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紫陽花高校生徒会
紫陽花高校生徒会結成!!
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季節は春の終わり。
爛々と鮮やかな色を被っていた桜もようやく落ち着き、目に優しい落ち着いた色へと変貌を遂げていた。
……新入生もそう。
高校という、知り合いが殆んどいない環境で創り上げた、クラスの自分のキャラと位置。
それが定着し始めていた……。
桜は春の代名詞とはよく言ったものである。
「おはよう!新田くん!!」
生徒が続々と登校して来て、今年、2年に転入してきた女子生徒の話題でガヤガヤと騒がしい教室。
その中に1つの高い声が紛れる。
その声が向かう先には、肘をつき、ただ呆然と外を眺めている新田 優斗という男がいた。
彼女は周りの男子や女子から可愛いと持て囃され、自信を持ち、臆する事なく周りに接するようになった、お節介女子。
新田は女子の方を向くことなく、そのまま声帯を震わせた。
「……ああ」
それ以降、言葉を交わすことはなく、女子は新田の隣の机に荷物を置くと、そくささと友達の所へと駆けて行った。
「……」
これ以降、新田は今日の学校で言葉を発することは無かった。
毎日、毎日……そんな日常の繰り返し。
新田が喋るのは、教師に指名された時……または、誰かに話しかけられた時のみ。
しかも、返す言葉は全て「ああ……」の一言。
そんな事を繰り返していた所為で、付いたあだ名は“ブリキ”。
勿論、本人はその事を知らない。
というより、気にもとめていなかった。
「起立、礼」
「ありがとうございました」
そして、この日もまた、特に何も起きる事なく、平凡なお昼休みを迎える。
新田は自分の机から動こうとせず、鞄からお弁当箱を取り出すと机の上に広げる。
中身は単純なもので、半分が唐揚げ、もう半分が白米で埋まっていた。
いつも通りの日常、変わらない学校生活。
そんな、何一つ面白みの無い学園生活を送っていると、珍しく、校内に1つの放送が流れた。
「新田 優斗君、新田 優斗君、至急職員室までお越し下さい」
黒板の上に設置されたスピーカーから、篭った男性の声で、自分の名前が呼び出される。
その瞬間、1人で黙々とお弁当を食べていた新田に、クラス全員の視線が集まる。
その瞳には、興味、笑い、好奇心などの普通の感情などは一切なく、ただ……“恐怖”の1点のみだった。
しかし新田は、怯むことなく箸を置き、ゆらりと立ち上がると、重たい足取りでのっそ、のっそと職員室へと向かう。
この学校は長方形の建物、南棟・中央棟・東棟の3棟からなっている。
1年生の教室は中央棟の1階にあたり、広場を挟んだ東棟の一階に、目的地である職員室が存在する。
新田は職員室の前まで来ると、ノックをし、臆する事なくガラリと扉を開け放った。
「…………」
新田に集まる教師の視線。
180センチ後半もある、鍛えられたその巨体は、ただ立っているだけでも恐怖を与え、教師ですら、少し萎縮してしまう。
「ん……お、おう……新田君?だね?」
そんな、まるで氷河期のように空気が冷めた室内で、身長150程度の、丸刈りでお腹がボテっと膨らんだ、40代位の男性が新田に近づいて来た。
「……ああ」
「そ、そうかい。
えっと……まあ、あれだ……。
呼んだ理由なんだが……」
男は新田の気を悪くしないように脳をフル稼働させ、言葉を選びながら、ゆっくりと探り探り口にしてゆく。
その様子はまさに、オオカミに命乞いをする子ブタである。
「そのな……ある子の推薦?……でな?
君を……その…………。
生徒会、副会長に任命する……します。はい……すみません」
教師は吃った様子で言い切ると、チラリと新田の表情を伺う。
すると、新田は無表情のまま、口を大きく開き、喉を大きく揺らした。
「ああ?」
普段よりも大きな声がでる。
側から見ると脅しているように見えなくない。
「ひぃっ?!
無理ですよね?!
知ってました!これは断っておきますね?!
わざわざすいませんでした!!」
もう、完全に立場は逆転。
教師が生徒に頭を下げるという、全校集会待ったなしの異例の出来事が職員室で起きていた。
「その、推薦者の名前……」
「河井 已香(かわい いこ)って子です!」
教師は言い放った後、自分が生徒を売ってしまった事に気付き、慌てて続きを話す。
「で、ですが、多分私の聞き間違いだと思います!!
似たような名前の誰かだったのかも知れません!!
あー私ってばおっちょこちょい。てへっ」
次の瞬間、職員全員の顔が一気に青ざめた。
良い歳の大人が、舌を出して自らの拳で頭をコツンと叩けばそうなるだろう。
しかし、新田は全く話しを聞いていなかったのか、いざ知らず、早足で職員室から退室する。
「ウソだろ?」
新田は信じられないという気持ちで、その名を聞いたと同時に浮かんだ、とある教室へと急いで向かう。
その教室があるのは、教室が集まる棟の2階の一番左端。
2年生の教室だ。
人とすれ違う度に向けられる、畏怖の視線を完全に無視しながら、その教室の扉を勢いよく開け放った。
「遅いわよ優斗ー。
さっさとこの書類やってちょーだい」
そこには、他とは違う制服を身につけ、生徒会長のワッペンを左腕につけた、新田 優斗の幼馴染。
2年生の“河井 已香”が机の上の大量の書類を前に、腕を組み、偉そうにドッシリと構えて椅子に腰掛けていた。
新田はその様子を見て、絶望したかのように肩を落とすと、教室内の畏怖の視線と、ありもしない噂話を一身に受けながら、ズカズカと河井 已香の前まで歩いてゆく。
「ことわ……」
「拒否権はない!」
新田が「断る」と言い切る前に、河井 已香が言葉を被せてくる。
「……知ってた」
新田は諦めたようにため息を吐くと、河井 伊香に渡された副会長のワッペンを渋々と右腕へと付ける。
「よし!紫陽花高校生徒会、結成完了!!」
河井 已香は椅子から即座に立ち上がると、片足を床に、片足を椅子に乗せ、人差し指で何も無いただの天井を勢いよく指差す。
「何もないが?」
「要は気持ちよ」
爛々と鮮やかな色を被っていた桜もようやく落ち着き、目に優しい落ち着いた色へと変貌を遂げていた。
……新入生もそう。
高校という、知り合いが殆んどいない環境で創り上げた、クラスの自分のキャラと位置。
それが定着し始めていた……。
桜は春の代名詞とはよく言ったものである。
「おはよう!新田くん!!」
生徒が続々と登校して来て、今年、2年に転入してきた女子生徒の話題でガヤガヤと騒がしい教室。
その中に1つの高い声が紛れる。
その声が向かう先には、肘をつき、ただ呆然と外を眺めている新田 優斗という男がいた。
彼女は周りの男子や女子から可愛いと持て囃され、自信を持ち、臆する事なく周りに接するようになった、お節介女子。
新田は女子の方を向くことなく、そのまま声帯を震わせた。
「……ああ」
それ以降、言葉を交わすことはなく、女子は新田の隣の机に荷物を置くと、そくささと友達の所へと駆けて行った。
「……」
これ以降、新田は今日の学校で言葉を発することは無かった。
毎日、毎日……そんな日常の繰り返し。
新田が喋るのは、教師に指名された時……または、誰かに話しかけられた時のみ。
しかも、返す言葉は全て「ああ……」の一言。
そんな事を繰り返していた所為で、付いたあだ名は“ブリキ”。
勿論、本人はその事を知らない。
というより、気にもとめていなかった。
「起立、礼」
「ありがとうございました」
そして、この日もまた、特に何も起きる事なく、平凡なお昼休みを迎える。
新田は自分の机から動こうとせず、鞄からお弁当箱を取り出すと机の上に広げる。
中身は単純なもので、半分が唐揚げ、もう半分が白米で埋まっていた。
いつも通りの日常、変わらない学校生活。
そんな、何一つ面白みの無い学園生活を送っていると、珍しく、校内に1つの放送が流れた。
「新田 優斗君、新田 優斗君、至急職員室までお越し下さい」
黒板の上に設置されたスピーカーから、篭った男性の声で、自分の名前が呼び出される。
その瞬間、1人で黙々とお弁当を食べていた新田に、クラス全員の視線が集まる。
その瞳には、興味、笑い、好奇心などの普通の感情などは一切なく、ただ……“恐怖”の1点のみだった。
しかし新田は、怯むことなく箸を置き、ゆらりと立ち上がると、重たい足取りでのっそ、のっそと職員室へと向かう。
この学校は長方形の建物、南棟・中央棟・東棟の3棟からなっている。
1年生の教室は中央棟の1階にあたり、広場を挟んだ東棟の一階に、目的地である職員室が存在する。
新田は職員室の前まで来ると、ノックをし、臆する事なくガラリと扉を開け放った。
「…………」
新田に集まる教師の視線。
180センチ後半もある、鍛えられたその巨体は、ただ立っているだけでも恐怖を与え、教師ですら、少し萎縮してしまう。
「ん……お、おう……新田君?だね?」
そんな、まるで氷河期のように空気が冷めた室内で、身長150程度の、丸刈りでお腹がボテっと膨らんだ、40代位の男性が新田に近づいて来た。
「……ああ」
「そ、そうかい。
えっと……まあ、あれだ……。
呼んだ理由なんだが……」
男は新田の気を悪くしないように脳をフル稼働させ、言葉を選びながら、ゆっくりと探り探り口にしてゆく。
その様子はまさに、オオカミに命乞いをする子ブタである。
「そのな……ある子の推薦?……でな?
君を……その…………。
生徒会、副会長に任命する……します。はい……すみません」
教師は吃った様子で言い切ると、チラリと新田の表情を伺う。
すると、新田は無表情のまま、口を大きく開き、喉を大きく揺らした。
「ああ?」
普段よりも大きな声がでる。
側から見ると脅しているように見えなくない。
「ひぃっ?!
無理ですよね?!
知ってました!これは断っておきますね?!
わざわざすいませんでした!!」
もう、完全に立場は逆転。
教師が生徒に頭を下げるという、全校集会待ったなしの異例の出来事が職員室で起きていた。
「その、推薦者の名前……」
「河井 已香(かわい いこ)って子です!」
教師は言い放った後、自分が生徒を売ってしまった事に気付き、慌てて続きを話す。
「で、ですが、多分私の聞き間違いだと思います!!
似たような名前の誰かだったのかも知れません!!
あー私ってばおっちょこちょい。てへっ」
次の瞬間、職員全員の顔が一気に青ざめた。
良い歳の大人が、舌を出して自らの拳で頭をコツンと叩けばそうなるだろう。
しかし、新田は全く話しを聞いていなかったのか、いざ知らず、早足で職員室から退室する。
「ウソだろ?」
新田は信じられないという気持ちで、その名を聞いたと同時に浮かんだ、とある教室へと急いで向かう。
その教室があるのは、教室が集まる棟の2階の一番左端。
2年生の教室だ。
人とすれ違う度に向けられる、畏怖の視線を完全に無視しながら、その教室の扉を勢いよく開け放った。
「遅いわよ優斗ー。
さっさとこの書類やってちょーだい」
そこには、他とは違う制服を身につけ、生徒会長のワッペンを左腕につけた、新田 優斗の幼馴染。
2年生の“河井 已香”が机の上の大量の書類を前に、腕を組み、偉そうにドッシリと構えて椅子に腰掛けていた。
新田はその様子を見て、絶望したかのように肩を落とすと、教室内の畏怖の視線と、ありもしない噂話を一身に受けながら、ズカズカと河井 已香の前まで歩いてゆく。
「ことわ……」
「拒否権はない!」
新田が「断る」と言い切る前に、河井 已香が言葉を被せてくる。
「……知ってた」
新田は諦めたようにため息を吐くと、河井 伊香に渡された副会長のワッペンを渋々と右腕へと付ける。
「よし!紫陽花高校生徒会、結成完了!!」
河井 已香は椅子から即座に立ち上がると、片足を床に、片足を椅子に乗せ、人差し指で何も無いただの天井を勢いよく指差す。
「何もないが?」
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