そうだ。奴隷を買おう

霖空

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冒険(望見)3

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「……いや、薬草は分からないけども。じゃあ配達は?」
「率直に言いますけど、配達して、何かいい事あります?」

 ……それは率直に言い過ぎなのでは?敬語に拘る割には、ちょいちょい、失礼な発言をする。
 いや、まあ別にいいんだが。

「そりゃまあ、地理とかは覚えられるんじゃないか?」
「それなら討伐でも良いでしょう。寧ろ、魔物の生息地が分かるので、討伐の方が良いのでは?」

 それは確かに。
 こちらが納得しているのに気がついたのか、さらに畳み掛けられる。

「しかも、報酬も此方の方が多いです。何より、主様は何もしないで依頼をクリアできますよ!勿論、報酬は全て主様に渡します」

 至れり尽くせりじゃないか。
 逆にちょっとやる事無さすぎて、嫌なんだけども。フェデルが栗鼠を狩る所を、ボーッと眺めてるだけとか、虚し過ぎでは?

 それなら、多少賃金が低くても良いから、仕事がしたい。
 初めての依頼なら尚更。何事も経験だしな。

 一度、普通に仕事した上で、フェデルに任せるなら、いいと思うんだよな。
 私自身、真面目な訳ではないから、人に任せた挙句、その報酬を搾取する事については、特に何も思わない。

 そこが問題なのではなく、こう……経験的な話だ。前の世界では、社員はおろか、アルバイトすらしたことは無い。つまり、自分でお金を稼いだ経験が皆無な訳で。

 初めて貰う賃金は、ちゃんと働いて得た物がいい。という我儘?夢?倫理観?

 あ。
 いや、初めての賃金では、無いかもしれない。そう言えば、この間の、お使いの時に、余ったお金を貰ったな……。


 なんでも、初めの方は、余った金を返していたらしい。
 そしたら、次の年から、材料費が減らされたらしい。何処の地方自治体かよ、と思うが……。

 無駄な経費を減らす為には、どこも似たような問題が起こるのかもしれない。
 結果、無駄に消費されている訳だが。いや、無駄では無いか。実際、急に物価が上がった時なんかは、大変だったらしい。
 平民のヤニックでは、お城のお偉いさんに、食費を請求するのも難しく……。その時は、いろんな人に助けて貰ったり、節約したり、提供量を少なくしたりして、何とか事なきを得たそうだが。

 それ以来、余ったお金は、物価が上がった時の為に、少し貯金してあるらしい。
 最近は、貯金もある程度溜まってきたらしいが、兵士の人数がいつもより少ない事もあり、お金は返してないんだと。代わりに、調理器具を新調したり、設備を整えたり、たまーに、ポッケナイナイしているらしい。

 個人的には、余った金なんて、全部貰っておけばいい。……と思うのだが、真面目なヤニック的には、そうもいかなかったらしい。何とか試行錯誤して、資金が足りるギリギリを責めているんだそうだ。

 まあ、曲がりなりにも、私が勇者の一員だから、と言うのも、あるかも知れないな……。一応、ここではお客様とか、救世主?みたいな扱いだろうし。無下にも出来ないのだろう。それを分かってて、私も頼んでいる節はあるが、それはさておき。


 あれを賃金換算すると、今回のは、別に楽をしても良いことになる。


 …………正直、宅配とか、草むしりなんて、かったるいと思っていたのだ。
 そして私は、責任感も真面目さも無い。誰かがやってくれると言うのなら、任せる事に躊躇は無い。



 ・



 案内されるがままにやって来たのは、森だった。
 全く迷いのない足取り。
 余りにも、ズンズン進んで行くので、聞いてみた。

「……なんだっけ。名前忘れたけど、今から討伐する予定の栗鼠」
「ラタトスクですね」
「そうそう。そいつの事、前も討伐したことあるのか?」
「ええ。基本的に害獣ですからね。放置しておくと、魔物同士の諍いを生むんですよ」
「え?魔法とかスキルとかで?」
「いえ。魔物って基本的に、似た種類じゃないと言語が通じないんですけど、ラタトスクは弱い魔物の中で唯一、全ての魔物と話せるんですよ」

 普通に物理的な話だった。いや?若しかしたら、色んな言葉が話せる、というスキル持ちなのかもしれないが。それにしたって物理的だな……。

「それを他の魔物も分かってるので、翻訳代わりとして重宝されているのですが、意図的に、悪意ある言葉で相手に伝え、魔物同士を喧嘩させるんですよね」
「……何の為に?」
「さあ?趣味なのでは?」

 なんと性格の悪い栗鼠なんだ。いや、気持ちはわからなくは無いが……。

「いや、然し、流石に何度も同じことをされたら、魔物側も気がつくんじゃないか?」
「頭が良ければ、学ぶんでしょうけど、そもそも頭のいい魔物は、そんなものに引っかかりませんので……」

 それは、中々厄介だな。然し、その趣味とヤラの所為で、人間に狩られる羽目になるのだから、その栗鼠も大概である。

「……ん?でも、冒険者になった事は無いんだよな?それ以外の人が、討伐することなんてあるのか?そういうスポーツでもあるのか?」
「……え、ええ。まあそんなところです」

 怪しいくらいに目が泳いでいる。さては嘘だな。

 なんと言うか、誤魔化し方がアレなので、恐らく大したことは無いだろう。それ以上に突っ込むと彼のダメージがデカそうなので、そっとしておいてやろう。





「ほら。居ましたよ!」

 ……お手本のような誤魔化し方である。生暖かい目で、フェデルの指した方を見ると、栗鼠だ。
 少し普通の栗鼠より大きい気がするが、それ以外は栗鼠である。可愛い。

 何匹かが、ちょこまかと木を移動し、時折、こちらを見ている。好奇心旺盛なのだろうか?
 出来ることなら、片手に乗せて撫でくりまわしたいが、まあ無理だろう。

 何時だが、リス園に行ったことがあるのだが、あの時、栗鼠が好きであろう餌を持っていたのにも関わらず、栗鼠に逃げられたからな……。
 周りの家族連れも、子供と栗鼠の癒しショットが取れずに、栗鼠を鷲掴みにしようとしていたから、私が特段、栗鼠に嫌われていた訳ではないと思う。

 まあ、動物なんてそんな物だと思っていたから、特に何も思わなかったが、ちょっとその家族連れにはドン引きした。

 飼育された栗鼠でもそうなのだ。野生の栗鼠なんぞ、触れる筈もない。
 特に、小さな動物は、捕食されやすい。警戒心が強くないと生きていけないのだ。



 ヒュン!

 風を切り裂くような音に、思わず横を見る。私が栗鼠を愛でている間に、お仕事を始めていたらしい。

 速すぎて何が何だか分からないが、どさりどさりと無惨な姿の栗鼠さん達が、地面に落ちている。

 うーん。こんなに可愛いのに、容赦ないなあ。
 まあ、風魔法を使うとなると、どうしても血は流れるか。
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