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「指示待ちではダメだ! やることを見つけてさっさと動け!」
職場に、駿佑クンの怒号が飛ぶ。
言っていることはもっともだ。
言われてからするのでは遅すぎる。
当事者なんだから、自分で判断して行動しないと。
「やったことないから分かりません、だと?! おまえは何回も見てきただろ! 見て覚えようという気はなかったのか?」
そうだよね。
当事者意識がないと、百回見ていたって、できるようにはならないよね。
「分からなくても、まずはやってみるんだよ。やって、失敗して、それでできるようになっていくから!」
うんうん。
どんなプロでも、最初からうまくできたわけじゃないよね。
駿佑クンは、同僚に厳しい口調で指導していく。
* * *
私の名前は、奈々未。
駿佑クンと同じプロジェクトを任されている同期の一人。
実はこのプロジェクト、メンバーは全員、同期で同い年だ。
普通ならベテランの上司がリーダーになるはずけど、今回のプロジェクトは、全員が未経験の若者ばかりだ。
そんな中、駿佑クンは自ら進んでリーダーシップを発揮し、同期たちに次々に的確な指示を与えていく。
ちょっと言葉はキツイかな、とも思うけど、
バリバリ働く駿佑クン、かっこいい!
私は、駿佑クンと一緒にこのプロジェクトに取り組めることに喜びを感じていた。
怒られるのは嫌だけど、やるべきことをやっていれば怒られない。
怒られているのは、指示待ちタイプの同期ばかり。
私は、このプロジェクトで唯一の女性社員、いわゆる紅一点だ。
そのためか、駿佑クンは私には甘い。
一方、同期の男性社員たちは、いつも駿佑クンに怒られている。
なんだか気の毒な気もするけど、ある程度の厳しさは仕方ない。
駿佑クンの機嫌が悪くなったことを察した別のメンバーがこう言った。
「駿佑さん、何か手伝いましょうか?」
「手伝うって何だよ? キミも同じく、この仕事に取り組んでいるだろ。まるで、自分の仕事じゃないみたいな言い方だな。手伝うじゃなくて、キミも中心となって進めるんだよ!」
駿佑クンは、自ら進んでリーダー役をやっているとはいえ、なんで俺ばかりが、って意識は大いにあると思う。
みんなが自分の仕事だと思ってやってほしい、そういうことなんだろうな。
それを聞いていた同僚の一人が、思わずこぼしてしまう。
「駿佑さんみたいにはできないですよ。俺はまだ、社会人の卵なんですから……」
「いつまで甘えたことを言っているんだ! 俺とお前は同期だろうが。それに、プロジェクトはもう始まったんだ。もう、おまえは卵じゃない! 確かに、俺たちに経験はない。だけど、いや、だからこそ、分からないことは調べて、まずはやってみるんだよ」
「いきなりはできないです。まずは俺を育ててくださいよ……」
「あのなぁ……俺もおまえも未経験でやっているんだ。なんで俺がお前を育てないといけないんだ?」
駿佑クンは、一応リーダーポジションだけど、経験年数は他の同期たちとまったく同じの初心者。
なのに、自分で責任を持って仕事を進めている。
私も見習わないと。
* * * * *
駿佑クンは、さっきから黙っている、おとなしめの同期に話しかけた。
「ここの進め方、分からないんだろ? ここはこうするんだよ」
「駿佑さん、ありがとうございます!」
さすがは駿佑クン。
本当に困っている人は、なかなか困っているとは言えないものだ。
説教ばかりしているのではなく、状況を察して動くあたりもすごい。
「やり方が見えてきました。では、ここの仕事を進めます」
「じゃあ、進め方はいくつかあるけど、どの手法で行く?」
「え~? どれでもいいです」
優しく見えていた駿佑クンは、一転して厳しい口調へと変わった。
「いい加減にしろ!! 自分の仕事のこと、真剣に考えていないだろ!!」
どれでもいい、では何も答えていないのも同じだよね。
自分で決めないと、責任逃れのように思われてしまう。
* * * * *
駿佑クンは、別のメンバーがぼんやりしていることに気づいた。
「ここの進捗が遅れているぞ。今まで何してたんだ?」
「え? 言ってくれたらやったんですけど……」
「言われてからやるんじゃ遅いんだよ! 自分で気づけないのか?」
駿佑クン、言葉はキツイけど、言っていることは全部的を射ている。
そして、言うだけのことはあって、仕事はとてもできる。
私は、そんな駿佑クンのことを尊敬していた。
私は比較的、仕事ができる方なので、そんなに駿佑クンから怒られることはなかった。
* * * * *
やがて、私は駿佑クンと交際するようになった。
それを知った同僚は、私に言う。
「駿佑と結婚するのはやめておけ。あんな調子で家でも怒鳴られたら、ノイローゼになるぞ」
「え? 大丈夫だよ」
「駿佑は絶対に、モラハラ旦那になるぞ。結婚はやめておけ」
「言葉はきついけど、正しいこと言っているし、仕事もできるから、私はいいと思うんだけど……」
一部の同僚から反対されながらも、私は駿佑クンと結婚した。
職場に、駿佑クンの怒号が飛ぶ。
言っていることはもっともだ。
言われてからするのでは遅すぎる。
当事者なんだから、自分で判断して行動しないと。
「やったことないから分かりません、だと?! おまえは何回も見てきただろ! 見て覚えようという気はなかったのか?」
そうだよね。
当事者意識がないと、百回見ていたって、できるようにはならないよね。
「分からなくても、まずはやってみるんだよ。やって、失敗して、それでできるようになっていくから!」
うんうん。
どんなプロでも、最初からうまくできたわけじゃないよね。
駿佑クンは、同僚に厳しい口調で指導していく。
* * *
私の名前は、奈々未。
駿佑クンと同じプロジェクトを任されている同期の一人。
実はこのプロジェクト、メンバーは全員、同期で同い年だ。
普通ならベテランの上司がリーダーになるはずけど、今回のプロジェクトは、全員が未経験の若者ばかりだ。
そんな中、駿佑クンは自ら進んでリーダーシップを発揮し、同期たちに次々に的確な指示を与えていく。
ちょっと言葉はキツイかな、とも思うけど、
バリバリ働く駿佑クン、かっこいい!
私は、駿佑クンと一緒にこのプロジェクトに取り組めることに喜びを感じていた。
怒られるのは嫌だけど、やるべきことをやっていれば怒られない。
怒られているのは、指示待ちタイプの同期ばかり。
私は、このプロジェクトで唯一の女性社員、いわゆる紅一点だ。
そのためか、駿佑クンは私には甘い。
一方、同期の男性社員たちは、いつも駿佑クンに怒られている。
なんだか気の毒な気もするけど、ある程度の厳しさは仕方ない。
駿佑クンの機嫌が悪くなったことを察した別のメンバーがこう言った。
「駿佑さん、何か手伝いましょうか?」
「手伝うって何だよ? キミも同じく、この仕事に取り組んでいるだろ。まるで、自分の仕事じゃないみたいな言い方だな。手伝うじゃなくて、キミも中心となって進めるんだよ!」
駿佑クンは、自ら進んでリーダー役をやっているとはいえ、なんで俺ばかりが、って意識は大いにあると思う。
みんなが自分の仕事だと思ってやってほしい、そういうことなんだろうな。
それを聞いていた同僚の一人が、思わずこぼしてしまう。
「駿佑さんみたいにはできないですよ。俺はまだ、社会人の卵なんですから……」
「いつまで甘えたことを言っているんだ! 俺とお前は同期だろうが。それに、プロジェクトはもう始まったんだ。もう、おまえは卵じゃない! 確かに、俺たちに経験はない。だけど、いや、だからこそ、分からないことは調べて、まずはやってみるんだよ」
「いきなりはできないです。まずは俺を育ててくださいよ……」
「あのなぁ……俺もおまえも未経験でやっているんだ。なんで俺がお前を育てないといけないんだ?」
駿佑クンは、一応リーダーポジションだけど、経験年数は他の同期たちとまったく同じの初心者。
なのに、自分で責任を持って仕事を進めている。
私も見習わないと。
* * * * *
駿佑クンは、さっきから黙っている、おとなしめの同期に話しかけた。
「ここの進め方、分からないんだろ? ここはこうするんだよ」
「駿佑さん、ありがとうございます!」
さすがは駿佑クン。
本当に困っている人は、なかなか困っているとは言えないものだ。
説教ばかりしているのではなく、状況を察して動くあたりもすごい。
「やり方が見えてきました。では、ここの仕事を進めます」
「じゃあ、進め方はいくつかあるけど、どの手法で行く?」
「え~? どれでもいいです」
優しく見えていた駿佑クンは、一転して厳しい口調へと変わった。
「いい加減にしろ!! 自分の仕事のこと、真剣に考えていないだろ!!」
どれでもいい、では何も答えていないのも同じだよね。
自分で決めないと、責任逃れのように思われてしまう。
* * * * *
駿佑クンは、別のメンバーがぼんやりしていることに気づいた。
「ここの進捗が遅れているぞ。今まで何してたんだ?」
「え? 言ってくれたらやったんですけど……」
「言われてからやるんじゃ遅いんだよ! 自分で気づけないのか?」
駿佑クン、言葉はキツイけど、言っていることは全部的を射ている。
そして、言うだけのことはあって、仕事はとてもできる。
私は、そんな駿佑クンのことを尊敬していた。
私は比較的、仕事ができる方なので、そんなに駿佑クンから怒られることはなかった。
* * * * *
やがて、私は駿佑クンと交際するようになった。
それを知った同僚は、私に言う。
「駿佑と結婚するのはやめておけ。あんな調子で家でも怒鳴られたら、ノイローゼになるぞ」
「え? 大丈夫だよ」
「駿佑は絶対に、モラハラ旦那になるぞ。結婚はやめておけ」
「言葉はきついけど、正しいこと言っているし、仕事もできるから、私はいいと思うんだけど……」
一部の同僚から反対されながらも、私は駿佑クンと結婚した。
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