その願いを〜雨の庭の建国記〜

鹿音二号

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死せる者の棲む地(5)

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「いや、まあ、死霊が大暴れ!とか言われたらねえ……」

もう何も言えないと、天を仰いでオハイニは嘆く。

「それよりも制御を失ったバ・ラクエが気になった。要因が分かっている以上、刺激する気も起きなかった」
「まあ、命令聞かない猟犬ほどやっかいなものはないわな」

ゼルが肩をすくめてうそぶく。

「けど、本当に使い魔にする気なのか、その、」
『わたくし、サザーランドと申します』

ぱっと、いきなり現れるレイスの女。

「……サザーランド?」
『はい。正式名称はそうです。わたくしも実は恩讐だけが残った霊で、それにたくさんの霊がくっついた、今のラクエ様と近い状態なのですぅ』
「何このにこやかな霊」

オハイニが引いた。

「美人だよな」

ゼルが唸る。

「なんでササラなんだ」
『ラクエ様がそう呼んでくださるので……えへ』
「…………………そうか」
「うわ、グランヴィーオのそんな嫌そうな顔初めて見た」
『心配はございません!わたくし、尽くす女なので!』
「……本当に死霊のコントロールは効くのか」
『正確には、半分以上が何も言わず従ってます。他は言うこと聞かせちゃいますのでご安心を。あ、ただ、今後わたくしレベルの死霊が出ないとも限りません、そうなるとガチンコ勝負です』
「……被害はないとは言い切れないんだな」
『そ、そこは目を瞑っていただけると……』
「燃やすか」
『ひい!』
「ど、どうしたのアンタ……」

オハイニが何やら顔を引きつらせた。

「どうもしない」
「いや明らかに性格変わってるんだけど。いつもの私と俺どころじゃないじゃんよ」
『こちらが本当のマスターですか?確かに違うよね、こう、私を今にも消そうとするあの鬼神のような姿……』

頬を染めて目を潤ませるササラに、グランヴィーオ含め全員が一歩後ろに下がった。
そして、

「何の話をしている……?」

――最悪の状況に陥る。
いつからいたのか、近くにエンツィオが呆然と立っていた。
ササラを見て、それからグランヴィーオとバ・ラクエを交互に見る。
わなわなと震えたかと思うと、

「そうか、貴様ら、死霊と通じていたか」
「どうしてそうなる?」

オハイニが思わずといったように真面目な口調になった。

「……結構状況的にはクロじゃねーの?」

もはや現実逃避を始めたゼルと、トールはいっそ笑っていた。

「東の村長も人の話聞かねえとは思ってたが、ぶっ飛びはしなかったな」
『通じてはいるよね、マスターと下僕だもの』
「やっぱり燃やすか」
『マスターひどい!』
「何をごちゃごちゃと……!貴様ら、死霊と結託して我が村を襲うつもりだったか!はっ、そのガキも……!?」

ラクエもたしかに、死霊の類ではあるが……

『ガキとは失礼な!』

何故か、胸を張ってササラが一歩前に出る。

『このお方をどなたと思ってるわけ?この荒れ地の最強にして最高の、悪神バ・ラクエ様!そんじょそこらの死霊と一緒にしないでくださる!?』
「か……」
「あ……」
「……」

思わず、ササラの存在を霧散させた。
ぱっと霧のように薄まって、消える。

「いやー犬は飼い主に似るって言うけどねえ……」

オハイニは半眼でグランヴィーオを見やる。とてつもなく失礼なことを言われた気がするが、よく理解できなかった。
エンツィオは白目を剥きかけている。

「……あ、悪神……!?くそ、皆のもの出合えー!」

騒ぎを聞きつけ、どんど人が集まってくる。

「あーあー」
「どうする……!?」

どの程度かはわからないが、危機的状況だろう。
やれやれ、とオハイニが面倒くさそうに頭をかく。
そして、近くにいたトールに耳打ちをする。
トールは少し驚いたようだったが、最後には頷く。

「グランヴィーオ、アタシがどうにかするから、アンタは黙って、何もせず、そのまま立ってて」
「了解した」

オハイニが強く言うので、頷いておく。
ほとんど全員が出てきているのかと思うほどの人だかりで、何人かは武器を持っている。
うっすらとした敵意と、疑念。
彼らの顔からは村長ほど強い感情は見当たらない。
オハイニが息を吸った。

「誤解を招いたのは謝る。けど、アタシらの話をまずは聞いてほしい」
「何を今さら!貴様らが死霊と会話していたのを私は見たぞ!」
「その通りだ!けど、あれはすでにこの大魔術師グランヴィーオ様が手なづけた使い魔だ。あれは敵である他の死霊に対抗するため、アタシらの案に乗ってくれたのさ、絶対服従でね」

まあ、間違っていない。
数人は、特にテヌの周囲の人間は彼女がなるほどと頷いたことで少し空気を和らげた。
だが、エンツィオはなおも声を張る。

「死霊というだけで悪!我らが神は認めておらぬ!それをあまつさえ……悪神だと?邪教徒め!」

神、という単語に、周囲がまたざわめきが大きくなる。
こころなしか、敵意も見え始めた。
さらに村長は指を差し、つばを飛ばしながら怒鳴る。

「この村を乗っ取る気だろう!もう我が神を奪われてなるものか、この外道の邪教徒――」
「アタシらは邪教徒なんかじゃない!アンタらの言う邪教徒はあの卑怯な腐れ外道どもだろう!アタシらは関係ない!」

オハイニが今まで見たことのないような剣幕で喚く。
それに気圧されたのか、あたりはしんと静まり返った。

「あのクソ野郎がアンタらをどう騙したかなんて知ってる。心底あれとは一緒にされたくない。アタシらは荒れ地の民だ、それ以上でもそれ以下でもない。ここに死霊を伏し悪神を従えたお方がいるんだ、アタシらがあいつらに怯えて暮らさなくてもいい日がすぐ訪れるさ」

オハイニはゆっくりとエンツィオの前まで歩いていく。

「今は信じなくてもいい、ただ、穏便に終わらせようぜ。差し当たってはグランヴィーオサマ、トールにゼルは今ここから帰してもらう」
「なに……」
「アタシはグリウが起き次第、一緒に帰る。その後は知らない。それでいいでしょ?」
「……今日起こったことは各村に通達する。それでもいいのか?」
「どーぞ」

ふん、とオハイニは鼻を鳴らし、こちらを振り返った。

「さて、帰るよー」
「オハイニ、大丈夫か?」

ゼルが心配そうに彼女の手を握ろうとしたが振り払われた。

「それこそアタシ(東の魔術師)をどうにかしようとしたら、今鉄鉱石を抱えてる西と東がいっせいに敵に回るんだべ?ないない」
「そうは言ってもな……」
「トール、心配だろうがグリウはお姉さんに任せなさい」

さあ帰った!とマントを引っ張られ、渋々移動する。
あっさりと村から出て、帰路につく。
ゼルが何度も南の村を振り返るが、そうしたところで何も変わるはずがない。

「さっきの……ササラ?ってどうなったんだ?何か消えたっぽいが」

トールが恐る恐る聞いてくる。
心配をするのか、死霊ごときを。

「問題ない。契約は生きている以上、そのうち修復する」
「やっぱり消したのか」

複雑そうな顔をして、それ以上は聞いてこなかった。
ラクエはいつもと変わらない表情で大人しく抱かれている。

西の村に帰り、ロドリゴに報告する。
彼は苦笑して、お疲れ様でした、とだけ言った。

「先に鉱山のことは了承を得たので、計画に支障はないでしょう。荒れ地の死霊の実態も知ることができたうえ、強力な使い魔を増やされた。今後はそれが生きてくるはずです。そうお気を落とされることもありません」

隣で聞いていたトールがえ?と振り返ったようだ。

「落ち込んでるのか」
「……」

そうか、自分は落ち込んでいるのか。
おそらくそれは、南の村で思った通りの成果を出せなかったからではない。

「……まあ、爺様の言う通りだ。南の村と仲が悪くなったのは、あれは仕方ねえだろ」

ぽん、と軽く肩を叩かれた。
それで少し心が軽くなったのは、我ながらおかしなものだと思わずにいられない。
グランヴィーオたちに遅れること半日、オハイニとグリウが帰ってきた。

「いやーなんかよくわかんねーけどひどい目にあったぜー」

後遺症も無いようでけろりとしたグリウを、トールとゼル、話を聞いていたベルソンが寄ってたかっておもちゃにしている。

「無事で何より」

ロドリゴが疲れた顔のオハイニにねぎらうと、彼女はへらりと笑う。

「ああ、なんかカーネリアさんがことを荒立てるなって一言言ったら、遠巻きにされるだけで何にもなかったよ」
「ほっほ。道理が分かるお人ではあるようだからの」

オハイには肩をすくめた。

「それで分かったけど、南の村長が暴走気味。テヌって魔術師に挨拶されたけど、彼女には表立って敵意はなかったかな。村でも今回のことで村長派とカーネリア派で分かれたみたいね」
「うむ、少し面倒なことになりましたな」
「今のところアタシらには関係がないしね、様子見でしょ」
「あっグランヴィーオサマ」

グリウがトールに肩を掴まれたままこちらに寄ってきた。

「助けてくださってどうもでした!よく覚えてねーけど、やばかったみたいだし」
「いや……」

礼を言われることではない。むしろ……

「すまなかった」
「へっ?」
「危険な目に遭わせた。もっと警戒すべきだったと……後悔している」
「えっえー……?」

頭を下げると、グリウが全身を強張らせてトールに目で何かを訴える……トールはトールで、目を見開いて無言だったが。

「い、いいですーって!俺はほら、こう、元気だし!」
「それでか……」

トールが何か小さくつぶやき、首を振って、こちらの肩を叩く。

「グリウは無事だし、本人もこう言ってるだろ」
「だが」

トールがグリウに目配せすると、彼は何か思いついたようだった。

「……あーそうそう、それで、犯人捕まえて使い魔にしたって聞いたんすけど、出せます?」
「……ああ」

もう2日経っているから復活できるだろう。
オハイニに断ってから、魔法を構築する。
簡単ではないが、契約がある上にあれは霊体だ、素体の構築はいらないからすぐに再召喚という形で呼び出せた。

『あっはー!復活ですわん』
「えーなんでこのテンション!」

出てきて早々珍妙なことを抜かすササラに、グリウが指を差して笑う。それを見て、ササラはキョトンとした。

『アラ、あなた誰かしら』

さっそく超特大級の発言をかました。
一瞬で場が凍る。

「……ほおお?」

さすがに、グリウは怒ったらしい。

「俺はグリウ。あんたの手下?に殺されかけたモンです」
『……あっ』

うっかりと言うようにササラは口を手で押さえた。

「ちょっとツラ貸してくんねーかなー?いや今じゃねえよー?今度な、俺専用に銀の矢出来てくるんだわ、その試し撃ちに付き合ってほしいなーなんて」
『は、そ、それは、ラクエ様とマスターにお聞きしないとぉ……』
「許可する」
「きょーかー」
『アアッご無体な!?』
「よーしよし、ちいっとばかし痛いかもしれないけど我慢してくれな……3分の1くらい削れるかもしれないけど」
「全部でも構わないが」
「じゃ、半分ってとこで」
『ひいいいいご勘弁をおおおおお』
「ま、死霊だしねー」

矢じりに魔法かけてやんよ、とオハイニがすごみを効かせてのたまった。
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