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人の命を救うというのは、とても素晴らしいこと。
一方、人の命を奪うというのは、早い話が殺人をするのと同じで、なかなかできるものではない。
とは言っても、その人を殺さないと自分が殺されてしまう。
カルネアデスの板になんだか近い感じがしてきた。

さて、どういう結末にしようか。

第一案は、歴史通り事故が起きる状況を作り出し、その人を死なせてしまうが、主人公は生き残るパターン。
第二案は、歴史に抗ってその人の命を救うことにしたため、主人公は罰せられて消されてしまうパターン。

どちらの案で書いたとしても、なんだか後味の悪い話になってしまう。
運命には抗えない、というテーマで書きたい私としては、第一案の方がよいのかも知れない。
ただ、そういう結末になるお話を書くことで、読者に何を伝えたいか。
そこをはっきりさせることができなかった。

私が書きたいものは何なのか。
もう少し探ってみたい。

私は念じた。

「時よ戻れ!」

* * * * * *

書き直すのは、これで何度目だろうか。
そう思いながら、私はパソコンに向かう。

運命は変えられない、というテーマにするから、後味が悪い作品になってしまうのだろうか。
では、最後の最後でひっくり返して終わるというお話はどうだろう。
つまり、運命を変えることができたと思っていたのに、実際は運命には抗えなかった、という展開だ。


私のように後悔ばかりしている主人公がタイムリープをする。
人生やり直し。二周目の人生が始まる。
何が起こるかは、見当がついている。
みんなが知り得ない情報を生かし、主人公は大成功を収める。
こうしてハッピーエンドになると思いきや、最後になんと、
主人公は元の世界に戻されてしまった。
二周目の人生で手に入れた成功は、すべて消えてしまった……


どうだろう。
なんだか夢オチみたいだな、とも思えてきた。
あるいは、ショートショートならおもしろいのかも知れない。
さて、この作品で伝えたいことは、いったい何だろう。
人生、そんなにうまくいくはずがない、ということか。

ただ元に戻るだけでは、お話として単純すぎるような気がしてきた。
もう少し、構成を練ってみることにする。

私は念じた。

「時よ戻れ!」

* * * * * *

こんなお話はどうだろう。

主人公は30歳の誕生日を迎えたが、これまでの人生、後悔ばかり。
希望する学校に進学できず、希望の会社にも入れず、結婚にも失敗。
そんな人が、15歳に戻って人生をやり直す。
やり直しの人生なので、他の人よりたくさんの情報を持っている。
それを生かし、進学、就職、結婚、すべてにおいて主人公はやり直しに成功していく。

タイムリープして人生をやり直せたことを喜ぶ主人公。
幸せいっぱいで30歳の誕生日を迎える。
すると、主人公は15歳に戻っていた……

三度目の人生、四度目の人生……
何度繰り返しても、主人公は30歳より先に行けない。
30歳になると、必ず15歳に戻されてしまうのだ。

人生をやり直せることに感謝していた主人公だが、
やがて、未来のない無限ループに絶望する。
30歳までの人生は、経験を生かして成功を収めることはできる。
しかし、人間というのは先に進みたいもの。
まだ見ぬ未来が、たとえ不幸なものであったとしても、そこに進みたい。そう切望するようになる。

やり直し人生で成功することを目標としていた主人公は、
今は未来に行くこと、つまりループから抜け出すことが生きる目標となっていく。

何のために生きていくのか、が変わっていくお話だ。
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