卵の卵

神楽堂

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私は子供を授かり、出産休暇と育児休暇を取った。

私たちの赤ちゃんが誕生した。
駿佑クンは父になり、私は母になった。

* * * * *

「駿佑クン! 指示待ちじゃダメでしょ。やることを見つけてさっさと動いて!」

私の怒号が飛ぶ。

「やったことないから分からない? 駿佑クン、私が赤ちゃんのお世話しているところ、何回も見てきたでしょ! 見て覚えようという気はなかったの?」

「え……いや……その……」

「私だって初めての子育てなんだからね! 駿佑クンも育児、分からなくても、まずはやってみて! やってみて、失敗して、それでだんだんできるようになっていくから!」

私たちにとって、初めての育児。
転勤族の私たちは、お互いに親元から離れて生活しているので、手伝ってもらえるわけではない。
全部、自分たちでやらないといけない。

私は母親として初心者。
駿佑クンは父親として初心者。
どちらかがベテランというわけではなかった。

私の機嫌が悪くなったことを察した駿佑クンが、こう言った。

奈々未ななみ、何か手伝う?」

「手伝うって何? 駿佑クンはパパでしょ! 親でしょ! まるで、育児は自分の仕事じゃないみたいな言い方ね。じゃなくて、駿佑クンもとなって育児をしてよ!」

「奈々未みたいにはできないよ。俺はまだ、父親の卵なんだから……」

「いつまで甘えたことを言ってるの! 私と駿佑クンは、親になった時期は同じ。つまり、同期なのよ! 赤ちゃんは生まれたの。あなたはもう、卵じゃないの! 確かに、私たちに育児経験はないけど、だからこそ、分からないことは調べて、まずはやってみなくちゃ!」

「いきなり父親にはなれないよ……」

「私だって同じよ! 手探りで勉強しているのよ! 私は、この子を育てつつ、かつ、駿佑クンが父親らしくなるように、そっちも育てないといけないわけ?」

結婚する前、駿佑クンはモラハラするようになるから気をつけろ、なんて同僚からは言われていたけど、これって、逆に私がモラハラしていることになるのかな?

私も駿佑クンも、初めての育児でうまくいかないことも多かったけど、手探りでなんとか頑張っていた。

駿佑クンも、少しは自信がついてきたみたい。
こんなことを言ってきた。

「俺って育児を頑張っているから、イクメンだよな」

「はぁ? 何言ってるの? 育児を頑張る男性のことを何ていうか、知ってる?」

「イクメン……じゃないのか?」

「育児を頑張る男性のことをね、って言うのよ!!」

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