運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

文字の大きさ
36 / 58
配送履歴#5 配達物『容疑者』

第30話 容疑者は運び屋『兎』

しおりを挟む
 十分と待たずに部屋に衛兵が一人を連れて入ってきた。
その人物は兄妹からも見覚えがある人物だ。

「待たせて済まない、お前たちか? カバに乗ったことがあるというのは?」
「りょ、領主様ですか?」

 入ってきたのは告知を出した主、すなわちこの街の領主だった。

「そうだ、なにぶん情報が乏しくてな。情報を直接聞きたいのだ」
「は、はい」
「で、どういう経緯でカバに乗ったのだ?」

 兄妹は役人に情報話して小遣い稼ぎ程度の感覚だったため、いきなり街のトップと話すことになるのは想像してなかった。
緊張で言葉に詰まりながら話をする。

 まずは街道沿いで兄妹たちが住む街から、隣街を目指していたこと。
道中、木の実などを採取するために街道から少し森に入ったこと。
そこでゴブリンの集団に襲われ、命からがら山小屋に逃げ込んだこと。
妹を結界石の中に残して、隣街に助けに行ったこと。

 そこまで話したところで領主が口を挟む。

「ゴブリンに襲われたのか?」
「はい、襲われました。とっていた木の実とか旅の道具などは落としてしまいました。多分取られたんだと思います」
「貴重品は?」
「旅銀などの貴重品は肌身離していなかったので何とか取られませんでした」
「そうか、それは不幸中の幸いというやつだな。話を遮って悪かった。続けてくれ」

 領主は促しながら、内心首を傾げる。

(何というか、山賊にしてはえらく詰めの甘いゴブリンだな?)

 ゴブリンに襲われた割にはそこまで大きな怪我をしているようには見えない。
山賊に狙われたにしては被害が小さい気がしている。

 そんな様子を知ってかしらずか、兄は続ける。

「はい、隣街に到着したところで、その衛兵に運び屋を紹介されました」
「運び屋、だと?」
「何でも、どこでも運ぶことができる運び屋だとのことでした。その名前は」
「『兎』か?」

 そこまで話したところで領主は口を挟む。
言い当てられた兄はびっくりしながら肯定する。

「はい、そうです。運び屋『兎』をご存知なんですか?」
「前掛けのカバンに兎がいる少女だな」
「あっています。彼女に仕事として依頼して、山小屋にいる妹を助けて、街まで連れて行ってもらいました」
「なるほど、運び屋に助けてもらった、という話だな」
「彼女のおかげで妹は無事だったんです」

 妹の肩に手を当てて涙ぐむ兄。
ただ、領主の方にはわからないことが一つあり、首を傾げながら聞いた。

「ん? 今の話のどこに、山賊のカバに乗る話があったのだ?」
「あ、いえ、あの」

 問い詰めるというより純粋に疑問に思って聞いたのだが、言葉に詰まりながら兄は説明した。

「乗ったのは山賊のカバではなくてですね。運び屋の方のカバです」
「運び屋? 何で運び屋がカバなのだ?」
「あの少女は召喚士で。カバは召喚獣のようでした」
「召喚士。なるほど」

 領主の頭には夫人の薬に薬物を混入させられそうになった時、不思議な動きで阻止した場面が浮かんでいた。
ユウヒは衛兵に挟まれていたはずなのに、気づけばメイドのそばに立っていた。
御伽話の空間転移のような、あり得ないはずの動きだったのである。

 納得いくと同時に、さらなる疑念が浮かんでくる領主。

「ん、そうすると森を荒らしたのは運び屋なのか?」
「ええっとですね。ユウヒ、運び屋は一直線に山小屋を目指しただけでして」
「一直線に?森の中を?」
「はい。えっと、その、木を薙ぎ倒しながら」
「ふむ」

 考え込み、自分の世界に入った領主はぶつぶつと呟き出す。

「……なるほどな、その手段を持っていれば短期間で密書を持ってくるのも可能か……」
「すみません、運び屋は妹を助ける手助けをしてくれただけでして。山賊の仲間じゃないです。」
「そうなんです、でもカバの情報ちゃんと持ってきましたよね」

 その様子を見て、不興をかったと思った兄と、報酬をもらえないかもしれないのを危惧した妹が領主に話しかける。
領主はその様子に気づいた様子もなくぶつぶつ呟く。

「……そうすると山小屋からこちらの町にも薙ぎ倒された場所がある? ならばいっそ道にしてしまうのはどうだろう……」
「あの、領主様、ユウヒは悪くないんです」
「あの、報酬を」
「……あの運び屋に道案内を頼めば意外と現実的に道を作ることができるかもしれんな……」

 やはり、領主は戻ってこない。
兄妹も何とか領主に話を聞いてもらおうと話続けて、場は混沌としてきた。

 領主を連れて入室してきた後無言で控えていた衛兵は、このままでは不味いと判断。
状況打破するための一手を打つ。

「領主様、報告いたします!」

 突如大声を発した衛兵に驚く兄妹。
領主はその声を聞いて、表情を引き締めて衛兵に向き直った。

「どうした!?」
「そこの者たちが困惑しております。今はお話の続きを」
「おお、すまないな。またやっていたか」

 よくあることなので慣れている衛兵によって、自分の世界から戻ってくる領主。
展開についていけない兄妹はポカーンとその様子を眺めていた。
領主は兄妹に改めて話しかける。

「有用な情報だ。感謝する。報酬を渡そう」

 金貨十枚を袋に入れて兄に渡す領主。
兄はそれを受け取って礼を言った。

「ありがとうございます」
「ただ、追加で頼みたいことがあるのだが、引き受けてもらえないだろうか」
「頼みたいこと、ですか?」

 怪訝な顔をする兄妹。
領主に仕事を依頼されるようなことに心当たりがない。
領主はちょっと悪戯を仕掛けるような笑みを浮かべて、兄妹に告げた。

「森を荒らしたと思われる容疑者をここまで連れてくる必要がある」
「……! 私がユウヒを捕まえるんですか? 無理ですよ!」
「そうではない、衛兵を向かわせる。ただ、顔がわかっているものがいないからな。面通しと道案内を頼みたいのだ」
「そんな、私にはできません」

 恩人を重要参考人として連れてくる話を裏切りと捉えて、領主の頼みを受けることを躊躇する兄。
しかし、領主が次の発言をした瞬間。

「街道を馬車で隣街に行くからな。一週間くらいはかかる。報酬は連れてきた時点で金貨五十枚出そう」
「私たちにお任せください!」
「おお、助かる。では、出発の日時などは追って伝えるから準備しておいてくれ」
「あれ?」

 食い気味に答えた妹が勝手に元気よく頼みを受け入れて、領主も任せてしまったので諦めざるを得ないのであった。

 その後、衛兵に送り出されて邸宅から退出した兄妹。
うだうだ言っている兄も、領主の仕事を請け負ったからにはやらざるを得ない。
旅支度の準備を進めるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...