薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

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 コクリと頷いたアイシャ。
 ようやく服を着てベッドに腰掛けた。

「それで…やはりヤッちゃったんですか!?」 

「もうっ、アイシャったら!そんなわけないでしょ!?」

 あまりに直球な言葉に真っ赤になりながら否定するティアーナ。

「あ、申し訳ございません。しかしあの状況だと、事後なのかと……」

 ティアーナは、はぁ…とため息をつく。
 誤解されてもしょうがないし、実際は際どい事までしてしまった。

「アイシャには嘘をつけないから正直に言うわ……実は、半分は、当たってるのよ…」

 身体を縮めるように頬を染めて恥じらうティアーナはひどく可愛くて、アイシャも思わず顔を緩める。

「ティアーナ様が望んだ事ならば私は何も言いません。ではアーサー様とご一緒になられるのですか?」

 アイシャの言葉にティアーナは頷くことは出来なかった。

「─…」

 アーサーはティアーナを受け入れると言ってくれた。自分の出自以外は呪いの事まで話したのに。

 だがそれは、アーサーだけの気持ちだ。

 アーサーはこの国の王太子。
 国を背負い、子孫を残す義務も担っているのに、自分のような伴侶を一人しか娶れない血筋を入れてしまっては国内からの反発は必至だろう。
 上に立つ者としてティアーナもわかっている。
 それが不可能なことに。
  
 無言になり、下を向いて考え込むティアーナをアイシャは心配そうに見ている。

「貴女が望まないのでしたら、潔くここから離れましょう!」

「…アイシャ……」

 立ち上がったアイシャはティアーナの側まで来ると、ベッドに腰掛けているティアーナの前で跪く。

「ティアーナ様、私はどこまでも貴女と共に参ります。迷いは時に過ちを生みます。もし選べないのであれば、全てを断ち切り新たに道を切り開くことも必要です」

 下から真っ直ぐにティアーナを見上げるアイシャ。
 ティアーナの迷いを読み取る様に、はっきりと断言してくれている。

 ティアーナ自身、その考えをずっと持っていた。
 自分はアーサーの側にいてはいけないのだと。
 
「今日…師匠に聞いてまいりました。アーサー様の事についての話です」

「えぇ…何て?」

「アーサー様にご婚約者様はいらっしゃらないようです。そして正妃様以外、他の方は望まれないとご本人は仰っているようですが…しかし、周りがそれを許さないだろうと師匠は言っていました」

「やはり…そうよね……」

 アイシャは腫れた手首にそっと触れる。
 
「できる限り早い方が、私は宜しいかと存じます」

 真っ直ぐに見上げているアイシャ。
 ティアーナは考えるように瞳を閉じる。
 
 煮えきらないのは自分の気持ちだけ。

 全ての事実が別離を示している。

(アーサー様、申し訳ございません…上着は返せそうにないようです…)

 また瞳を開けて、今度は心配そうに見上げるアイシャに向かい笑顔を見せる。

「わかったわ。できる限りと言わず…今すぐ、ここを離れましょう」

「…御意にございます」

 跪いたまま頭を下げ、自身の主に賛同する。
 結果として怪我をしたことが良い方向へと繋がった。
 2、3日の間は、自分が王宮に稽古へ行かなくても疑われないということだ。


 

 そこからの行動は驚くほど早く進められた。以前より次の移住地も決め、下準備は整っていたからだ。
 
 元々ある少ない荷物と、女将さん達への置き手紙を机の上に置き、フードを被り離れの部屋から静かに宿屋を出て裏道に進む。

  
 
 こうして人知れずティアーナとアイシャは、お世話になった宿屋を後にした。



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