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この世界は誰かによって描かれたキャンバス。或いは、誰かによって創られた物語。或いは、フィクション世界の舞台上と現実世界の客席の間を隔てる見えない壁。
第四の壁っていう概念の考え方だ。
バカみてえな話だな。ってのが最初にその話を耳にした時の俺の感想。
だってそうだろ? 俺の生活が全て誰かに作られた物だったなんて、考えただけで鼻で笑っちまう。俺の行動は全て俺の意思で発生してるもんだろ。そんな話、真に受ける方が馬鹿げてる。
舞台上と客席だってどっちも現実だ。
演者と観客って違いはあれど、どっちも人間に違いないんだ。そんなの、演者にリアリティを意識させるための殺し文句だろ。
なんて、思ってた時期が俺にもあった。その存在を認識できるようになるまでは。
どうやって認識できるようになったかって? そんなの分からない。いつの間にかその存在を理解して、いつの間にか自分が作り物の世界の住人だと認識できるようになっていた。
今俺が考えてる内容だって、数学の授業を無視して窓の外を眺めてることだって、この教室に居る連中の存在だってそうだ。
この世界の全てが、誰かによって創られたフィクションなんだよ。
きっと今もどこかで無機質な文字が並べられて、俺の思考回路が全て第三者に垂れ流しにされてんだろうよ。
ムカつくだろ? 巫山戯てるだろ? 俺の人生だぜ? それが全てフィクションだなんて、馬鹿げてるだろ。
だから俺はこの力でこの物語をつまらねえ物にしてやろうって思った。
俺を主人公にした巫山戯た物語をぶち壊してやろうって思ったんだよ。
そうそう、どうやら俺は主人公だったらしい。
異世界転生もの? 戦記もの?
残念ながらそんな特別な力は持っちゃいない、ただの高校生をメインにしたラブコメの主人公だ。
俺のスペックは並よりちょっと優れた優等生。顔もそこそこ良い。ついでに生徒会にも入ってる。
部活はバスケ部。小学生でクラブチームに入ってからずっとやってるおかげでそれなりに上手い。まあこれも壁の向こう側の巫山戯た野郎の創作らしいけどな。
何より腹立たしかったのは人間関係についてだ。
俺の周りには人が集まる。生徒会入っていて文武両道、顔も悪くないとすりゃ当然だ。
その中には女子生徒だって居た。しかも、俺に好意を寄せていた。
明るく天真爛漫な幼馴染にテンプレートなツンデレクラスメイト。素行は悪いけど根は優しい非行少女に元気いっぱいで活発な女バスの後輩。なんなら成績優秀スポーツ万能でパーフェクトな生徒会長も俺に好意があるらしい。
幸せな生活だろ? 好きな女の子を選び放題。まあ、当時の俺はそんな色恋に鈍感な主人公だったせいで選ぶどころか気付きもしなかったけどな。
だけど、その全てが創作だったとしたら?
俺の人生もクラスメイトも女子生徒たちの好意も全て作り物。
タチの悪い冗談だろ。でも真実なんだよ。
殺したいほどムカついたさ。今すぐその物語を全て作者の記憶ごと燃やしてやりたい。
そう願っても残念なことに俺じゃどうしようもできねえんだよ。
その存在を認知出来ても、物語に干渉してシナリオライターと相対することはできやしない。
だから考えた。どうしたら人の感情踏みにじって鼻を伸ばして話を作ってるクソ野郎に仕返しできるかって。
そんで思いついた。
俺を主人公からモブにしてやろうって。
そっからは努力したね。自分磨き? いやいや自分汚しだ。
髪もボサボサに伸ばして人とも話さないようにした。バスケ部も辞めて生徒会の仕事も放棄した。
そして今もこうして授業を一切聞かずにぼーっと外を眺めてる。
創られた物語なら勉強したって仕方ないだろ。どうせ道は決まってたんだ。完結して、はいおしまいってな。きっと高校より先の未来なんて最初から無かったんだよ。
最初は周りから心配されたね。ああもうほんと、うんざりするくらい。
毎日毎日誰かが「大丈夫?」「具合悪い?」って声をかけてくる。全部無視してやった。
大丈夫じゃねえよ。むしろ何も知らずに生徒Aを演じてるお前が大丈夫か? って言い返そうとも思った。しなかったけど。
一ヶ月も経つ頃にはモブ連中は声をかけてこなくなった。二ヶ月経つ頃にはヒロイン候補だったであろう女子生徒さえ俺に興味を示さなくなった。
心が痛まないのかって? ちょっとは痛むさ。創作とはいえ人間だからな。
だけど、生徒もヒロインも全員作り物だって思えばその痛みも緩和された。それどころか人を傷つけることに何も感じなくなった。
三ヶ月も経った頃には、俺は生徒Bになっていた。立派なモブの完成だ。
そのきっかけになったのはある男の登場だった。
「じゃあこの問題を……武道」
「はい!」
数学の担当教員に指名された男。その名を先月転校してきた武道秀優と言う。
恐らく、作者が俺の代わりに用意した主人公だ。名前の通りあらゆる事に秀でた奴で、まさに主人公たる風格の男だ。
転校早々体育の授業で大活躍し、中間テストでも好成績を残したイケメンだ。しかも誰にでも分け隔てなく優しいというオプション付き。全てを切り捨てた俺への当て付けだろ。
転校して来て一ヶ月ちょっとしか経ってないけど、既にクラスの中心に居る男だ。
俺のことが大好きだったツンデレっ子も俺に助けられて密かに好意を寄せていた幼馴染も既にあの男に夢中だ。モブ目線だから実際のところは知らんけど。
ともあれ、俺の立場が奪われたことで俺は完全にモブになった。これで俺の人生をたらたらと綴られることもない。そう信じてる。
俺が第四の壁の向こう側に干渉しにくくなったことを鑑みてもたぶん間違いないだろ。きっと。恐らく。Maybe.
ほんとはもっとぶち壊してやろうと思ってたけど、まあ俺が主人公として使えなくなって代役を無理やり用意させただけでも充分な働きだ。妨害工作員として勲章貰えるレベル。
ともあれ俺は、武道を主人公としたラブコメを他人目線で眺めながらこの物語が終わるのを待つとするさ。
はあ……こんな退屈な物語、さっさと終わってくれねえかな。
第四の壁っていう概念の考え方だ。
バカみてえな話だな。ってのが最初にその話を耳にした時の俺の感想。
だってそうだろ? 俺の生活が全て誰かに作られた物だったなんて、考えただけで鼻で笑っちまう。俺の行動は全て俺の意思で発生してるもんだろ。そんな話、真に受ける方が馬鹿げてる。
舞台上と客席だってどっちも現実だ。
演者と観客って違いはあれど、どっちも人間に違いないんだ。そんなの、演者にリアリティを意識させるための殺し文句だろ。
なんて、思ってた時期が俺にもあった。その存在を認識できるようになるまでは。
どうやって認識できるようになったかって? そんなの分からない。いつの間にかその存在を理解して、いつの間にか自分が作り物の世界の住人だと認識できるようになっていた。
今俺が考えてる内容だって、数学の授業を無視して窓の外を眺めてることだって、この教室に居る連中の存在だってそうだ。
この世界の全てが、誰かによって創られたフィクションなんだよ。
きっと今もどこかで無機質な文字が並べられて、俺の思考回路が全て第三者に垂れ流しにされてんだろうよ。
ムカつくだろ? 巫山戯てるだろ? 俺の人生だぜ? それが全てフィクションだなんて、馬鹿げてるだろ。
だから俺はこの力でこの物語をつまらねえ物にしてやろうって思った。
俺を主人公にした巫山戯た物語をぶち壊してやろうって思ったんだよ。
そうそう、どうやら俺は主人公だったらしい。
異世界転生もの? 戦記もの?
残念ながらそんな特別な力は持っちゃいない、ただの高校生をメインにしたラブコメの主人公だ。
俺のスペックは並よりちょっと優れた優等生。顔もそこそこ良い。ついでに生徒会にも入ってる。
部活はバスケ部。小学生でクラブチームに入ってからずっとやってるおかげでそれなりに上手い。まあこれも壁の向こう側の巫山戯た野郎の創作らしいけどな。
何より腹立たしかったのは人間関係についてだ。
俺の周りには人が集まる。生徒会入っていて文武両道、顔も悪くないとすりゃ当然だ。
その中には女子生徒だって居た。しかも、俺に好意を寄せていた。
明るく天真爛漫な幼馴染にテンプレートなツンデレクラスメイト。素行は悪いけど根は優しい非行少女に元気いっぱいで活発な女バスの後輩。なんなら成績優秀スポーツ万能でパーフェクトな生徒会長も俺に好意があるらしい。
幸せな生活だろ? 好きな女の子を選び放題。まあ、当時の俺はそんな色恋に鈍感な主人公だったせいで選ぶどころか気付きもしなかったけどな。
だけど、その全てが創作だったとしたら?
俺の人生もクラスメイトも女子生徒たちの好意も全て作り物。
タチの悪い冗談だろ。でも真実なんだよ。
殺したいほどムカついたさ。今すぐその物語を全て作者の記憶ごと燃やしてやりたい。
そう願っても残念なことに俺じゃどうしようもできねえんだよ。
その存在を認知出来ても、物語に干渉してシナリオライターと相対することはできやしない。
だから考えた。どうしたら人の感情踏みにじって鼻を伸ばして話を作ってるクソ野郎に仕返しできるかって。
そんで思いついた。
俺を主人公からモブにしてやろうって。
そっからは努力したね。自分磨き? いやいや自分汚しだ。
髪もボサボサに伸ばして人とも話さないようにした。バスケ部も辞めて生徒会の仕事も放棄した。
そして今もこうして授業を一切聞かずにぼーっと外を眺めてる。
創られた物語なら勉強したって仕方ないだろ。どうせ道は決まってたんだ。完結して、はいおしまいってな。きっと高校より先の未来なんて最初から無かったんだよ。
最初は周りから心配されたね。ああもうほんと、うんざりするくらい。
毎日毎日誰かが「大丈夫?」「具合悪い?」って声をかけてくる。全部無視してやった。
大丈夫じゃねえよ。むしろ何も知らずに生徒Aを演じてるお前が大丈夫か? って言い返そうとも思った。しなかったけど。
一ヶ月も経つ頃にはモブ連中は声をかけてこなくなった。二ヶ月経つ頃にはヒロイン候補だったであろう女子生徒さえ俺に興味を示さなくなった。
心が痛まないのかって? ちょっとは痛むさ。創作とはいえ人間だからな。
だけど、生徒もヒロインも全員作り物だって思えばその痛みも緩和された。それどころか人を傷つけることに何も感じなくなった。
三ヶ月も経った頃には、俺は生徒Bになっていた。立派なモブの完成だ。
そのきっかけになったのはある男の登場だった。
「じゃあこの問題を……武道」
「はい!」
数学の担当教員に指名された男。その名を先月転校してきた武道秀優と言う。
恐らく、作者が俺の代わりに用意した主人公だ。名前の通りあらゆる事に秀でた奴で、まさに主人公たる風格の男だ。
転校早々体育の授業で大活躍し、中間テストでも好成績を残したイケメンだ。しかも誰にでも分け隔てなく優しいというオプション付き。全てを切り捨てた俺への当て付けだろ。
転校して来て一ヶ月ちょっとしか経ってないけど、既にクラスの中心に居る男だ。
俺のことが大好きだったツンデレっ子も俺に助けられて密かに好意を寄せていた幼馴染も既にあの男に夢中だ。モブ目線だから実際のところは知らんけど。
ともあれ、俺の立場が奪われたことで俺は完全にモブになった。これで俺の人生をたらたらと綴られることもない。そう信じてる。
俺が第四の壁の向こう側に干渉しにくくなったことを鑑みてもたぶん間違いないだろ。きっと。恐らく。Maybe.
ほんとはもっとぶち壊してやろうと思ってたけど、まあ俺が主人公として使えなくなって代役を無理やり用意させただけでも充分な働きだ。妨害工作員として勲章貰えるレベル。
ともあれ俺は、武道を主人公としたラブコメを他人目線で眺めながらこの物語が終わるのを待つとするさ。
はあ……こんな退屈な物語、さっさと終わってくれねえかな。
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