処女で恋人もできず39歳で不慮の死を遂げた私が、冷遇妃に転生した今世で幸せになれるまで【R18】

ウリ坊

文字の大きさ
56 / 62
本編

厚意と好意と行為

 
「俺の厚意は受け取れないということか」

 不機嫌になったアイザックが、僅かに眉を寄せて低い声で話す。

「滅相もございません。私のことなど、気にかける必要はないと申し上げているだけで、陛下のご厚意を無下にしているわけではありませんわ。それより他にしなければならないことがございましょう? 貴重な情報を聞かせていただけただけでも感謝いたしますわ」
「限りなく他人行儀な返答だ」

 はっきり言われたが、リアトリス自身、返す言葉はなかった。
 実際にそう思っているし、アイザックのことを夫とも家族だとも思ったことはない。
 
「他人行儀と申しますか……」
(元々、他人ではありませんか)

 口に出して言いたかった心の声は、全てを漏らさずに最後はそっと呑み込んだ。
 そう思わせているのは他でもなく、このひとだ。
 心では他人より遥かに遠い距離にいるとリアトリスは感じている。
 最近少しは近づけたと思っていたが、それは自分だけの感覚にすぎない。
 
「ひとまず、今後の対応は理解いたしました。私は部屋で大人しく待機してますわ。周りを彷徨うろついてはご迷惑でしょうから」

 ふぅっ、と大きく息を吐いた。
 自分にできることはないし、いても邪魔になるだけ。

「ハッ、本気で言っているのか? お前は俺の隣にいろ」
「……はい? なんの、為に?」
「お前の能力は非常に便利だ。常に俺の傍に仕え、周りに不穏な動きがあれば全て伝えろ」

 どこまでも傲慢な言い方に、胸の奥から怒りが湧き上がる。
 思い切り眉間に皺を寄せて抗議する。

「~っ! 陛下には常に影がついていらっしゃいますよね? 私など不要ではないのですか!?」
「……影はどこまでも影だ。余程の事態でなければ表に出ることはない。だがお前なら、俺の隣にいても不自然にならない」

(私を利用する気満々てことね……わかっていたけれど! 変に誤魔化されるよりは、はっきり言われたほうが勘繰らなくてすむわ!)

 だからといって怒りが収まるわけではない。
 こんな男を好きになってしまった自分は、やはり見る目がないのだろうと自分にも腹が立つ。

「ご要件は承知いたしました。私はとにかく陛下のお傍に侍り、その都度不穏分子をお伝えすればよろしいのですよね?」
「そうだ。日中に限らず……夜もだ」

 背を向けていたアイザックが振り返り、リアトリスの反応を伺うように見つめている。

「――ッ! 夜も、でございますか……承知、いたしました」

 ドキドキと昂る心臓を抑えるように、胸元を握り締めた。
 夜を共に過ごすだけで、抱かれるわけではない。むしろこのひとなら、もしものときにリアトリスを犠牲にするのかもしれない。

(そうよ。利用するだけして、いざとなったら見捨てられそうね。アイザックならやりかねないわ)

 そう思い込むことで自分の気持ちを落ち着かせた。
 ここでアイザックの一言一句に踊らされるのは癇に障る。
 そのまま布団に潜り込み目を閉じた。
 
「私は疲れたので先に休ませていただきますわ。陛下はどうぞ、お好きなようにお寛ぎくださいませ」

 布団を頭まで覆い、外の景色を一切遮断した。
 しばらくしていればアイザックが勝手に入って来ると思っていたが、覆った布団をすぐにめくられた。

「では、好きなようにさせてもらおう」

 これまで抱かれていたように、リアトリスに圧しかかり、ナイトドレスの肩紐に手をかける。
 
「あっ! お、お待ち、くださいっ。心の準備が……!」
「……今さらどうした。抱かれている時は誰よりも大胆なお前が、珍しく初々しい反応だ」
 
 心を伴う行為はしたことがない。
 これまでは媚薬の……そして、動向を探るため……そこで終わりを迎えるはずの行為に、まだ続きがあった。
 

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

【完結】「まずい」と騒ぐだけの毒見役は不要だと追い出されましたが、隣国王子の食卓を守ったら手放してもらえなくなりました

にたまご
恋愛
「穢れた血の孤児が王族の食に触れるな」 七年間、王宮の毒見役として「まずい」と言い続けた少女は、ある日追い出された。 誰も知らなかった。彼女が「まずい」と言うたびに足していた調味料が、食事に混ぜられた毒を中和していたことを。 辿り着いた国境の村の宿屋で、フィーアは初めて自分の料理を作った。 毎日通い詰める無口な旅の商人は、体調が悪そうなのに、フィーアの料理だけは「美味い」と言ってくれて—— 彼の銀杯のワインを一口もらった時、フィーアの舌が反応した。 「……にがい」 ※短編完結/追放/ざまぁ/溺愛

【完結】今さら執着されても困ります

リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。 ・全体的に暗い内容です。 ・注意喚起を含む章は※を付けています。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

身代わりで怪物と呼ばれる大公に嫁いだら、継子達が離してくれなくなりました。

千紫万紅
恋愛
旅芸人一座の看板歌姫を母に持つヴィオラはある日突然、貴族である父のもとへと捨てられた。 引き取られた先は名門ローゼンヴァイス公爵家。しかしそこに彼女の居場所はどこにもなく、庶子であり平民の血を引く存在として冷遇され、やがて『いないもの』として扱われるようになっていった。 そんなある日。 『怪物』と噂されるシューネベルク大公との縁談が、公爵家にもたらされる。 だが正妻の娘である姉アンネマリーはそれを激しく拒絶し、その役目はヴィオラへと押し付けられる。 王命のもと、姉の身代わりとして怪物大公のもとへ嫁ぐことになったヴィオラ。 冷酷で恐ろしい怪物を想像しながら辿り着いた大公城で彼女を待っていたのは、血に濡れた外套を纏う――美しくも危険な男だった。​

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。