その願いを〜雨の庭の建国記〜

鹿音二号

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知識の峰(3)

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オハイニの希望でゼルとベルソンが席を外し、家にはグランヴィーオとラクエ、それにイルゲという魔法に関わる者だけになった。

「アンタ、メルヴィス師を知ってる?」

顔色をうかがって探るのをやめたのか、オハイニが単刀直入に聞いてきた。
――そう、彼はそんな名前だった。

「知っている」
「本当に!?」

がばりとオハイニが詰め寄ってくる。
それには、どうも答えようがなかった。
記憶が一部なくなっているのだ。
確かに彼に会って、『星魔法』を教えてもらった。概念は間違っておらず、魔法は使える。
なのに、彼と会った時間は、記憶がおぼろげだった。

「オハイニ」

イルゲが彼女の肩を軽く掴んで、それからこちらにちらりと視線をよこす。
オハイニがしどろもどろになった。

「あ、ああ、ごめん、言いたくないならいい……」
「お前が何を聞きたいのかよくわからないが、私はメルヴィスと名乗る魔術師と会い、彼に星魔法を教えてもらった。それ以外は確実なことは言えない」
「……そう、ありがとう」

オハイニは複雑そうだが、それで飲み込むことにしたらしい。

「……もう知ってるかもしれないけど、メルヴィス師は『知識の峰』の魔術師だった」
「だろうな」

星魔術が禁術の指定を受けているのだから。

「そして、破門された導師でもある」
「……そうなのか」

それは知らなかった。

「禁術とされておきながら、星魔術を世間一般に公表したからだ」
「なるほどな」

星魔法が最も哀しい禁術と呼ばれているのは知っている。若干皮肉がこもっているだろうが。
最も知られている禁術なのに、その研究は不完全にしか知られていない。それ故に誰も扱うことができないのだ。
――そもそも、禁術が禁術であると、一般の魔術師には知られていないはずなのだ。それは知識の峰の中で隠されるのだから。
それなのに、ほとんど名前だけとはいえ、禁術として世に知られている。

「何故そんなことをしたか。理由は、アタシが魔法を禁術指定にするのを反対したのと同じだったとか」
「……世に公表したかったのに、禁術指定を食らったのか」
「そう。当時彼と双璧をなしていた賢者グレゴリーに、強引にね。50年ほど前の話さ」

首座が強引に決め、それに腹を立てたメルヴィス師が己のすべてをかけた魔法を世にばら撒いた。

「まとめられた論文や本などの資料は、峰が躍起になって回収したせいでもう下界には残ってないだろうという話だけど、ほとんど伝説みたいに名前だけは語り継がれてる」

最も哀しい禁術として。

「導師が破門されて、その禁術は広く知られてしまった。まあ、概念が当時革新的すぎて誰も理解できなかったんだけどね」

クスクスと愉快そうに彼女は笑った。

「長年の秘跡が世間に漏れてしまい、焦った知識の峰は、首座にすべての判断を委ねた。それが星魔術の禁術指定期間が『賢者グレゴリーが解除するまで』となった理由だよ」

笑みを引っ込め、オハイニは静かにグランヴィーオを眺めた。

「アンタが『星魔法』をつかったとき、最初は、アンタが残った知識で魔法を完成させたのかとも思った。けどそれにしては完璧過ぎた。なら、メルヴィス師に直接教えられたのかと……知識が受け継がれたって、分かっただけでも嬉しいよ」

そうして、また笑う。上機嫌だった。

「アタシは、メルヴィス師に憧れたんだ。かっこいいよね」
「……そうか」
「もう、冷めてるねぇ」

不満そうに口をとがらせるオハイニは、すぐに笑顔に戻る。

「メルヴィス師のことがあったから、アタシが魔法を――空間術を公表しようとしたときに、強引に奪ったんだと思う。それは、彼らにとっては緊急事態だったから。常習化してるといえば、そう言えるってことだろうね」

本当に嬉しそうにする彼女に――グランヴィーオに残った、覚えていることのすべてを話す気にはなれなかった。

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