祈ればいいってもんじゃない!

鹿音二号

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第二十話 大いなる間違い

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無事に祝福武具は製作され、おそらくこの世界で最も強力な武具になった。

イズルも満足して、彼が信頼できる仲間を率いて、魔王討伐へと出立された。
勇者イズルが旅立って3ヶ月が経った。その間、穏やかななものだった――増え続ける魔物の数以外は。

高名な戦士や各国の騎士団、冒険者に聖女は日に日に警戒を強め、各地の魔物の被害を抑えるために戦っている。
……とはいっても、歴史を紐解くとこの状況はむしろ勇者召喚がされた時代に比べて、悠長らしい。
もっと逼迫した、国が消えたり人間の生きて行ける場所が日々減っていくような、そんな時期に勇者召喚は行われる。
――やはり、イシスは予言の判断を間違えたらしい。

けれど、イズルが早くから勇者として活動して、それなりの戦果を上げているため、イシスや国への批判が少ない。もともと、勇者召喚失敗は各国や組織の重役しか知らないが、それでもイズルが勇者と見られなければ、これほどイシスは安穏とすごしてはいないだろう。
けれど、その平穏も、終わりを告げる。

「イズル様から?」
「はい。聖女に出向をお願いしたいと……」

――勇者一行が苦戦している。
場所は遠く離れた北東の大峡谷。
魔物が巣食っている、と近くの国からの要請で討伐に向かった。
けれど、予想以上の魔物の量の多さに、倒しきれず疲弊しはじめていると。

「行きます」

もともとそういう約束だったのだ。
真の聖女。国のために今はいるとはいえ、世界の命運をかけた戦いにはできる限り参戦すると。
魔王は未だ姿を現さないが、まずは困ったことがあれば呼んでほしいと、事前にイズルには伝えておいた。
彼がイシスを必要とするなら、行かなければならない。
勇者に討伐依頼をした国の伝令は、イシスが了承すると長旅の疲れからかその場で崩れ落ちた。慌てて侍従たちが助け起こす。

「出立の準備を。出来次第出ます」
「イシス、無茶は禁物です」

ベベアフレートが王太子の顔で隣で同じく聞いていたが、行くとイシスが宣言すると、隠しきれない心配をその目に浮かべていた。

「……大丈夫です。カヤマンディの聖女として、そして真の聖女として立派に役目を果たしてきます」

そっと、彼の手を握る。

「まだまだこれからなのです。今イズル様に深刻な怪我など負われては……」
「ええ、分かっています。けれど、それは君にも言えることです。聖女……これから激しくなるであろう魔王との戦いに、真の聖女も……必要です」

ぐっと、何かをこらえるように、ベアフレートは息をつまらせながら言った。

「ええ」
「……一緒に行けないのがもどかしいよ」

ベアフレートは一度肩を落とし、それから背筋を伸ばした。

「同行する騎士団の編成をします。それと、教会から神官と聖女、聖騎士を募ります」
「ええ、よろしくお願いします」

万全を期したほうがいい。
そうしてイシスは、勇者イズルが戦っている、北東の大峡谷へと旅立った。




イシスに馬車はいらなかったが、教会の聖女は体力に乏しく、馬で強行軍というわけにいかなかった。気は急ぐが、どうしようもない。疲弊して本当の目的である魔物討伐もできなくなってしまうかと思えば、できるだけ体力は温存するのも間違いではない。
その道中、不思議なほど魔物を見なかった。
通りがかった街でも、最近は魔物に襲われることが少ないという話を聞いた。

「妙……ですね」
「各国の対策や勇者様の活躍もあります、それが功を奏したのでは」

遠征隊長の騎士分団長はそう言うけれど……
イシスは胸騒ぎがした。
その夜――

『今すぐ戻りなさい』

――神託だった。

(もしや……国に何か)

胸騒ぎは、この神託のことだったのか。
けれど、とイシスは悶々と考える。
目に見えた危機は、イズルが戦っている大峡谷の方だ。すでに周辺の国の戦力では抑えきれず、イズルは耐えられているが、それだけだ。
その防衛戦線が崩れてしまえば、世界にもっと被害が広がる。
そして今引き返しても、国のほうが遠いのだ。

(……大丈夫、よね?)

カヤマンディに何が起ころうと、すぐには危機には陥らないはずだ。
国王に王太子、宰相に騎士団。
彼らを信じることにした。

(……どうか、私が帰るまで、無事にいてください)

空が白む明け方まで、イシスは祈った。



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