運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

文字の大きさ
2 / 58
配送履歴#1 配送物『妹』

第1話 依頼人のお兄さんの事情

しおりを挟む
「おねがいだ、妹をたすけてくれよ!」

 街の入り口。
満身創痍という表現がふさわしい恰好の青年が、見張りをしている衛兵に呼びかけた。

「何があった?落ち着いて話してくれ」
「隣街からここに来る途中でゴブリンの群れに襲われたんだよ!」
「ゴブリン?どこでだ!」

 気色ばむ衛兵たち。
ゴブリン単体では大した事ない強さだが、集団で連携して行動するため非常に厄介な存在だ。
彼らは知能が高く、衛兵で防衛されている街を襲撃することはほとんどない。
しかし、行商人や薬草採取している人間など、街から離れるタイミングを狙って襲撃することは時々あった。

「街道から少し山に入った山小屋だよ、頼む!」
「あの山小屋か」

 途端に苦い顔をする衛兵たち。
表情の変化を気にする余裕もなく青年は続ける。

「なんとか小屋に逃げ込んで、結界石を使って籠ってたんだ」
「……」
「あいつら全然諦めなくて。結界石も一日しか持たないし。このままだとじり貧だから、何とか一人で抜け出して助けを呼びに来たんだ。お願いします!」
「あのな、言いにくいんだが」

 そこまで話したところで、青年は衛兵たちの表情が曇っていることに気づいた。

「は、はい」
「その山小屋があるところは隣街の領地でな。領土侵犯になるから我々が向かうことはできないんだよ」
「……え?」
「すまんな。隣街にいって、そちらの衛兵に頼んでもらえるか」

 呆然とする青年に対して、衛兵たちは申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、はっきりと助けを拒絶した。

「いや、だって、あっちの街に戻ってそこからって、何日かかるかわからない!」
「すまん」

 隣街の外壁、衛兵がいるところまでは馬車でも二日程度かかる。
馬でいったとしても一日くらいは必要だ。
青年の悲痛の叫びは届かず、衛兵たちにできることは謝罪だけだった。

「くそ、なんとか急いで助けに行く方法はないのかよ」
「……ここからは独り言なんだが」

 うなだれる青年をみて、そこまで無言だった年配の衛兵がつぶやく。

「?」
「この街に運び屋がいる」
「運び屋?」
「人でもなんでも、どこまでも届けてくれる。ただ」

 顔をあげる青年からは視線をそらし、あくまでも独り言の体をとり続ける年配の衛兵。

「ただ?」
「かなり金額を吹っ掛けられる。そして、ちょっと荒い」
「だとしても! 元の街に送ってくれるのであれば頼みたい!」

 最速で隣町に向かわないと間に合わない。
青年の目に迷いはない。
年配の衛兵はそれを見て、続けてつぶやいた。

「この道をまっすぐ行ったところに商業ギルドがある。そこの受付で、『兎』に荷物を届けてほしい、と言ってみろ」
「『兎』?」
「『兎』に荷物を届けてほしい、だ。それで通じるはずだ」
「ありがとう!行ってみる」
「妹さんの無事を祈っている」

 礼を述べ、指示された道を駆け出してく青年。
最初に声をかけられた衛兵は年配の衛兵に話しかける。

「隊長、『兎』紹介して大丈夫だったんですか」
「我々が助けられない以上、仕方ないだろう。彼らの無事を祈ろう」

 それぞれの信じる神に祈りを捧げて、青年を見送った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...