36 / 57
知識の峰(3)
しおりを挟む
オハイニの希望でゼルとベルソンが席を外し、家にはグランヴィーオとラクエ、それにイルゲという魔法に関わる者だけになった。
「アンタ、メルヴィス師を知ってる?」
顔色をうかがって探るのをやめたのか、オハイニが単刀直入に聞いてきた。
――そう、彼はそんな名前だった。
「知っている」
「本当に!?」
がばりとオハイニが詰め寄ってくる。
それには、どうも答えようがなかった。
記憶が一部なくなっているのだ。
確かに彼に会って、『星魔法』を教えてもらった。概念は間違っておらず、魔法は使える。
なのに、彼と会った時間は、記憶がおぼろげだった。
「オハイニ」
イルゲが彼女の肩を軽く掴んで、それからこちらにちらりと視線をよこす。
オハイニがしどろもどろになった。
「あ、ああ、ごめん、言いたくないならいい……」
「お前が何を聞きたいのかよくわからないが、私はメルヴィスと名乗る魔術師と会い、彼に星魔法を教えてもらった。それ以外は確実なことは言えない」
「……そう、ありがとう」
オハイニは複雑そうだが、それで飲み込むことにしたらしい。
「……もう知ってるかもしれないけど、メルヴィス師は『知識の峰』の魔術師だった」
「だろうな」
星魔術が禁術の指定を受けているのだから。
「そして、破門された導師でもある」
「……そうなのか」
それは知らなかった。
「禁術とされておきながら、星魔術を世間一般に公表したからだ」
「なるほどな」
星魔法が最も哀しい禁術と呼ばれているのは知っている。若干皮肉がこもっているだろうが。
最も知られている禁術なのに、その研究は不完全にしか知られていない。それ故に誰も扱うことができないのだ。
――そもそも、禁術が禁術であると、一般の魔術師には知られていないはずなのだ。それは知識の峰の中で隠されるのだから。
それなのに、ほとんど名前だけとはいえ、禁術として世に知られている。
「何故そんなことをしたか。理由は、アタシが魔法を禁術指定にするのを反対したのと同じだったとか」
「……世に公表したかったのに、禁術指定を食らったのか」
「そう。当時彼と双璧をなしていた賢者グレゴリーに、強引にね。50年ほど前の話さ」
首座が強引に決め、それに腹を立てたメルヴィス師が己のすべてをかけた魔法を世にばら撒いた。
「まとめられた論文や本などの資料は、峰が躍起になって回収したせいでもう下界には残ってないだろうという話だけど、ほとんど伝説みたいに名前だけは語り継がれてる」
最も哀しい禁術として。
「導師が破門されて、その禁術は広く知られてしまった。まあ、概念が当時革新的すぎて誰も理解できなかったんだけどね」
クスクスと愉快そうに彼女は笑った。
「長年の秘跡が世間に漏れてしまい、焦った知識の峰は、首座にすべての判断を委ねた。それが星魔術の禁術指定期間が『賢者グレゴリーが解除するまで』となった理由だよ」
笑みを引っ込め、オハイニは静かにグランヴィーオを眺めた。
「アンタが『星魔法』をつかったとき、最初は、アンタが残った知識で魔法を完成させたのかとも思った。けどそれにしては完璧過ぎた。なら、メルヴィス師に直接教えられたのかと……知識が受け継がれたって、分かっただけでも嬉しいよ」
そうして、また笑う。上機嫌だった。
「アタシは、メルヴィス師に憧れたんだ。かっこいいよね」
「……そうか」
「もう、冷めてるねぇ」
不満そうに口をとがらせるオハイニは、すぐに笑顔に戻る。
「メルヴィス師のことがあったから、アタシが魔法を――空間術を公表しようとしたときに、強引に奪ったんだと思う。それは、彼らにとっては緊急事態だったから。常習化してるといえば、そう言えるってことだろうね」
本当に嬉しそうにする彼女に――グランヴィーオに残った、覚えていることのすべてを話す気にはなれなかった。
「アンタ、メルヴィス師を知ってる?」
顔色をうかがって探るのをやめたのか、オハイニが単刀直入に聞いてきた。
――そう、彼はそんな名前だった。
「知っている」
「本当に!?」
がばりとオハイニが詰め寄ってくる。
それには、どうも答えようがなかった。
記憶が一部なくなっているのだ。
確かに彼に会って、『星魔法』を教えてもらった。概念は間違っておらず、魔法は使える。
なのに、彼と会った時間は、記憶がおぼろげだった。
「オハイニ」
イルゲが彼女の肩を軽く掴んで、それからこちらにちらりと視線をよこす。
オハイニがしどろもどろになった。
「あ、ああ、ごめん、言いたくないならいい……」
「お前が何を聞きたいのかよくわからないが、私はメルヴィスと名乗る魔術師と会い、彼に星魔法を教えてもらった。それ以外は確実なことは言えない」
「……そう、ありがとう」
オハイニは複雑そうだが、それで飲み込むことにしたらしい。
「……もう知ってるかもしれないけど、メルヴィス師は『知識の峰』の魔術師だった」
「だろうな」
星魔術が禁術の指定を受けているのだから。
「そして、破門された導師でもある」
「……そうなのか」
それは知らなかった。
「禁術とされておきながら、星魔術を世間一般に公表したからだ」
「なるほどな」
星魔法が最も哀しい禁術と呼ばれているのは知っている。若干皮肉がこもっているだろうが。
最も知られている禁術なのに、その研究は不完全にしか知られていない。それ故に誰も扱うことができないのだ。
――そもそも、禁術が禁術であると、一般の魔術師には知られていないはずなのだ。それは知識の峰の中で隠されるのだから。
それなのに、ほとんど名前だけとはいえ、禁術として世に知られている。
「何故そんなことをしたか。理由は、アタシが魔法を禁術指定にするのを反対したのと同じだったとか」
「……世に公表したかったのに、禁術指定を食らったのか」
「そう。当時彼と双璧をなしていた賢者グレゴリーに、強引にね。50年ほど前の話さ」
首座が強引に決め、それに腹を立てたメルヴィス師が己のすべてをかけた魔法を世にばら撒いた。
「まとめられた論文や本などの資料は、峰が躍起になって回収したせいでもう下界には残ってないだろうという話だけど、ほとんど伝説みたいに名前だけは語り継がれてる」
最も哀しい禁術として。
「導師が破門されて、その禁術は広く知られてしまった。まあ、概念が当時革新的すぎて誰も理解できなかったんだけどね」
クスクスと愉快そうに彼女は笑った。
「長年の秘跡が世間に漏れてしまい、焦った知識の峰は、首座にすべての判断を委ねた。それが星魔術の禁術指定期間が『賢者グレゴリーが解除するまで』となった理由だよ」
笑みを引っ込め、オハイニは静かにグランヴィーオを眺めた。
「アンタが『星魔法』をつかったとき、最初は、アンタが残った知識で魔法を完成させたのかとも思った。けどそれにしては完璧過ぎた。なら、メルヴィス師に直接教えられたのかと……知識が受け継がれたって、分かっただけでも嬉しいよ」
そうして、また笑う。上機嫌だった。
「アタシは、メルヴィス師に憧れたんだ。かっこいいよね」
「……そうか」
「もう、冷めてるねぇ」
不満そうに口をとがらせるオハイニは、すぐに笑顔に戻る。
「メルヴィス師のことがあったから、アタシが魔法を――空間術を公表しようとしたときに、強引に奪ったんだと思う。それは、彼らにとっては緊急事態だったから。常習化してるといえば、そう言えるってことだろうね」
本当に嬉しそうにする彼女に――グランヴィーオに残った、覚えていることのすべてを話す気にはなれなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる