運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

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配送履歴#5 配達物『容疑者』

第32話 ボクをカバで運んで平気?

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 ギルドから兵士達が去ると、商人の女性と受付嬢がふー、とため息をついた。

「間に合ってよかったわ」
「どうなることかと思いました。でもユウヒが隣街に行かなきゃいけないんですよね」
「状況がよくわかってないんだけど、ユウヒが森をカバで荒らしているって言うのは本当なのよね?」

 商人の女性の問いかけに、言葉に詰まる受付嬢。
ユウヒは確認された受付嬢に代わって、女性に応えた。

「隣街に行くときに、森の中をカバで走っただけだよ」
「あの森、カバで走れるような道なんかあったかしら」

 首を傾げる商人の女性に、まっすぐな眼差しで答えるユウヒ。

「道なんかないから、真っ直ぐ走ったよ」
「待って、途中の木はどうしたの?」
「邪魔だからね。踏んだり蹴ったりだよ」
「文字通り、踏んだり蹴ったりしたわけね」

 あっけらかんと答えるユウヒに、頭を抱えてうめく女性。

「これ、ちゃんと森林荒らしちゃってるじゃない」
「でも、急いでたからね。お仕事だし」
「それを言われるとなんとも言えないわね。領主様と相談しましょう。ユウヒ、いける?」
「うん。あ、でもサンドイッチ……」

 この街の領主との作戦会議を打診されたユウヒは、未練がましくサンドイッチの方を見た。
受付嬢はため息をつきながらユウヒに早く行くよう促す。

「また作ってあげるから、領主様のところに行ってらっしゃい」
「うん、約束ね。じゃあお姉さん、領主様のところに行こっか」
「即答してくれて嬉しいわ。行きましょう」

 呆れたようにユウヒに答える商人の女性。
二人この街の領主邸宅に向かうのであった。


 領主邸宅の執務室に着くと、そこにはギルド長と領主の姿があった。
商業ギルド長は商談で領主邸宅に来ていたのだが、話を聞き執務室にて領主と話をしていたのだ。

 領主がユウヒに向かって話しかける。

「おお、よくきてくれたな。あと先日は娘と話してくれて感謝する」
「いえ、ボクも楽しかったのでよかったです」
「ただ、これはな……」

 領主はそういうと手元の書面を見てため息をついた。
隣街の兵士が持ってきた文面である。
内容は、下記のような内容であった。

・両街の間にある森に山賊が出没しているため退治したい。
・山賊はゴブリンやクラッシュヒポポタマスを使役して、略奪や森林破壊を行っている。
・森林破壊については、山賊ではなく運び屋の仕業だと複数の証言がある。
 以上を踏まえて、運び屋『兎』に重要参考人として話を聞きたい。隣街の領主邸宅まで連れていくので了承してくれ。

 しっかり筋が通っており仁義を切っている以上、真っ当な理由なしに拒否することは難しい。
どうしたものかと頭に手をやって悩む領主に、事前に内容を見ていたギルド長が提案する。

「この文面に間違いがなく、実際に荒らしてしまっていることを考えると素直に行かせるべきでしょうね」
「もちろん、そうだな。ただ、娘の友達を失うわけにはいかないから慎重にな」
「薬の追加を一緒に送って、お目こぼしを願うのはいかがでしょうか」
「薬を盾に要求を通すやり方はしたくないがな、仕方ないか。あとは私から書面で取りなしてみるか」
「ありがとうございます。お願いします」

 真剣な表情で領主とギルド長が話し合っているのを見て、ユウヒは商人の女性にヒソヒソと尋ねる。

「……もしかして、大事になってる?」
「……ええ、あなたにとって、それなりに大事なはずよ」

 ヒソヒソと返した商人の女性にあちゃあ、と言う表情をするユウヒ。

「……最近は街中で走らないようにしてたのにな」
「……あなた、昔は街中でカバ走らせてたの?」

 納得いかない表情を浮かべているユウヒに女性は呆れた。
そんなやりとりをしているうちに、真剣に検討していた二人は方針がまとまったようだ。

「運び屋『兎』、仕事の依頼だ」
「ひゃいっ」

 突然領主から声をかけられて、おかしな返事をするユウヒ。
領主は気にせずに、家紋で封をした箱を差し出しながら続ける。

「配達先は隣街の領主邸宅、配達物は重要参考人の運び屋『兎』だ」
「はい、この前と同じところですね。配達物は、ボク? ですか」
「ああ、合わせてこの前と同じように薬と書面も持っていってもらうがな。お前一人であれば早くつけるのだろう?」

 ユウヒがギルド長の方を見ると、ギルド長も頷きを返す。
それを見てユウヒは領主から荷物を受け取りつつ返事をした。

「配達先は隣街の領主邸宅、運ぶ物はボクですね。請け負いました。あ、でも」
「でも?何か気になることでもあるのか?」

 煮え切らない顔をして答えるユウヒに領主が尋ねる。

「ヒポ、じゃなくて、カバで行っても大丈夫でしょうか」
「……」
「……」
「……」

 三人とも黙ってしまう。
少しの間を置いてギルド長がユウヒに、子供に注意するように話かけた。

「森を通っちゃダメだよ。あとは街中にも入っちゃダメ。街の近くに着いたら降りていくこと。注意するようにね」
「はーい、了解。それじゃあ配達行ってきます」
「では私も。領主様、運び屋を邸宅の外まで連れていきますね。失礼します」

 元気よく返事をするユウヒと、丁寧に挨拶をするギルド長の二人が執務室から退出した。
部屋に残った領主は商人の女性にボソッと問いかける。

「大丈夫なのか?」
「大丈夫に見えます?」
「……」

 黙ってしまった領主、反射的に本音で返してしまった女性、二人の沈黙がもう少しの間続いたのだった。
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