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不本意な契約
しおりを挟むそしてアリシアは泣く泣くその場でジェイデンと密約を交わした。
一つ目に、毎週決まった日にジェイデンの相手をすること。
二つ目に、このことを誰にも口外しないこと。そして最後に、決してジェイデンから逃げ出さないこと。
「期限を……、決めてください……」
「期限?」
「はい。このようなことを…一生続けていくことはできません! 私を解放するまでの期間を設けてくださいっ」
精一杯の抵抗のつもりで、ベッドの上からジェイデンを睨むように話した。
ジェイデンはやはり傷ついた顔をして、なぜかアリシアの方が悪いことをしているように感じてしまう。
「本来ならば、そのようなものは設けたくないのですが……、貴女がご所望でしたらひとまず三年でどうでしょう?」
「さ、三年間もっ?! そんなっ……、長すぎます!」
「では……、二年では?」
アリシアはふるふると首を横に振る。
本当なら一日でも無理な話だ。本来なら今すぐここから逃げ出したい。
「それでは一年の契約で決まりですね。細かな取り決めは体調が回復してからにしましょう。もちろん……貴女の気が変わりましたら、喜んで期間を延ばします。いつでも声をおかけください」
優しげに微笑むジェイデンは、とてもアリシアに酷いことを要求しているようには見えない。
「少し……、横になっても、よろしいでしょうか?」
とにかく一人になりたくて、失礼だと思いながらアリシアは無理やりベッドへ潜り込んだ。
「あぁっ……。これは気が利かずに、申し訳ございません。そろそろ退室させていただきます。ごゆっくりお休みください」
布団まで被ってしまったから判らないが、ジェイデンの声には機嫌の良さそうな響きが混ざっていた。
パタン、と扉の閉まる音が響き、部屋の中に静寂が訪れた。
「はぁ……」
ベッドの中で長くて重いため息を吐いた。
どうしてこうなってしまったのか。
もうアリシアの頭の中は後悔しか浮かんでこない。あのとき、全力で抵抗していれば……
またポロポロと涙が溢れてくる。
こんなことを望んでいたわけではない。
夫であるジムの不貞に嫌気がさすほどこういった行為を酷く嫌悪している。
それが毎週決まった日にジェイデンに身体を差し出さなくてはならない。
(なぜ、私なのっ……!? 大公様ならお相手なんていくらでもいらっしゃるはず! 私じゃなくてもいいのに、なぜなのっ!?)
布団に潜り込んだまま、見つかることのない疑問と心の叫びを自分の中にぶつける。
涙が止まることはなく、ただ目を逸らし逃げ出したくなるような現実に打ちひしがれていた。
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