そうだ。奴隷を買おう

霖空

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冒険(望見)1

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 それから、幾らかの日が経ち。
 現在、冒険者ギルドである。

 あれから、体を鍛えまくることによって、死滅した運動神経を凌駕するほどの筋肉量を得た。
 ……訳でもなく。

 フェデルからのストーキングから、無事に逃れられた。
 ……という訳でもなく。

 私の実力としては、少しの体力と、そこそこの料理技術が身についたくらいの成長しかなかったが、フェデルがふつーに強いことが判明したのである。

 曰く、レイピアの扱いで、彼に勝つものはそう居ないやら。その風魔法の、繊細なコントロールは、他に追随を許さないやら。
 魔法も、武術も、出来るらしい。

 それだけでなく、近距離から、遠距離。果ては、補助まで。何でも御座れだ。
 流石に、回復は出来ないらしいが、そもそも、回復出来る人間が、殆どいないのである。
 そう考えると、何でも出来る。と言っても、過言ではない。

 お荷物である私を抱えていても、簡単な戦闘くらいなら問題なく、対応可能だとか。
 なのでお言葉に甘えて、大人しくお荷物になることにした。

 治安が悪い訳ではないのだが、貴族街と比べると、どうしても、危ない地域にはなる。
 よく過保護なフェデルが、行くのを許可してくれたな、とは、我ながら思った。
 恐らく、彼としては、私が1人でこっそりギルドに行くのは、避けたかったのだろう。
 ここ数日間、共に行動していて、私ならやりかねない、と思われたのかもな。

 実際の所は、そんなに切羽詰まってないし、そんなにアクティブでも、命知らずでもないのだが。


 ・


 ギルドに登録しなくても、仕事は請け負えるらしい。ただし、登録しておけば、その分、報酬が増えたり、身分証明書としても使えるのだとか。

 ギルド証があれば、国の行き来も、スムーズに行くらしいので、所得しない理由がない。
 そんな訳で、真っ先に受付へ向かう。

 どう見ても強そうには見えない、キラキラ美男と、こちらも弱そうな平民が、たった二人でギルドに入った訳だが、異世界転移、定番の新人イビリは無かった。

 フェデルから、魔力の様な、覇気の様な、只者では無いです、オーラが出ているお陰だな。
 その証拠に、こちらに気がついた、大男達が、明らかに挙動不審になっている。
 猫に睨まれた鼠のようで、少し可哀想だ。

「こんにちは。冒険者登録で宜しいでしょうか?」

 受付に一直線だった、我々に気がついたのか、受付のお姉さんが微笑む。

 特段美人という訳では無いが、それなりに顔が整っており、何よりも、色々と気をつけている。
 濃すぎず、薄すぎない、程よい化粧。シンプルなのに、どこかオシャレな服は、皺ひとつない。
 長いのに、艶のある手入れされた髪の毛。
 大企業の受付嬢、と言えば伝わりやすいだろうか。
 大人、美人、華やか、清潔感。
 全てを兼ね備えた大人の女性である。

 まあそんな女性であっても、フェデル相手にほんのり頬を赤めているのだが。

「はい。お願いします」

 基本的に、対応はフェデルに任せておく。

「登録はお二人で宜しいでしょうか?」
「はい」

 フェデルは、冒険者の存在を知っているものの、登録はしたことが無いらしい。
 そりゃそうか。
 使用人って、それなりに、給料のいいイメージがあるし。給料がいいなら、態々冒険者の仕事なんて、普通はしないよな。
 金以外の目的となると、それこそ、何か拗らせちまった系の奴らしかならなさそう。
 あー後は、戦闘狂?何にしろ拗らせてるか。

 フェデルの性格的に、登録はしなさそうだ。だから今、一緒に登録してる事実が、なんというか、少し引っかかるんだけども。

「では、こちらに名前と年齢、性別それから、任意ですが、戦闘スタイル、スキルやその他、伝えたい事等、記載してください」

 そう言って用紙が渡された。
 名前、年齢、性別は一応聞かれるものの、嘘偽りを書いても問題ないらしい。
 誰が誰なのか、判断する為だけに必要な情報なのだろう。

 詐称しても良いと言われたら、まあ、本当の事を書くわけが無いんだよな……。
 インターネット上の会員登録なんかと同じである。こう言うのは本名を書いたら負けだ。

 然し、急に名前を考えるのも、なかなか骨が折れる。
 ……考えるのも面倒だし、この間、フェデルに呼ばれてた名前でいいか。
 性別は、偽ろうとしたら、もう一択しかない。

 年齢は……男と書いてしまっているからなあ。あまり年上だと、見た目と合わない。かと言って、若すぎても弊害が出そうなんだよな。例えば、純粋に子ども扱いで舐められたり?年齢の所為で、諸々の手続きが面倒になったり?
 後々、一人で旅をすることを考えると、ある程度の年齢にする必要はあるだろう。

 ……うーむ。まあ、17くらいにしておくか。前の世界より、成人判定される年齢は低いらしいし、ギリギリ、まだ成長期来てない系男子を装えば、何とかなるかもしれない。体のシルエットは、殆ど見えない格好をしているしな。

 戦闘スタイル……これは、戦わない場合は、なんて書けばいいんだ?いや、まあ任意だし、なしでいいか。

 そして、書き上げた用紙を、受付のお姉さんに渡す。
 ……渡してから気がついたが、私はこの国の言葉をかけるのか?

 いや、先の文だけ聞くと、頭がおかしな子のように思えるが、今、私は、スキルのおかげで文章を読めるのである。
 この世界で本を読む時は、何の言葉であろうが、日本語にしか見えなかった。そして、現在書いたのも日本語だ。
 ここに、来る前に『貴方は読み書きが自由にできますよー』みたいな事を言われたから、大丈夫だと思うが……。と言うか、これで日本語以外書けなかったら、完全に詰みだろう。どの言語を見ても、日本語にしか見えないのに、何をどう勉強しろというのか。
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