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序章 自殺死体
序章 自殺死体
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その日の高岡市立高岡第一高校の二年三組の教室は蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれていた。
ことの発端は最初に教室に入った女子生徒の視界に、だらりと垂れた手が入ったことからである。その女子生徒が視線を上げると、男子生徒が首をくくっていた。
その顔はまるで蝋のように白く、薄く開いた眼には光は感じられなかった。
「最初は何かのドッキリだと思っていたんです。彼の体に触れて、体が冷たくなっていたことと、下に遺書が落ちていたことに気づいたとき、はじめて彼が亡くなっていることに気づきました」
第一発見者として警察から事情聴取を受けた女子生徒が答える。
「何か自殺の動機について心当たりはありますか?」
警察官が尋ねる。
「彼は明るくて人当たりもいいし、彼に好意を抱いている生徒も少なくありませんでした。なんで彼が自殺したのか…、あっ、一つ心当たりがあることはあります」
「詳しくお聞かせ願えますか?」
「同じクラスの田村君と高井君にお金を渡していたのを見かけました。その時、藤村君が嫌な顔をしていたのが見えていたんです。」
「なるほど、恐喝の可能性も考えられますね。ご協力、ありがとうございます」
次に警察は、女子生徒が言っていた二人の生徒、田村孝宏と高井直人に聴取を開始した。
「ええ、確かに藤村君からお金をもらいました。ですが、もちろんせびっていたわけじゃありません。どうしても必要なものがあったのですが、お金が足りなくて、藤村君から借りてたんです」
「欲しかったものとは何ですか?」
「俺の彼女の川田美菜の誕生日が近かったので、彼女が欲しがってたバッグを買おうと思ってました。ただ、お金が少し足りなかったので、藤村君から借りてたんです。もちろん、当てが付いたら返す約束でした」
「それで、返したんですか?」
「ええ、もちろんです。なあ、直人?」
「ええ」
高井も同調する。
「藤村君が嫌な顔をしていたと証言があったのですが、ご説明いただけますか?」
「そりゃもちろんでしょう。お金を他人に渡すのにいい顔をする人間は少ないはずですから」
「それを分かってないほど俺たちも馬鹿じゃありません。だから、ちゃんと返しました」
「なるほど、ご協力ありがとうございます」
田村と高井への聴取も終わった。
後日、生徒の遺書が捜査班の中で確認された。その遺書はワープロ打ちで、生徒の所持していたパソコンから同じデータが発見された。
結果、その男子生徒・藤村悠太郎は、自殺と処理された。
だが、彼の蠟のように白い顔を見て、私は考えを巡らせていた。
“何かがおかしい”
私は翌日から、独自に捜査を開始した。友人や二年三組の生徒に話を聞き、何か情報があれば積極的に集めた。
その中で、特に有力な情報が悠太郎のクラスメイトから得られた。
「俺、見ちまったんだよ。藤村が田村と高井、あと川田と澤木の四人にいじめられてたところをな」
“詳しく聞かせてくれないか?”
「ああ、藤村が自殺する二か月前ぐらいに、用事で帰るのが遅くなって、帰ろうとしたら、うっすら校舎裏から笑い声がしたんだ。気になってこっそり覗いてみたら、藤村が田村と高井に殴られてたんだ。川田はそれを動画で撮影してて、澤木は周りを見渡してた。」
“それを先生や警察には言わなかったのか?”
「ああ。言った方がいいってのはわかってたんだけど、あいつらの報復が怖かったんだ。どこからバレるかわからないし、もしバレたら藤村の二の舞になるんじゃないかって考えると、言えなかったんだ」
“そうか、それも自然な判断だ。君は悪くない。このことは他の人には言わないから、安心してくれ”
「ああ、頼む」
その男子生徒に礼を言い、別れた。
悠太郎は四人にいじめを受けていたことが判明した。しかし、私にはどうも心に引っかかるものがあった。
“なぜ、あの悠太郎が、いじめなんかで自殺するんだ?”
その点だけが、胸に引っかかっていた。いじめをしていたという点だけでは、自殺の証拠としては薄い、もう少し情報が欲しかった。
しかしそれ以降、進展が滞ってしまった。確たる証拠がつかめず、時間だけが過ぎていった。
私は一つの賭けに出た。
「私はすべてを知っている。警察に知られたくなければサバゲーの部室へ来い」と書いた手紙を四人の机に仕込んだ。そして、サバゲー同好会の部室のロッカーに仕掛けを仕込んだ。
賭けは、私の勝利だった。
ついに手に入れたのだ。
あの悪魔たちの告白を。
ことの発端は最初に教室に入った女子生徒の視界に、だらりと垂れた手が入ったことからである。その女子生徒が視線を上げると、男子生徒が首をくくっていた。
その顔はまるで蝋のように白く、薄く開いた眼には光は感じられなかった。
「最初は何かのドッキリだと思っていたんです。彼の体に触れて、体が冷たくなっていたことと、下に遺書が落ちていたことに気づいたとき、はじめて彼が亡くなっていることに気づきました」
第一発見者として警察から事情聴取を受けた女子生徒が答える。
「何か自殺の動機について心当たりはありますか?」
警察官が尋ねる。
「彼は明るくて人当たりもいいし、彼に好意を抱いている生徒も少なくありませんでした。なんで彼が自殺したのか…、あっ、一つ心当たりがあることはあります」
「詳しくお聞かせ願えますか?」
「同じクラスの田村君と高井君にお金を渡していたのを見かけました。その時、藤村君が嫌な顔をしていたのが見えていたんです。」
「なるほど、恐喝の可能性も考えられますね。ご協力、ありがとうございます」
次に警察は、女子生徒が言っていた二人の生徒、田村孝宏と高井直人に聴取を開始した。
「ええ、確かに藤村君からお金をもらいました。ですが、もちろんせびっていたわけじゃありません。どうしても必要なものがあったのですが、お金が足りなくて、藤村君から借りてたんです」
「欲しかったものとは何ですか?」
「俺の彼女の川田美菜の誕生日が近かったので、彼女が欲しがってたバッグを買おうと思ってました。ただ、お金が少し足りなかったので、藤村君から借りてたんです。もちろん、当てが付いたら返す約束でした」
「それで、返したんですか?」
「ええ、もちろんです。なあ、直人?」
「ええ」
高井も同調する。
「藤村君が嫌な顔をしていたと証言があったのですが、ご説明いただけますか?」
「そりゃもちろんでしょう。お金を他人に渡すのにいい顔をする人間は少ないはずですから」
「それを分かってないほど俺たちも馬鹿じゃありません。だから、ちゃんと返しました」
「なるほど、ご協力ありがとうございます」
田村と高井への聴取も終わった。
後日、生徒の遺書が捜査班の中で確認された。その遺書はワープロ打ちで、生徒の所持していたパソコンから同じデータが発見された。
結果、その男子生徒・藤村悠太郎は、自殺と処理された。
だが、彼の蠟のように白い顔を見て、私は考えを巡らせていた。
“何かがおかしい”
私は翌日から、独自に捜査を開始した。友人や二年三組の生徒に話を聞き、何か情報があれば積極的に集めた。
その中で、特に有力な情報が悠太郎のクラスメイトから得られた。
「俺、見ちまったんだよ。藤村が田村と高井、あと川田と澤木の四人にいじめられてたところをな」
“詳しく聞かせてくれないか?”
「ああ、藤村が自殺する二か月前ぐらいに、用事で帰るのが遅くなって、帰ろうとしたら、うっすら校舎裏から笑い声がしたんだ。気になってこっそり覗いてみたら、藤村が田村と高井に殴られてたんだ。川田はそれを動画で撮影してて、澤木は周りを見渡してた。」
“それを先生や警察には言わなかったのか?”
「ああ。言った方がいいってのはわかってたんだけど、あいつらの報復が怖かったんだ。どこからバレるかわからないし、もしバレたら藤村の二の舞になるんじゃないかって考えると、言えなかったんだ」
“そうか、それも自然な判断だ。君は悪くない。このことは他の人には言わないから、安心してくれ”
「ああ、頼む」
その男子生徒に礼を言い、別れた。
悠太郎は四人にいじめを受けていたことが判明した。しかし、私にはどうも心に引っかかるものがあった。
“なぜ、あの悠太郎が、いじめなんかで自殺するんだ?”
その点だけが、胸に引っかかっていた。いじめをしていたという点だけでは、自殺の証拠としては薄い、もう少し情報が欲しかった。
しかしそれ以降、進展が滞ってしまった。確たる証拠がつかめず、時間だけが過ぎていった。
私は一つの賭けに出た。
「私はすべてを知っている。警察に知られたくなければサバゲーの部室へ来い」と書いた手紙を四人の机に仕込んだ。そして、サバゲー同好会の部室のロッカーに仕掛けを仕込んだ。
賭けは、私の勝利だった。
ついに手に入れたのだ。
あの悪魔たちの告白を。
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