薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

文字の大きさ
9 / 35

しおりを挟む
 

 あれから何日か経ったある日。

 お昼過ぎの人も疎らな時間。
 いつも通り『宿り木』で仕事をしていた二人は、見たことのあるフードの男達が入って来るのを目にする。

「ティナ……あれはもしや」
「えぇ、アシュリー。たぶんアーサー様だと思うわ」
「私が案内してきます」

 アイシャが歩いて行き、フードの男に話しかける。

 少し話すとティアーナの方を向き、コクリと頷いた。
 ティアーナは女将さんに休憩してきていいか聞いてみる。

「ちょうど暇になったからね!ゆっくり休んできなよ~」

「女将さん、個室を一つお借りしてもいいですか?」

「個室かい?別に構わないよ。一番奥が空いてるから、そこ使いな」

「ありがとうございます!」

 
 早速奥の部屋に二人を案内する。
 椅子とテーブル、寝台しかないシンプルな部屋だ。
 
 とりあえず中に入ってもらい、椅子に座ってもらう。ギルバートは立ったままだ。

 
「今日はわざわざこんな場所までご足労頂き、ありがとうございます」

 ティアーナとアイシャが頭を下げる。
 
「いや、遅くなってしまってすまないね。出来るだけ良い物件を探してたんだけど……」

 そう言って、テーブルの上に何枚かの紙を置いていく。

「拝見しても宜しいですか?」

「あぁ、手に取って見てくれ」

 テーブルまで寄り、紙を手に持つ。アイシャと横に並び二人で紙を眺める。
 4枚程見て、どれも中々良い物件なのだが、一枚格安の好物件があった。

「あの、アーサー様。こちらはどうしてこんなに安価なのでしょうか?」

 テーブルに一枚差し出し、アーサーに聞いてみる。

「あぁ、これかい?」

 アーサーが言うには元々が弧児院の跡地で、引き取り手がずっと見つからず、どんどん値段が下がって行ったらしい。

 ここからは少し離れているが、割りと商店街の近くで立地的に悪くない。

「この土地は国の所有で売りに出しているから、安心してもらっていい」

 国が保証してくれるなら、これ以上安心な物件は確かにない。しかも安い。
 今まで沢山の不動産を見てきたが、こんなに好条件の物件は一つなかった。
 それをこの短い間に見つけて来るとは。

(アーサー様って……一体、何者なの?)

 常にフードを被り、しかも光輝くような青銀の髪……貴族でも見たことがない。

 そこでティアーナは一つの可能性にたどり着く。

 青銀の髪……稀に見ることのない髪色。

(確か、リアンタールの言葉を習った時に、講師の先生が仰っていた……リアンタールの王族の特徴……)


 それを思い出したティアーナは一気に青ざめる。

 そうだ、リアンタールの王族の髪色は、世にも珍しい青銀の色だと言っていた。
 
 なぜ今まで忘れていたのか。
 王族と関わるなど、ましてや世話になるなどもってのほかだ。今の逃亡生活で一番関わってはいけない人物だ。
 世話になったところで、ティアーナに返せるものなど、何もない。


「お嬢様?…どうかなさいましたか?」

 ティアーナの異変に気付いたアイシャが、心配そうに横を覗いている。

「あ…の……、アーサー様。申し出は大変嬉しいのですが、やはり私達は自らの力で探そうと思いますので…今回は申し訳ございませんが、お引き取り頂いて宜しいでしょうか……」

 深々頭を下げながら、ティアーナが断りを入れる。

「ティナ?急にどうした?気に入らなかったかい?」

 不思議そうに聞かれるが、ティアーナは頭を下げたまま何も答えない。

「お嬢様…何かありましたか?」

 明らかに様子のおかしいティアーナに、小声で聞くが、答えない。

 不敬を承知で、一刻も早くアーサー達に帰ってもらうしかない。

「ギルバート、悪いが席を外してもらえるか?あと、そこの君も」

 アイシャにも退室を促す。

「しかし……!」

「とりあえず出るぞ。早めに済ませろ」

 まだ物言いたげなアイシャの腕を引き、ギルバートが部屋を出ていく。

 部屋にアーサーとティアーナ二人きりになってしまった。

 俯いたまま顔を上げないティアーナに、アーサーが席を立ち、ゆっくりと近づく。

「ティナ」

 すぐ間近まで来られ、ハッとして後ろに下がり、距離を空ける。

 顔を上げると、フードを外したアーサーが少し傷付いたような顔をしている。
 
 それを見ないふりで、再びティアーナは頭を下げる。

「今までの非礼をお許し下さい。王太子殿下」

「……やっぱり、気付いたんだね」

「はい………」

 もっと早く気づいていれば、この国を出ていたのに。後悔しかない。
 自分の存在がバレるのはまずい。下手すれば国際問題になってしまう。
 カナンとリアンタールでは国力の差が有りすぎる。
 どうすればこの場を切り抜けられる?

「顔を上げて、ティナ」
 
 言われて上げない訳にもいかない。ゆっくりと顔を上げた。

 先ほど空けた距離分を詰めてくる。ジリジリと後ろに下がるが、結局壁際まで追い詰められてしまう。

「そんな顔しないでくれ。君を苦しめたい訳じゃないんだ」

 泣きそうな顔をしていたティアーナの顔に、手を伸ばす。
 そっと顔を撫でられ、身体がビクッと震える。
 
「怯えないで……」

 片方の腕を壁につけ、腕の中に囲われ逃げられなくなる。
 頬を撫でていた手が顎をとらえ、端正な顔がすぐ至近距離まで近づく。
 ぎゅっと目を瞑ると、唇に柔らかいものが触れる。

「ん……」

 時折離しながら、何度も触れてくる。ティアーナはぎゅっと唇に力を入れる。
 ペロリと口先を舐められ、ビクッと身体が跳ねる。
 顎を捉えていた手が脇腹を擽ると、力の入っていた唇が思わず緩んでしまう。
 開いた唇から舌が差し込まれる。

「あっ……ふぅ……ん!」

 引っ込んでいた舌先を絡めるように舐める。そのゾクゾクする快感に、アーサーのローブをぎゅっと掴む。

「はっ……んっ、………んっ……ぅ」
 
 口の中を縦横無尽に這い回る舌の気持ち良さに、次第に力が入らなくなっていく。

「はぁ…ん、………っ……んん」

 しばらく貪られ、離された時には、脚の力が抜けて、壁沿いにズルズルとへたりこんでしまった。

 
 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...