冷めたコーヒーと寝かせたカレー

花里 悠太

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夜明けの小窓

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 夕方。

 同僚の彼はいそいそと帰宅準備をしている。
同棲している彼女が待っている家に帰るのだろうか。

 彼と昔同僚だった彼女が同棲してから一年以上。
出会いは、この会社。
今は転職してしまった彼女に彼がアプローチして付き合い始めた。

 仲良かった彼女が、彼の押しに負けて付き合い始めたと聞いた時は腹が立った。
社内恋愛も嫌だしね、と言って転職していった彼女。
それを聞いてますます腹が立った。

 帰り支度をしていた彼がスマートフォンを見て顔色を変える。
パソコンを開いたまま、慌てて退社した。
何気なく覗くと、今夜発の電車チケット手配画面。

 しかし、彼に興味はない。
家には昨日作ったカレーがまだ残っている。
一晩寝かせて美味しくなってることを期待して仕事を頑張ることにする。


 夜が来た。

 電車で帰宅中、頭に浮かぶのは仲良かった彼女のことだ。
明るくて押しに弱くて、一緒にいるとホッとした。

 同棲して転職してから、疎遠になって会ってもいない。
でも、彼女の笑顔が忘れられない。
カレーに隠し味でコーヒーを入れる事を教えた時に見た、満面の笑みが頭に浮かぶ。

 車窓から外を眺めてみる。
夜の街はこれからが本番だとばかりに、うわついた感じで光っている。
仲良く夜の街に繰り出していく人々をぼんやりと見送っていた。

 唐突にスマートフォンが揺れる。
今日彼は仕事で忙しそうか、と彼女からメッセージが届いた。

 彼のただならない様子を思い返す。
彼女に説明するべきか、ためらう。
悩んだ私は、定時で帰ったと言う事実だけをメッセージした。

 結果、彼女からは返事がこない。

 魔がさした。
こう返したらショック受けることはわかっていた。
ただ、彼女を取り戻せるのではないかと思ってしまった。
でも、嘘はついてない。

 嘘はついていない。


 夜が更ける。

 帰宅して、インスタントコーヒーを入れてカレーを温める。
一口食べると、彼女の笑顔が頭に浮かんで泣きそうになり、そのままスプーンを置いた。

 彼女を傷つけた。
マグカップから漂うコーヒーの香りを感じながら、返事がこないスマートフォンを眺め続ける。

 彼女はきっと傷ついた。
笑顔でいて欲しいのに、私の言葉で彼女の傷をえぐった。

 時間が過ぎていく。


 夜が明ける。

 結局眠れなかった。
冷めたコーヒーと、一晩寝かせたカレー。
結局返ってこなかった。

 窓から差し込む朝日の光が、スマートフォンの画面で反射する。
眩しさに浮かぶ涙を拭いつつ、手元の小窓を眺め続けていた。
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