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翌朝。
簡単な朝食を二人で取り、乗り合い馬車での移動を開始する。袋に詰めた衣類の入った荷物を下に引き、ティアーナは荷台の上から海を見ていた。
もう首都の景色からはほど遠く、周りに見えるのは宏大な海原と平原だけ。
その景色を見ながら物悲しい想いを断ち切るように、ティアーナはこれからの生活に思考を切り替えた。
数時間後、ようやく次の港町へと着いた。
この町はティアーナ達が住み移ろうと考えていた場所まであと僅かだった。
馬車から降りると二人は大きく身体を伸ばした。
「お嬢様、もう一度馬車で移動すれば目的地へと着きますね!」
お尻を擦り笑顔で話すアイシャ。
「えぇ。これからはスローライフを楽しみましょうね。アイシャと一緒ならどこでも楽しく過ごせそうだわ」
ティアーナも笑顔でアイシャに返す。
二人で小さな港町を散策しながら昼飯を食べ、馬車の時間まで時間を潰していた。
「ん?…お嬢様、あれは……」
海岸沿いを歩き港に停泊している船を見てアイシャが口を開いた。
小さな港町に似つかわしくない立派な船が停まっていた。
「あ、……あの…旗は…」
立派な船に風に靡くようにばたばたと旗が揺れている。その船の旗には大国サンドリアの国旗が描かれていた。
しかも船の甲板には公爵家の紋様が入った騎士団と、忘れもしないあの恰幅のよい脂ぎった公爵がいた。
ティアーナの顔面がサァー…と蒼白に変わる。
まさか逃亡した先に一番逃げなければならない相手がいるとは思ってもいなかった。
「お嬢様!あちらはまだ気付いておりません…今すぐここから逃げましょう!」
アイシャも気付いたのか小声で耳打ちしてくる。
身体の震えが止まらないティアーナの肩を抱き、足早にその場を去ろうと振り返った。
「そこの女達っ!」
港を歩いていたアイシャとティアーナはビクッとしたが、周りには見物客が沢山人が居たので、気付かない振りをしてその場を去ろうとした。
「おいっ!逃げるなっ!!そのフードのお前達だ!」
恐らく公爵の従者と思われる騎士だ。
アイシャはくるりと振り向き、笑顔でその騎士に話しかけた。
「私達で御座いますか?騎士様、何か御用で御座いましょうか?」
うるうると騎士を見つめるアイシャの瞳に、公爵家の騎士はウッと顔を赤くする。
「や、お前達…怪しいな…。何故こんな田舎で姿を隠している」
アイシャは心の中で舌打ちする。
確かにこんな田舎の港町でフードを目深に被り警戒しているのは逆に怪しい。
ここは見物客を装い、身なりを隠す必要は無かった。
「不審に思われたのでしたら、申し訳御座いません。うちのお嬢様は日光に弱いお方ですので…どうしても外出の際はこのような格好をしなくてはいけないのです…」
悲しそうに瞳を伏せ、庇うようにフード姿のティアーナを抱きしめた。
「ご貴族の令嬢か……、お忍びならもう少しマシな場所を回られると良かろう」
咄嗟についた嘘に騎士は見事騙されてくれた。
「ここは空気が良いので、療養には最適なのです。お騒がせして申し訳御座いません。失礼致します…」
ティアーナの身体を抱きつつ、騎士に礼をしてその場を離れようと踵を返した。
アイシャはふぅ…と安堵のため胃をつき、港から急いで離れる。
「おいっ!待て!」
呼び止めたのは他でもないあの公爵だ。
ティアーナは身体を震わせて俯く。アイシャは振り返る事もせずティアーナの手を引きその場から走り出す。
「むっ!あの女は…捕まえろっ!!二人とも逃がすなぁっ!!」
「ック!逃げますよっ!」
アイシャとティアーナは港とは反対方面の町中へと走り出した。まだ人混みがある方が見を隠せると踏んだからだ。
アイシャは全力で走り出すが、ティアーナがそれに付いていけない。
「はぁ!はぁ、…待って!アイシャ…!」
「ティアーナ様っ、今だけ、ご辛抱下さいっ!」
息を切らし追いかけて来る騎士達の追手を躱そうと試みるが、ティアーナの体力が限界にきた。
町中の路地でティアーナは足が縺れて転んでしまう。
「あっ、つぅ!」
「ティアーナ様!!」
手を離したティアーナの元へアイシャは引き返し、倒れ込んだティアーナの元に寄り添う。
その後を追って来た騎士達に囲まれる。
「お前達っ、もう、逃げられんぞ!」
「大人しくしろっ!」
へたり込んだティアーナをアイシャが庇うように抱きしめ、囲んだ騎士達を牽制する。
周りの町民達は何事かと野次馬と化し、ざわざわしながら周りで見物している。
騎士達は剣を抜き、ティアーナを守るように庇っているアイシャに剣を向ける。
「何に変えても、貴方をお守りしますっ」
恐怖に蹲っていたティアーナは、頭上からふるアイシャの言葉にはっとする。
アイシャは隠していた剣を取り出し、騎士達を牽制するように両手で構えた。
「コイツっ!女騎士か!?」
「剣を隠してたとは!」
今にも斬りかかりそうなアイシャに、ティアーナは慌てて行動を諌める。
「やめて!アイシャっ!」
ティアーナは膝立ちし、剣を構えているアイシャの背中を掴んだ。
「止めないで下さいっ!危ないので下がって!!」
必死で牽制するアイシャに、不愉快な声が響く。
「これはこれは…私の愛しい妻ではありませんか?」
声の先にはあの気色悪い公爵が笑いながら馬車から降りて来た。
翌朝。
簡単な朝食を二人で取り、乗り合い馬車での移動を開始する。袋に詰めた衣類の入った荷物を下に引き、ティアーナは荷台の上から海を見ていた。
もう首都の景色からはほど遠く、周りに見えるのは宏大な海原と平原だけ。
その景色を見ながら物悲しい想いを断ち切るように、ティアーナはこれからの生活に思考を切り替えた。
数時間後、ようやく次の港町へと着いた。
この町はティアーナ達が住み移ろうと考えていた場所まであと僅かだった。
馬車から降りると二人は大きく身体を伸ばした。
「お嬢様、もう一度馬車で移動すれば目的地へと着きますね!」
お尻を擦り笑顔で話すアイシャ。
「えぇ。これからはスローライフを楽しみましょうね。アイシャと一緒ならどこでも楽しく過ごせそうだわ」
ティアーナも笑顔でアイシャに返す。
二人で小さな港町を散策しながら昼飯を食べ、馬車の時間まで時間を潰していた。
「ん?…お嬢様、あれは……」
海岸沿いを歩き港に停泊している船を見てアイシャが口を開いた。
小さな港町に似つかわしくない立派な船が停まっていた。
「あ、……あの…旗は…」
立派な船に風に靡くようにばたばたと旗が揺れている。その船の旗には大国サンドリアの国旗が描かれていた。
しかも船の甲板には公爵家の紋様が入った騎士団と、忘れもしないあの恰幅のよい脂ぎった公爵がいた。
ティアーナの顔面がサァー…と蒼白に変わる。
まさか逃亡した先に一番逃げなければならない相手がいるとは思ってもいなかった。
「お嬢様!あちらはまだ気付いておりません…今すぐここから逃げましょう!」
アイシャも気付いたのか小声で耳打ちしてくる。
身体の震えが止まらないティアーナの肩を抱き、足早にその場を去ろうと振り返った。
「そこの女達っ!」
港を歩いていたアイシャとティアーナはビクッとしたが、周りには見物客が沢山人が居たので、気付かない振りをしてその場を去ろうとした。
「おいっ!逃げるなっ!!そのフードのお前達だ!」
恐らく公爵の従者と思われる騎士だ。
アイシャはくるりと振り向き、笑顔でその騎士に話しかけた。
「私達で御座いますか?騎士様、何か御用で御座いましょうか?」
うるうると騎士を見つめるアイシャの瞳に、公爵家の騎士はウッと顔を赤くする。
「や、お前達…怪しいな…。何故こんな田舎で姿を隠している」
アイシャは心の中で舌打ちする。
確かにこんな田舎の港町でフードを目深に被り警戒しているのは逆に怪しい。
ここは見物客を装い、身なりを隠す必要は無かった。
「不審に思われたのでしたら、申し訳御座いません。うちのお嬢様は日光に弱いお方ですので…どうしても外出の際はこのような格好をしなくてはいけないのです…」
悲しそうに瞳を伏せ、庇うようにフード姿のティアーナを抱きしめた。
「ご貴族の令嬢か……、お忍びならもう少しマシな場所を回られると良かろう」
咄嗟についた嘘に騎士は見事騙されてくれた。
「ここは空気が良いので、療養には最適なのです。お騒がせして申し訳御座いません。失礼致します…」
ティアーナの身体を抱きつつ、騎士に礼をしてその場を離れようと踵を返した。
アイシャはふぅ…と安堵のため胃をつき、港から急いで離れる。
「おいっ!待て!」
呼び止めたのは他でもないあの公爵だ。
ティアーナは身体を震わせて俯く。アイシャは振り返る事もせずティアーナの手を引きその場から走り出す。
「むっ!あの女は…捕まえろっ!!二人とも逃がすなぁっ!!」
「ック!逃げますよっ!」
アイシャとティアーナは港とは反対方面の町中へと走り出した。まだ人混みがある方が見を隠せると踏んだからだ。
アイシャは全力で走り出すが、ティアーナがそれに付いていけない。
「はぁ!はぁ、…待って!アイシャ…!」
「ティアーナ様っ、今だけ、ご辛抱下さいっ!」
息を切らし追いかけて来る騎士達の追手を躱そうと試みるが、ティアーナの体力が限界にきた。
町中の路地でティアーナは足が縺れて転んでしまう。
「あっ、つぅ!」
「ティアーナ様!!」
手を離したティアーナの元へアイシャは引き返し、倒れ込んだティアーナの元に寄り添う。
その後を追って来た騎士達に囲まれる。
「お前達っ、もう、逃げられんぞ!」
「大人しくしろっ!」
へたり込んだティアーナをアイシャが庇うように抱きしめ、囲んだ騎士達を牽制する。
周りの町民達は何事かと野次馬と化し、ざわざわしながら周りで見物している。
騎士達は剣を抜き、ティアーナを守るように庇っているアイシャに剣を向ける。
「何に変えても、貴方をお守りしますっ」
恐怖に蹲っていたティアーナは、頭上からふるアイシャの言葉にはっとする。
アイシャは隠していた剣を取り出し、騎士達を牽制するように両手で構えた。
「コイツっ!女騎士か!?」
「剣を隠してたとは!」
今にも斬りかかりそうなアイシャに、ティアーナは慌てて行動を諌める。
「やめて!アイシャっ!」
ティアーナは膝立ちし、剣を構えているアイシャの背中を掴んだ。
「止めないで下さいっ!危ないので下がって!!」
必死で牽制するアイシャに、不愉快な声が響く。
「これはこれは…私の愛しい妻ではありませんか?」
声の先にはあの気色悪い公爵が笑いながら馬車から降りて来た。
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