祈ればいいってもんじゃない!

鹿音二号

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第十二話 因果

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「どうして、相談してくれなかったんだ……!」

夜、ベアフレートに5度目の神託のことを話した。
自分で決めたことだが、こうなってしまった以上、ベアフレートには打ち明けようと思った。
予想通り、ベアフレートは血相を変えた。

「ごめんなさい……どうしても、召喚の儀式をするべきだと、そのときは思っていたの、だから、」
「僕は何があっても君の味方だよ」

ベアフレートは真剣に、イシスの手を握る。

「それでもというなら止めなかった。けれど、君ひとりが苦しむようなことになるのは……」
「アフィ、ごめんなさい。朝に伝えるべきだった」
「……しかたがない。結果は変わらなかっただろうし……いいかい、次は僕に相談してくれ」
「わかったわ」

そう言いながら、イシスはまだ理解していなかったと自分でも気づくのは、しばらく後の話で。
ベアフレートは、気を取り直して、

「で、あのイズルという異世界人だけど」
「ええ、……勇者であるはずなのよ」

召喚するための条件は、全て満たした。
過去の勇者召喚も記録は膨大で詳細だった。
間違いがあってはならないとシュミレーションも行った。
勇者でないはずがないのに、イズルはただの人間だった。

「……神託となにか関係があるのかな」
「あるだろうね」

使用人に聞かれたくない話だから、今は王太子の部屋に二人しかおらず、ベアフレートは手ずからお茶を淹れてくれた。

「手違いが発生するから、やめろってことだったんじゃないか」
「……でも、どうして手違いなんて発生するのかしら」

過去の儀式では例外なく成功していたのだ。原因究明に魔道士たちや教会の司祭らが動いているが、まっさきに確認した手順は完璧だった。
あとは星の演算のミスで、日を間違えていたりしたか。
これも事前に何度も計算したようで、間違えていた可能性は低い。

「わからないけど……でも、武芸はぜんぜんやってこなかったって本人も言っていたし」
「ええ、けれどもそういったことは昔の召喚でもあったみたい」

召喚された勇者の容姿は、金色の輝く目以外には共通点がない。
戦うという目的のせいか、年配が選ばれることはないようだが、男女、10代から40代と幅広く、髪や肌の色も一緒のことはない。
そして、元々冒険者だったり剣士だったりすることもあるが、今回のようにまったく荒事とは無関係だった勇者もいた。
それでも魔王と戦えたのは、召喚の過程で得る力と祝福のおかげだろう。

「それに、彼の元の世界には、こういった召喚される勇者の物語があるそうよ。流行り……って言ってたから、みんな読んでいたのでしょうね、だからイズル様も空想の物語だけれど知った現象だから案外冷静だったって。……因果、という考え方もあるの」

すべての物事には紐づけされた理由があるのだという。よく幸運に恵まれると日頃の行いが良いからだと言われるのはそれだ。なにか理由があって、その出来事があるのだという。

「つまり、彼が物語を読んでいたから勇者に選ばれたっていうのかい」
「ええ。彼は現実主義で、そういった空想の物語はあまり好まなかったそうだけれど、流行りすぎて偶然目に入ったのですって。確かな論拠にならないけれど」
「そう、だなあ……」

この話はベアフレートには馴染まないらしい。困った顔をしながら、けれど否定しないところが優しい。
イシスはすこし笑ってしまった。

「イズル様は物分りが良くて、けれど鋭くもあって。誤魔化せないから正直に全部お話したけれども……やっぱりお帰りになりたいみたいね」
「ああ。陛下にもそう言っていた」
「……陛下に頭を下げさせてしまったわ」

非公式の謁見で、無関係の人間を巻き込んだその責任は自分にあると国王は謝罪した。
イズルはそれを受け入れて、帰してくれるならそれでいいと言った。
それを見ながら、イシスは涙が出た。
自分のせいで、国王に恥をかかせた。
それを見られたらしく、イズルはイシスに冷ややかな目をくれていた。めそめそ泣く暇があったら、自分をさっさと帰せ、とでも言いたげだった。
まったくそのとおりだ。

「ともかく、帰還の儀式を行える日を計算して、その日までイズル様にはこの城で過ごしていただくという方針だけれど……」

ベアフレートは、あまりイズルを好きではないらしい。どこか投げやりな態度というのはめずらしい。
イシスは、ずっと考えていた。
儀式をしているときから、召喚されるのは勇者だと信じていたし、イズルを見ても、間違いだとは思えないのだ。
ただ、目の色が勇者とは違っていて、彼いわくもともとの黒。

「……強い人間ではあるの、イズル様は」

空になったカップを手で押し包む。

「やっぱり、もう一度、彼に会って話してみようと思うの」
「え?……勇者をやってくれって、そういうこと?」
「ええ」

バックアップやすべてのサポートを整えて、勇者として打倒魔王の旗印になってもらえたら。

「どうしてそこまで、彼に期待するんだい」

ベアフレートが訝しげに言った。

「勘よ。それ以外にないのだけれど……」
「本人が嫌だと言ってるんじゃないか」
「いいえ、直接は言っていないわ」
「あれ……?」

そう、一言も勇者が嫌だとは彼の口から聞いていない。

「彼の考えは読めないけれど……さっき言ったでしょ、因果って。なにかあって彼が召喚されたような気がしてならないの」

ベアフレートはじっとイシスを見て、静かにうなずく。

「――分かった。君の気が済むように」
「ありがとう……」

こんなに理解してもらえるひとが、近くにいる。
それは何よりもとても嬉しいことだ。

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