでも感謝いたしますわ」
「限りなく他人行儀な返答だ」
はっきり言われたが、リアトリス自身、返す言葉はなかった。
実際にそう思っているし、アイザックのことを夫とも家族だとも思ったことはない。
「他人行儀と申しますか……」
(元々、他人ではありませんか)
口に出して言いたかった心の声は、全てを漏らさずに最後はそっと呑み込んだ。
そう思わせているのは他でもなく、この男だ。
心では他人より遥かに遠い距離にいるとリアトリスは感じている。
最近少しは近づけたと思っていたが、それは自分だけの感覚にすぎない。
「ひとまず、今後の対応は理解いたしました。私は部屋で大人しく待機してますわ。周りを彷徨いてはご迷惑でしょうから」
ふぅっ、と大きく息を吐いた。
自分にできることはないし、いても邪魔になるだけ。
「ハッ、本気で言っているのか? お前は俺の隣にいろ」
「……はい? なんの、為に?」
「お前の能力は非常に便利だ。常に俺の傍に仕え、周りに不穏な動きがあれば全て伝えろ」
どこまでも傲慢な言い方に、胸の奥から怒りが湧き上がる。
思い切り眉間に皺を寄せて抗議する。
「~っ! 陛下には常に影がついていらっしゃいますよね? 私など不要ではないのですか!?」
「……影はどこまでも影だ。余程の事態でなければ表に出ることはない。だがお前なら、俺の隣にいても不自然にならない」
(私を利用する気満々てことね……わかっていたけれど! 変に誤魔化されるよりは、はっきり言われたほうが勘繰らなくてすむわ!)
だからといって怒りが収まるわけではない。
こんな男を好きになってしまった自分は、やはり見る目がないのだろうと自分にも腹が立つ。
「ご要件は承知いたしました。私はとにかく陛下のお傍に侍り、その都度不穏分子をお伝えすればよろしいのですよね?」
「そうだ。日中に限らず……夜もだ」
背を向けていたアイザックが振り返り、リアトリスの反応を伺うように見つめている。
「――ッ! 夜も、でございますか……承知、いたしました」
ドキドキと昂る心臓を抑えるように、胸元を握り締めた。
夜を共に過ごすだけで、抱かれるわけではない。むしろこの男なら、もしものときにリアトリスを犠牲にするのかもしれない。
(そうよ。利用するだけして、いざとなったら見捨てられそうね。アイザックならやりかねないわ)
そう思い込むことで自分の気持ちを落ち着かせた。
ここでアイザックの一言一句に踊らされるのは癇に障る。
そのまま布団に潜り込み目を閉じた。
「私は疲れたので先に休ませていただきますわ。陛下はどうぞ、お好きなようにお寛ぎくださいませ」
布団を頭まで覆い、外の景色を一切遮断した。
しばらくしていればアイザックが勝手に入って来ると思っていたが、覆った布団をすぐにめくられた。
「では、好きなようにさせてもらおう」
これまで抱かれていたように、リアトリスに圧しかかり、ナイトドレスの肩紐に手をかける。
「あっ! お、お待ち、くださいっ。心の準備が……!」
「……今さらどうした。抱かれている時は誰よりも大胆なお前が、珍しく初々しい反応だ」
心を伴う行為はしたことがない。
これまでは媚薬の……そして、動向を探るため……そこで終わりを迎えるはずの行為に、まだ続きがあった。
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