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過日の美しき(1)
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「いや難しいよ、どうすりゃいいの」
オハイニが両手を上げて訴えた。
相談がある、とロドリゴのところに現れたオハイニは、だいぶ疲れているようだった。
グランヴィーオに直接行かず自分のところに来たのだから、おそらく最近彼女が頭を悩ませている魔術師の新組織についてだろう。
この領地で、知識の峰に依存しない、新しい魔術師の集団。
それは画期的であるし、今後増大する知識の峰の圧力に対する対策でもあることはすぐに理解できた。
ロドリゴとしては願ったりかなったりの提案で、もちろん喜んで承認したが。
その責任者はオハイニ以外にはありえないが、彼女は頭は悪くないが、切れるというほどでもない。魔術師であるから、そちらの視点しかないだろう。組織というものの壁にぶち当たるのは予想の範囲だった。
「ほっほ。そう嘆くこともなかろうて」
どちらにしろ領主の意見もいることであるし、グランヴィーオの執務室で彼と、ロドリゴとオハイニ、西の村をほとんど掌握したタツィオ、それと最近頭角を現してきた東の村のまとめ役のデイジーが同席した。
デイジーはまだ16歳の少女だが、将来有望の才女だった。
東の村長のダンはいい人間だが、実務的な能力はそこまでではない。他にサポートする人材もほとんどおらず、西の手を貸しながらどうにか今までやりくりしてきた。だが状況は刻々と変わり、今では管理できるものが必須だろうと探し回って見つけたのがデイジーだった。
もともと頭の良い子で、村でも一目置かれていたが、なにせ年齢が幼いと言えるほどである。自然と線引きをされて家のことだけに縛られていた。だがそんなことは関係がないと、ロドリゴが東の村の運営に関わり始めた時に人を整理し、そこでデイジーを登用した。
最近は読み書き計算に加え、村についても関われるようになり、かなり育ってきているだろう。見た目はそこらにいる村娘だが、あと1年もあれば立派な書記として活躍できるに違いない。
オハニイは緊張した彼女と長椅子に一緒に座り、腕を組んで唸っている。
「なんとなくしか方向性?が分からなくて、それをどうしたら組織になるのか……せめて形は作らないと、あと数ヶ月で来る知識の峰へのハリボテにもならない」
「そう悲観することもなかろう。実力は申し分ない魔術師のお前さんたちがいればどうにでもなる」
実際のところはグランヴィーオ、オハイニ、イルゲの3人いれば無敵だろう。今まで荒れ地で活動してきたことを公表するだけで、世間から注目される程度には。
ただ、オハイニが言うことももちろん間違っていない。
「どこまで考えている?」
オハイニは難しい顔のまま、紙を数枚出してきた。
「とりあえず、鉱山の面倒を見るのは絶対だけど、実のところそこまで人数が必要なわけじゃない。今でじゅうぶんなくらいだ」
実働可能なのはオハイニとイルゲ、ものになったリオールとメイの東の村の魔術師たち、のちにやってきたふたりと、さらに増えた6人。北の村の魔術師も交代で参加する。これだけで毎日余裕で採掘が回るという。
どうして魔術師が採掘しなければならないかというと、魔鉱石は本当に脆いからだ。
ほんの少し硬いものに当てたら粉々になる。そんなものを、人間が道具で岩盤を砕いて掘り出すことができるわけがない。
魔術師が魔法で、そっと土を掻き分けていく。魔法でなら傷つかないのだそうだ、魔鉱石は。
さらに、何故か外部で構築した魔術では魔鉱石は反発する。原理はわかっていないが、魔術で採掘しようものなら小規模ながら爆発が起こることが予想される。
さいわい豊富な鉱脈だった鉱山では少し集中して掘るだけで出てくるため、まだ拙いリオールたちでも十分に掘り出せる。
生産性の向上は視野に入れるとしても、増え続ける魔術師の数をみると心配はいらないだろう――だからこそ、組織化は急務だが。
「それを徐々に厳密な当番制にして、残りは研究をさせたい。できれば荒れ地をどうにかできるような魔法を構築したいわけ」
「なるほどのう」
「責任者は、まあアタシでしょ。鉱山担当はイルゲがやる気だし、研究室……ええと、魔法を生み出すための研究グループの室長は必要かなとは思うけど……」
「うむ、だが、それらをどうやって誰が動かし、調整するのかの」
「……だよねえ」
「それに、お主も気づいておろうが、」
「あー言わなくていい!分かってる!」
オハイニは片手を突き出しロドリゴを遮った。
「魔術師は金食い虫だ」
彼女はいっそ悲しいくらいに顔色を悪くする。
「……魔鉱石で元が取れるとはいえ、そのうち膨れ上がる研究費に、そんな負担は領地にかけられない……」
「うむ、よく理解しているのう」
そこに気づいていれば、悲観する必要もない。
それに、今はいいが、は、領地全体に言える。
すでに村でも気付いているものは、外に出稼ぎに行っている。今は領地として魔鉱石を売り出し、その収入を分配しているが、これがさらに大きな領地になるとそんな方法は取れない……まあ今まで個別で外に行くということすらできなかったから、しばらくはその幸福を噛み締めていても問題はないが。
「ってことは、鉱山以外の収入を組織単独で確保しなきゃならないでしょ?それをこの出不精のアタシら(魔術師)がどうやって?っていう……」
「もちろん、鉱山からの収入はそちらに分配するがの」
「もちろんそれはもらわないと。ほかが単独で……ううん、イルゲが最近掘り出した土に興味あって、どうやら魔力を含有してるっぽくて、うまく行けば魔力封石っぽいのが作れるとは言ってたけどぉ……」
「それは面白いことだ。魔力封石とやらは魔術師に必須なのであろう?」
グランヴィーオやイルゲがつけている宝飾品のたぐいだ。
魔術師が魔法を使うということは、体内の魔力を使うということだ。
けれど大きな魔法、強い魔法を使おうとすると通常の魔術師が持っている魔力では到底足りないらしい。そこで、魔力を封じやすい宝石や道具を使うとか。
事前に用意し、魔術師自身が魔力を封じておくらしく、イルゲなどは幾つも作り置きして身につけている。
余談だが、魔力が少なすぎるオハイニはそれすら作れるほどの魔力を持ち合わせていないようで、高価な道具に手を出せなかったこともあって今までは魔力封石を使ってこなかった。
逆に有り余る魔力を持つグランヴィーオが大量の魔力封石を身につけているのは、魔法は魔力の微調整が効かず驚異的な威力を持つものになってしまうため、日常では魔術という体外からの魔力を操るものを行使しているからだとか。
それに、彼が空っぽのそれを身につけていると、すぐに魔力封石が出来上がるという。体質の影響だ。
それが鉱山の排土で作れるとなると、かなり期待できるのでは。
ただ、オハイニは不満げだった。
「それって作ればハイ終わりなんだよね、仕事って感じ」
「良いことでは」
タツィオはそれがどうしたと不思議がっている。
「稼げるっていう点ではね。ただ、魔術師のすることじゃない」
「……うむ、言いたいことはなんとなく分かったよ」
やはりなかなか魔術師は難しい。
「……研究する魔法は荒れ地のためのものだけか?」
唐突にグランヴィーオがぼそりとつぶやく。
緊張し続けているデイジーが震えたが、それに苦笑したオハイニがぽんと彼女の肩を叩き、大丈夫だと落ち着かせる。
「いちおうメインはね。大義名分には十分だと思うけど」
「無駄だ、今ですらあれほど種類が違う魔術師が揃ってんだ」
表情はいつもの乏しいもので、今は「俺」のほうか、とロドリゴは密かに苦笑する。
この領主の口調の転換に、なにか法則があるのだろうかと観察しているが、今のところよくわかっていない。
「専門じゃない魔法をひたすら研究させることになりかねないのは分かってんだろ」
荒れ地に関することとなると、土地や気象、植生や死霊……といったところか。
たしかに、今いる魔術師の中にはどうにもそれにそぐわない魔法を得意としているものもいる。
「それは仕方ないことじゃない?じゃないと、ここにいる意味がない。専門でやっていけない魔術師の果てがここに来てるようなもんだし」
「……お抱え、か」
憂うようにグランヴィーオは囁く。
魔術師が研究に金や手間がかかるのは必然で、それを賄うにはやはり雇い主を探さなければならない。それは、雇い主である人間の目的に沿わなければならないのが条件だ。
「お抱え……つまり、特定の魔法が必要な人間がいる」
「そうだよ、だから魔力持ってる人間が全員は魔術師名乗れないんでしょ」
「なら、ここにその魔術師がいると言えばいいんだろ」
「……ん?」
「探さなくて済むだろ、ここにいるんだから」
「……ギルド」
タツィオがはっとつぶやき、それで全員、理解した。
冒険者ギルド、商人ギルド。
そういった人材を紹介する窓口がある。
依頼者の要望に合わせて、ギルドに登録した中から人材や商会を仲介する。冒険者や商人は自らを宣伝せずとも、登録して待つだけである。
それを、魔術師のものを作ればいいと。
「さしずめ、魔術師ギルドといったところでしょうか」
今までこの大陸では聞いたことがない。もしかしたらあるのかも知れないが、有名ではない。
おそらく、魔術師は知識の峰の専売特許だったからだろう。
「うっわなにそれ。そんなのでいいの?」
オハイニは目を輝かせた。が、すぐに考え始めた。
「でも手広くやれないよ?荒れ地に魔術師雇うほどの人間がいないし、そうなると外……」
「商会を通じて依頼を受ければよろしいでしょう。必要なら派遣するということで問題はないかと」
「人間の移動は難しいですが、その、魔法そのものは売れないんですか?」
「あー……あ?魔法を売る?」
不審そうに、オハイニは言い出したタツィオに目を向けた。
「えっと、ほら、よくグランヴィーオ様の作られた道具でオハイニさんたちも魔法?魔術?されてるじゃないですか、ダンジョンの雨乞いとか……」
「……研究結果と構築した魔道具でも売れば、適当な魔術師でも再現できるだろ」
グランヴィーオは軽く考えて、肯定するような言葉を放つ。
なるほど、あれを商品として売りに出すのか。
だが、オハイニは何が気に入らないのか渋面だった。
「売るってのに引っかかるんだけど……」
自分たちの成果を軽々しく使われるのが嫌なのか。
グランヴィーオはしかし、彼女を気にしたようでもない。
「今まで俺たちがやってたことと変わんねえだろ。誰かの研究を調べ、真似て構築し、勝手に作り直す。その手間が金銭の取引に変わるだけだ」
「ああーそっか……そうだよね」
「それに、お前が破門された理由がそれだろう」
「え?」
「世間に公表できずに反発した。それと自分の魔法を教えて、誰かに代わりにやってもらうのは何が違う?」
「……ははは、その通りだ!」
オハイニが上機嫌になる。
同時に、ロドリゴも密かに狂喜していた。
この魔術師ギルドに、荒れ地以外の魔術師が登録すれば、どうなるだろう。
知識の峰の魔術師より、在野で活動する魔術師のほうが圧倒的に多い。
知識の峰の魔術師は高名で、宮廷魔術師であることも少なくない。貴族に雇われていることも。だが、庶民にはその力のありがたさはわからない。
もし、在野の魔術師が、ありとあらゆるところでその魔法を披露することになるとしたら?
それを、荒れ地の魔術師ギルドが仲介するのだ。
(魔術師の価値を高め、なおかつ知識の峰の影響力は薄れる)
――知識の峰とはことを構えるつもりはない。
だが、圧力に屈するつもりもないのだ。これは防衛としての組織であり、それは大きなものであればあるほどいい。
「かなり、大きな組織になるでしょう」
ロドリゴはにこやかな顔を心がける。
「ですので、そういった事務的な仕事は通常の人間でも構わないでしょう。オハイニは目端のきく魔術師であるし、運営だけを任せられる人間をおいて相談すれば、不都合はないだろうて」
「ああ、ヴィーオとロドリゴ村長みたいにね」
「さよう」
――出会った時のことは忘れられない。
異様な雰囲気の魔術師。
荒れ地に少女だけを連れて来るとは、何を考えているのか。話を聞くだけでもおかしく、そして――魅力的だった。
類まれな力を持ち、こちらの言うことは理解しているのに、どこか抜けている。
使える、と。
思ったことはトールにも内緒だ。
彼をうまくその気にさせれば、この地をせめて人間の住める土地に――自分たちの邑にできるのではと。
それが間違いだったと、気づくのはすぐのことだった。
グランヴィーオはただの魔術師などではなかった。
彼はそのような器ではなかった。
彼がちっぽけな荒れ地で終わっていいはずがない。
邑ではなく、国だ。
オハイニが両手を上げて訴えた。
相談がある、とロドリゴのところに現れたオハイニは、だいぶ疲れているようだった。
グランヴィーオに直接行かず自分のところに来たのだから、おそらく最近彼女が頭を悩ませている魔術師の新組織についてだろう。
この領地で、知識の峰に依存しない、新しい魔術師の集団。
それは画期的であるし、今後増大する知識の峰の圧力に対する対策でもあることはすぐに理解できた。
ロドリゴとしては願ったりかなったりの提案で、もちろん喜んで承認したが。
その責任者はオハイニ以外にはありえないが、彼女は頭は悪くないが、切れるというほどでもない。魔術師であるから、そちらの視点しかないだろう。組織というものの壁にぶち当たるのは予想の範囲だった。
「ほっほ。そう嘆くこともなかろうて」
どちらにしろ領主の意見もいることであるし、グランヴィーオの執務室で彼と、ロドリゴとオハイニ、西の村をほとんど掌握したタツィオ、それと最近頭角を現してきた東の村のまとめ役のデイジーが同席した。
デイジーはまだ16歳の少女だが、将来有望の才女だった。
東の村長のダンはいい人間だが、実務的な能力はそこまでではない。他にサポートする人材もほとんどおらず、西の手を貸しながらどうにか今までやりくりしてきた。だが状況は刻々と変わり、今では管理できるものが必須だろうと探し回って見つけたのがデイジーだった。
もともと頭の良い子で、村でも一目置かれていたが、なにせ年齢が幼いと言えるほどである。自然と線引きをされて家のことだけに縛られていた。だがそんなことは関係がないと、ロドリゴが東の村の運営に関わり始めた時に人を整理し、そこでデイジーを登用した。
最近は読み書き計算に加え、村についても関われるようになり、かなり育ってきているだろう。見た目はそこらにいる村娘だが、あと1年もあれば立派な書記として活躍できるに違いない。
オハニイは緊張した彼女と長椅子に一緒に座り、腕を組んで唸っている。
「なんとなくしか方向性?が分からなくて、それをどうしたら組織になるのか……せめて形は作らないと、あと数ヶ月で来る知識の峰へのハリボテにもならない」
「そう悲観することもなかろう。実力は申し分ない魔術師のお前さんたちがいればどうにでもなる」
実際のところはグランヴィーオ、オハイニ、イルゲの3人いれば無敵だろう。今まで荒れ地で活動してきたことを公表するだけで、世間から注目される程度には。
ただ、オハイニが言うことももちろん間違っていない。
「どこまで考えている?」
オハイニは難しい顔のまま、紙を数枚出してきた。
「とりあえず、鉱山の面倒を見るのは絶対だけど、実のところそこまで人数が必要なわけじゃない。今でじゅうぶんなくらいだ」
実働可能なのはオハイニとイルゲ、ものになったリオールとメイの東の村の魔術師たち、のちにやってきたふたりと、さらに増えた6人。北の村の魔術師も交代で参加する。これだけで毎日余裕で採掘が回るという。
どうして魔術師が採掘しなければならないかというと、魔鉱石は本当に脆いからだ。
ほんの少し硬いものに当てたら粉々になる。そんなものを、人間が道具で岩盤を砕いて掘り出すことができるわけがない。
魔術師が魔法で、そっと土を掻き分けていく。魔法でなら傷つかないのだそうだ、魔鉱石は。
さらに、何故か外部で構築した魔術では魔鉱石は反発する。原理はわかっていないが、魔術で採掘しようものなら小規模ながら爆発が起こることが予想される。
さいわい豊富な鉱脈だった鉱山では少し集中して掘るだけで出てくるため、まだ拙いリオールたちでも十分に掘り出せる。
生産性の向上は視野に入れるとしても、増え続ける魔術師の数をみると心配はいらないだろう――だからこそ、組織化は急務だが。
「それを徐々に厳密な当番制にして、残りは研究をさせたい。できれば荒れ地をどうにかできるような魔法を構築したいわけ」
「なるほどのう」
「責任者は、まあアタシでしょ。鉱山担当はイルゲがやる気だし、研究室……ええと、魔法を生み出すための研究グループの室長は必要かなとは思うけど……」
「うむ、だが、それらをどうやって誰が動かし、調整するのかの」
「……だよねえ」
「それに、お主も気づいておろうが、」
「あー言わなくていい!分かってる!」
オハイニは片手を突き出しロドリゴを遮った。
「魔術師は金食い虫だ」
彼女はいっそ悲しいくらいに顔色を悪くする。
「……魔鉱石で元が取れるとはいえ、そのうち膨れ上がる研究費に、そんな負担は領地にかけられない……」
「うむ、よく理解しているのう」
そこに気づいていれば、悲観する必要もない。
それに、今はいいが、は、領地全体に言える。
すでに村でも気付いているものは、外に出稼ぎに行っている。今は領地として魔鉱石を売り出し、その収入を分配しているが、これがさらに大きな領地になるとそんな方法は取れない……まあ今まで個別で外に行くということすらできなかったから、しばらくはその幸福を噛み締めていても問題はないが。
「ってことは、鉱山以外の収入を組織単独で確保しなきゃならないでしょ?それをこの出不精のアタシら(魔術師)がどうやって?っていう……」
「もちろん、鉱山からの収入はそちらに分配するがの」
「もちろんそれはもらわないと。ほかが単独で……ううん、イルゲが最近掘り出した土に興味あって、どうやら魔力を含有してるっぽくて、うまく行けば魔力封石っぽいのが作れるとは言ってたけどぉ……」
「それは面白いことだ。魔力封石とやらは魔術師に必須なのであろう?」
グランヴィーオやイルゲがつけている宝飾品のたぐいだ。
魔術師が魔法を使うということは、体内の魔力を使うということだ。
けれど大きな魔法、強い魔法を使おうとすると通常の魔術師が持っている魔力では到底足りないらしい。そこで、魔力を封じやすい宝石や道具を使うとか。
事前に用意し、魔術師自身が魔力を封じておくらしく、イルゲなどは幾つも作り置きして身につけている。
余談だが、魔力が少なすぎるオハイニはそれすら作れるほどの魔力を持ち合わせていないようで、高価な道具に手を出せなかったこともあって今までは魔力封石を使ってこなかった。
逆に有り余る魔力を持つグランヴィーオが大量の魔力封石を身につけているのは、魔法は魔力の微調整が効かず驚異的な威力を持つものになってしまうため、日常では魔術という体外からの魔力を操るものを行使しているからだとか。
それに、彼が空っぽのそれを身につけていると、すぐに魔力封石が出来上がるという。体質の影響だ。
それが鉱山の排土で作れるとなると、かなり期待できるのでは。
ただ、オハイニは不満げだった。
「それって作ればハイ終わりなんだよね、仕事って感じ」
「良いことでは」
タツィオはそれがどうしたと不思議がっている。
「稼げるっていう点ではね。ただ、魔術師のすることじゃない」
「……うむ、言いたいことはなんとなく分かったよ」
やはりなかなか魔術師は難しい。
「……研究する魔法は荒れ地のためのものだけか?」
唐突にグランヴィーオがぼそりとつぶやく。
緊張し続けているデイジーが震えたが、それに苦笑したオハイニがぽんと彼女の肩を叩き、大丈夫だと落ち着かせる。
「いちおうメインはね。大義名分には十分だと思うけど」
「無駄だ、今ですらあれほど種類が違う魔術師が揃ってんだ」
表情はいつもの乏しいもので、今は「俺」のほうか、とロドリゴは密かに苦笑する。
この領主の口調の転換に、なにか法則があるのだろうかと観察しているが、今のところよくわかっていない。
「専門じゃない魔法をひたすら研究させることになりかねないのは分かってんだろ」
荒れ地に関することとなると、土地や気象、植生や死霊……といったところか。
たしかに、今いる魔術師の中にはどうにもそれにそぐわない魔法を得意としているものもいる。
「それは仕方ないことじゃない?じゃないと、ここにいる意味がない。専門でやっていけない魔術師の果てがここに来てるようなもんだし」
「……お抱え、か」
憂うようにグランヴィーオは囁く。
魔術師が研究に金や手間がかかるのは必然で、それを賄うにはやはり雇い主を探さなければならない。それは、雇い主である人間の目的に沿わなければならないのが条件だ。
「お抱え……つまり、特定の魔法が必要な人間がいる」
「そうだよ、だから魔力持ってる人間が全員は魔術師名乗れないんでしょ」
「なら、ここにその魔術師がいると言えばいいんだろ」
「……ん?」
「探さなくて済むだろ、ここにいるんだから」
「……ギルド」
タツィオがはっとつぶやき、それで全員、理解した。
冒険者ギルド、商人ギルド。
そういった人材を紹介する窓口がある。
依頼者の要望に合わせて、ギルドに登録した中から人材や商会を仲介する。冒険者や商人は自らを宣伝せずとも、登録して待つだけである。
それを、魔術師のものを作ればいいと。
「さしずめ、魔術師ギルドといったところでしょうか」
今までこの大陸では聞いたことがない。もしかしたらあるのかも知れないが、有名ではない。
おそらく、魔術師は知識の峰の専売特許だったからだろう。
「うっわなにそれ。そんなのでいいの?」
オハイニは目を輝かせた。が、すぐに考え始めた。
「でも手広くやれないよ?荒れ地に魔術師雇うほどの人間がいないし、そうなると外……」
「商会を通じて依頼を受ければよろしいでしょう。必要なら派遣するということで問題はないかと」
「人間の移動は難しいですが、その、魔法そのものは売れないんですか?」
「あー……あ?魔法を売る?」
不審そうに、オハイニは言い出したタツィオに目を向けた。
「えっと、ほら、よくグランヴィーオ様の作られた道具でオハイニさんたちも魔法?魔術?されてるじゃないですか、ダンジョンの雨乞いとか……」
「……研究結果と構築した魔道具でも売れば、適当な魔術師でも再現できるだろ」
グランヴィーオは軽く考えて、肯定するような言葉を放つ。
なるほど、あれを商品として売りに出すのか。
だが、オハイニは何が気に入らないのか渋面だった。
「売るってのに引っかかるんだけど……」
自分たちの成果を軽々しく使われるのが嫌なのか。
グランヴィーオはしかし、彼女を気にしたようでもない。
「今まで俺たちがやってたことと変わんねえだろ。誰かの研究を調べ、真似て構築し、勝手に作り直す。その手間が金銭の取引に変わるだけだ」
「ああーそっか……そうだよね」
「それに、お前が破門された理由がそれだろう」
「え?」
「世間に公表できずに反発した。それと自分の魔法を教えて、誰かに代わりにやってもらうのは何が違う?」
「……ははは、その通りだ!」
オハイニが上機嫌になる。
同時に、ロドリゴも密かに狂喜していた。
この魔術師ギルドに、荒れ地以外の魔術師が登録すれば、どうなるだろう。
知識の峰の魔術師より、在野で活動する魔術師のほうが圧倒的に多い。
知識の峰の魔術師は高名で、宮廷魔術師であることも少なくない。貴族に雇われていることも。だが、庶民にはその力のありがたさはわからない。
もし、在野の魔術師が、ありとあらゆるところでその魔法を披露することになるとしたら?
それを、荒れ地の魔術師ギルドが仲介するのだ。
(魔術師の価値を高め、なおかつ知識の峰の影響力は薄れる)
――知識の峰とはことを構えるつもりはない。
だが、圧力に屈するつもりもないのだ。これは防衛としての組織であり、それは大きなものであればあるほどいい。
「かなり、大きな組織になるでしょう」
ロドリゴはにこやかな顔を心がける。
「ですので、そういった事務的な仕事は通常の人間でも構わないでしょう。オハイニは目端のきく魔術師であるし、運営だけを任せられる人間をおいて相談すれば、不都合はないだろうて」
「ああ、ヴィーオとロドリゴ村長みたいにね」
「さよう」
――出会った時のことは忘れられない。
異様な雰囲気の魔術師。
荒れ地に少女だけを連れて来るとは、何を考えているのか。話を聞くだけでもおかしく、そして――魅力的だった。
類まれな力を持ち、こちらの言うことは理解しているのに、どこか抜けている。
使える、と。
思ったことはトールにも内緒だ。
彼をうまくその気にさせれば、この地をせめて人間の住める土地に――自分たちの邑にできるのではと。
それが間違いだったと、気づくのはすぐのことだった。
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「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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