その願いを〜雨の庭の建国記〜

鹿音二号

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踏み出す第一歩(4)

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今回の雨乞い――というには何かおかしいが――には、やたら見学者が多い。
行商人とその護衛の冒険者たち、オハイニとその魔法の教え子のふたり。
空の馬車も連れて行くから、かなりの大所帯だ。
無事にダンジョンの入口まで来ると、冒険者たちが特に騒いだ。

「これが噂の新ダンジョン……!」
「お前らダンジョンの経験は?」
「ねえに決まってるだろ!」
「中どうなってるんだろうな」

結界は張ってあり、穴の周囲に魔物はいない。
結界も実は1ヶ月もすれば消えるもので、今回はついでに新しく張り直した。

「リオール、メイ、見えた?」
「見えた!」
「見えてる」

一般の人間には見えない魔法だが、魔力を持つ魔術師には修練をすればすぐに魔力と結界程度なら感知できる。
魔法……魔力の使い方を練習して1ヶ月ほどの魔術師の卵らは、順調に能力を伸ばしているらしい。
オハイニに連れられている子どもたちは、ひとりは金髪碧眼の14歳の少年、もうひとりは焦げ茶の髪に青い目の10歳の少女だ。つらい家事をサボれるとあって、このダンジョンとの往復の4日間は楽しみだったらしい。
……念のため、バ・ラクエは村においてきた。彼女は不満だったようだが、マスターと離れることでいい経験になるだろう。

「で、こっちがグランヴィーオが空けた穴。あっどっちもか」

はは、と笑うオハイニだったが、他のみんなは2つの穴を見て黙り込んだ。

「始めるぞ」

装身具を外し、魔術を構築する。
息を呑む音が複数聞こえた。
ただ魔術を一つ組み、媒体を穴に落とすだけだが。

「濡れるかもしれないからね」

オハイニが言うと同時に、グランヴィーオは装身具を放り投げた。
しばしして。
吹き上がる水に歓声が上がる。

「すっげー!」
「ガチに水柱だ!」
「うおおおお!」

冒険者たちがうるさい。
行商人は呆気にとられて口が開いている。子供らも似たような顔だ。オハイニは何故か自慢げだ。

「……いつもの通り、2,3日で鉱山周辺に雨が降る」

じっと子どもたちの視線がグランヴィーオに突き刺さった。

「水を細分化し、雲を作る。これは自然の摂理とそう変わらない、それを魔術で簡略化し、風のコントロールで座標」
「ようは魔術で水が雲になって、場所をなんとなく決めて雨が降るようにするってことね」

オハイニが簡単にまとめてしまった。
どうも、グランヴィーオが説明しようとすると、彼女が先まわって終わらせてしまう。まあ、したいならすればいい。

「構築した魔力は見えた?」
「うーんちょっとだけ」
「光だけ。細かくてよくわかんねえ」
「よしよし、じゅうぶん」

子どもたちの頭をなでて、オハイニは、頷く。……リオールにはうざそうに逃げられたが。

「いやはや、すごいですね」

リュケーが感慨深そうに話しかけてきた。

「魔法は何度か見たことがありますが、ここまで規格外、ゴホン、素晴らしいものは見たことがありませんでした」

ニコリと人懐こい笑みで、片手を差し出してきた。

「お話した通り、私の知る中で一番大きく、そして信用できる商会に取引の打診をいたします。良いご報告ができると思いますので、お待ち下さい」
「……ああ」

手を握り、軽く振ってから離れた。

「お世話になりました。ではまた」
「ああ、今度もっといい酒持ってきてよ」
「選んでおくよ」

馬車を引いて、何度も名残惜しそうに振り返りながら、リュケーは荒れ地の外のレイモアの方向へ。
その馬車が少し小さくなるかというとき。

「こら!リオール!」

オハイニが叫んだ。
振り返ると、リオールが結界に入り込んで一目散にダンジョンへと向かっていく姿が。

「……」

彼を主軸に結界を張る。
ダンジョンに張ったものは人間は出入りできるが――だから今リオールが入ってしまったわけで――、今度は何も通さない、物質に近いものだ。
ごんっ、と派手な音を立て見えない壁にぶつかり、ぎゃっと短い悲鳴を上げながらリオールは穴の堰の前で転んだ。

「馬鹿!何してんの!」

いつダンジョンから魔物が出てきてもおかしくない。
急いでリオールを結界の中から引きずり出し、暴れる少年を仁王立ちするオハイニの前に転がした。

「約束破ったな?ダンジョンは危ないから結界には入らないようにってあれほど言ったのに」
「ちょっとだけ見てもいいだろ!」

不満だというように手で地面を叩くリオールに、オハイニは青筋を額に立てる。

「あのな、本当に危ないんだよ、危険が危ない。グランヴィーオが死にかけたくらいだぞ」

リオールは少し怯んだようだった。

「あれはオルトロ、」
「黙ってろ。ともかく、まだお前ごときが行ける場所じゃない。お前は貴重な魔術師だ。村にとって希望だ。アタシはアンタを一人前にするまで見守る義務がある」
「……」
「しばらくここには来ないよ、約束破ったんだから」
「えー!?」
「だったら最初から言うこと聞きなさい!」

オハイニが憤懣やる方ないと肩を怒らせ、ショックのあまり立ち上がったリオールの腕を掴む。

「帰るよ。まだ2日旅があるんだからそれで満足しなさい」
「やだー!帰りたくねえー!」

家事が嫌なのだろう、ジタバタとリオールが暴れるが、魔法まで使ってそれを抑えているオハイニ。

「ねー領主さま、オルトロってなーに」

メイが近寄ってきてマントを掴む。まるでラクエと同じである。

「……ああ、オルトロス。ダンジョンで出てきた魔物だ」
「魔物!」
「大きな……体で。ベルソンよりも何倍も大きい」
「え……」

顔がひきつる少女。初対面でメイはベルソンを見て逃げた。

「黒い毛並みで、犬の頭がふたつある。素早い動きで、一瞬で数十メートル移動する。私はその牙に腹を食い破られそうになった」
「ふえ……」
「だが、動きは単調で、爪と脚で踏みつけてくる――」
「や、やだー!」

気がついたら、メイは涙目になって震えていた。オハイニが連れていたリオールも青ざめている。

「ちょっと何してくれてんのもう……」

オハイニは深々とため息をつく。

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