5 / 27
4.束の間の平穏の終わり
しおりを挟む
しばらくして、今日はおしまい、と夕方になる前にメレに治癒をやめさせた。もう何十人診ただろう。さいわい、大きな怪我の人はいなくて、エネルギーもそこまで消費していないようだ。
「今日もお疲れさん。これでいいかい?」
宿のおかみさんは、ただ場所を借りさせてもらえるだけでなく、まかないもくれるようになった。数人分だ。
「いつもありがとうございます」
「うちも儲けさせてもらってるから、これくらいはね」
噂になって、メレ目当てのお客が増えたらしい。
うまく宣伝効果になっているようで、ほっとしたミカだった。
いっぱいの荷物を抱えて、宿を出る。
笑って送り出してくれるおかみさんは……ミカに気づいているのかもしれない。相変わらず、食べさせてくれるまかないはおいしかった。
最近荷物が多いので、板に紐を付けて引きずるカートもどきを作った。車輪などは付いていないが、軽くてかさばる荷物を運ぶ時はずいぶん楽になった。発案した子は、大工のスキルを持っているのかもしれない。
「今日もいっぱい人が来たね」
「うん。大丈夫?疲れてない?」
「んーちょっとだけ。でも大丈夫だよ」
まだローブでおたがい顔を隠しているけれど、メレの声は元気そうでほっとした。
「こんなにたくさんもらえて、本当にすごい」
「それだけメレのスキルはすごいんだよ」
もともと希少なスキルだと聞いた。
それを神殿や国が囲い込んでいるため、めったに庶民の目には触れないのだそうだ。
……念のため、とローブで顔を隠して絶対にメレをひとりにさせていなくて、本当によかった。
たぶん、メレの噂が広まり続けたら、神殿や国も黙っていないだろう。
その前に……もう少しだけ、メレにがんばってもらう。
(なんだか、子どもを利用する悪いおとなになったみたい)
罪悪感はずっとある。
本当は、メレだけに負担がかかるようなことをさせたくない。
けれど、生きていくためには、ミカたちは幼すぎた。できることはする、必死になってもどうにもならないことがある。
だから、メレのスキルを利用するのは、正解で不正解だ。
「私ね、ミカにお礼をいいたくて」
「……え?」
突然メレに言われて、考え込んでいたミカはきょとんとした。
「私のスキルを、どんなものかって教えてくれて……使い方も。だから、ありがとう」
「……お礼を言われることじゃないよ。だって、メレにばっかり働かせてる」
本当は引っ込み思案なのだ、メレは。
ミカが来る前は、兄のブローの後ろに隠れているような子だったという。それなのに……
「嫌なことさせてるでしょ?大勢の人に会わなきゃならないなんて……」
「ううん。これでいいの」
メレは小さく笑った。
「私、あの時……お兄ちゃんが死んでしまうって思った時に、お兄ちゃんが助かるなら私が代わりに死んでもいいと思ったの」
「え……」
「だって、お兄ちゃんはいつも私の、私たちのために危ないのに人から盗んで、いつもお金とご飯をくれた。誰よりもいちばん多く」
「そっか……」
「なのに、私はお兄ちゃんのうしろに隠れてばっかり。何もしなかった……」
だから、大怪我を負ったブローを見て、後悔したのだという。
「私も……何かしなくちゃって。だから、私がスキルでお兄ちゃんを治せて、それをミカがこうやって使えるよって言ってくれて……これが私のできることって思ったら、いくらでも力が湧いてくるの」
「でも、こうやって、メレだけ、働かせてる」
「お兄ちゃんが、みんながスリをやめてくれたから、それだけでうれしいの」
ふわりと風が吹いて、メレの笑った口元が見えた。
「私が今度はみんなを助けるの。私、本当はみんなが危ないことをするのは嫌だった……けど、生きるためにはしかたないって……ミカがここに来た時言ったでしょ?スリはいけないことって、やめようって。私と同じことを思ってる人がいるんだって、うれしかったの」
「……だって、それは、本当のことを知らなかったから……」
「いいじゃない、知らなかったんだもの。私は思っていても何もしなかったんだもの……」
少し、さびしげなメレの声。
「だから、ミカにはうんとお礼を言わなくちゃ。ありがとう」
「ううん、こっちこそ」
泣きそうだった。
父親に殴られていても、保護者という名目の大人がそばにいて、だから家もあって食べるものもあったミカに、メレを利用するミカに、お礼を言われることなんて本当はあってはいけないはずなのに。
うれしいと、思ってはいけないのに。
――だから、罰が当たったのだ。
家が、燃えている。
小さな小屋だったから、大きな火にはならない。けれど、まるで焚き火のようにあっさりと燃えていた。
昨日やっと穴を全部塞いだ屋根も、崩れそうなところを石を噛ませた壁も、ギイギイと鳴る扉は、数日後に新しい物に変える予定を立てて。
それなのに。
メレが、ぺたんと地面に座り込んだ。
ミカは、頭が真っ白になっていた。
その赤い炎をぼんやりと見つめているのは、ミカたちだけじゃなかった。
「……メレ、ミカ、どうしよう……おれたちの家が」
ブローが、燃える家を背中に、ぼんやりとこちらを振り返った。
他のみんなも、立ったまま、座り込んで、家だったものを見ていた。
無意識に、ミカがそのシルエットを数えた。いち、に、さん……8つの影。
ミカとメレは並んでいる。
全員、いた。
「……シュモーク、火を消せ!」
とつぜん、後ろから大きな声が下がった。
「子どもらを下がらせろ!崩れる可能性がある!」
「はっ!」
だだっと、なだれ込むようにミカたちの間に人影が現れた。
数人の、大人たちだ。
鎧を着て、剣を下げている人間もいる。
その大人たちが、仲間を捕まえ始めた。
「……はなせ!やだ!」
「さわるな!」
「や、やめて!」
走り出そうとしたミカの、後ろから腕をつかまれた。
振り返ると、身なりのいい男がミカを掴んでいる。彼は真剣な顔で、ミカに語りかけた。
「落ち着いてくれ!危害はくわえない。火から遠ざけるだけだ!」
「で、でも……みんなが、家が、」
「誓って、君たちを傷つけない。このままだと火に巻かれてしまう。少し離れるだけだ。いいね?」
ゆっくりと、彼は膝をついてミカの目を見て言い含めてくれる。
――この人は、大丈夫だ。
なんとなくそう思った。
ミカは頷くと、メレを立ち上がらせて少し後ろに下がった。
暴れるみんなも、そのうちこちらの方に連れてこられた。
泣き出すものや、怖さで真っ青になっている仲間を、ミカとメレが慰めているうちに、家の火は消された。
残ったのは真っ黒な、煤けた、変なオブジェクトのようなもの。
ミカは半月くらい、メレたちは何年も住んだ家が、なくなってしまった。
「……災難だったね」
さっきミカをとどめてくれた大人が、また膝をついてミカに語りかけきた。
落ち着いてよく見ると、本当に身なりがいい男だった。貴族と言われれば、信じてしまいそうなほど。けれど、こんなスラムにそんな人は来ない。
20代前半くらいだろうか。上品な顔立ちに、輝きそうな金髪を少し伸ばして肩くらいまである。瞳は穏やかそうな、青みがかった灰色。
「……だれ?」
「突然すまない。私はクレシオ・ディナータという。子爵という……貴族だ」
「子爵……?ご本人ですか?」
「ああ、そうだ。……疑うのも無理はない。だが、信じてほしい、君たちに話があって来たんだ」
ミカと、メレを見る彼の目に気づいて、思わずメレをぎゅっと抱きしめて、隠した。
「ミカ?」
「メレの力のことでしょう!?」
「なに!?」
ブローが慌てて近寄ってきて、メレとミカを背にかばって、そのディナータ子爵という男の前に立つ。
「ブロー!やめて、貴族だよ!」
「知るもんか!メレに何かしたらゆるさねえぞ!」
「……そうだね、その子の力は重要だ。だからこそ、遅かれ早かれ、こうなっていただろう。違うかい?」
穏やかに笑っているが、彼はミカを、責めている。柔らかい口調だけれど、言葉はグサグサと心に刺さった。
「……ブロー、大丈夫。きっとこの人は私たちを捕まえに来たんじゃない」
そうじゃなければ、こんなに言葉をくれたりしない。
「目的はなんですか」
「……まずは、君たちをわが屋敷に招待しよう。ここでは少々はばかる」
「……保護してくれるというんですか?」
「そうだ。誓って、君たちに悪いようにしない」
メレが目的なら。
強引に攫ったりしてもよかったはずだ。けれど、こうやって話しかけてくれて、火事からも守ってくれた。
少なくとも、いきなり全員殺したり、牢屋に入れたりはしない人だろう。
「……わかりました。お願いします」
「ミカ!?」
「大丈夫。私を信じてくれる?」
みんなの顔をひとりひとり見ると、渋々了解してくれた。
ディナータはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。では、移動しよう」
数人ずつ、大人たちに付き添われて離れていく。みんな一度は家だったものを眺めて。
「……君が代表でいいのかい」
ディナータがミカに聞くが、首を振る。
「いいえ。メレの……治癒の力を持つこの子の兄の……さっきあなたに怒鳴った子がずっと仲間のリーダーです」
「けれど、君が一番話が通じそうだが?」
「私はちょっとお世話になっただけです」
「違うよ。ミカが一番分かってる」
さっきから手を握って離さないメレが、彼女にしては強い言葉で言った。
「私のスキルのこともミカが教えてくれたじゃない。このスキルで人を助けてその代わりに食べ物もらおうって言ったのも」
「ふむ、ではやはり君相手に話したほうがよさそうだ」
「え……」
ブローが少し傷ついた顔をした。
「リーダーはブローなので!」
「話は早いほうがいいだろう?」
「うう……分りました。では聞いて仲間に伝える役で」
「承知した」
ブローがしょんぼりとしているが、きっとメレにミカのほうがと言われたからだろう。
(あとで謝ろう)
でも、おとなとの話し合いはミカがなんとかしなければ。本当なら30歳くらいだし、きっと難しい話ができるのはミカだけだ。
(ディナータ子爵も、本当に味方とは限らない)
だんだんと暗くなる空に、少し不吉なものを感じた。
「今日もお疲れさん。これでいいかい?」
宿のおかみさんは、ただ場所を借りさせてもらえるだけでなく、まかないもくれるようになった。数人分だ。
「いつもありがとうございます」
「うちも儲けさせてもらってるから、これくらいはね」
噂になって、メレ目当てのお客が増えたらしい。
うまく宣伝効果になっているようで、ほっとしたミカだった。
いっぱいの荷物を抱えて、宿を出る。
笑って送り出してくれるおかみさんは……ミカに気づいているのかもしれない。相変わらず、食べさせてくれるまかないはおいしかった。
最近荷物が多いので、板に紐を付けて引きずるカートもどきを作った。車輪などは付いていないが、軽くてかさばる荷物を運ぶ時はずいぶん楽になった。発案した子は、大工のスキルを持っているのかもしれない。
「今日もいっぱい人が来たね」
「うん。大丈夫?疲れてない?」
「んーちょっとだけ。でも大丈夫だよ」
まだローブでおたがい顔を隠しているけれど、メレの声は元気そうでほっとした。
「こんなにたくさんもらえて、本当にすごい」
「それだけメレのスキルはすごいんだよ」
もともと希少なスキルだと聞いた。
それを神殿や国が囲い込んでいるため、めったに庶民の目には触れないのだそうだ。
……念のため、とローブで顔を隠して絶対にメレをひとりにさせていなくて、本当によかった。
たぶん、メレの噂が広まり続けたら、神殿や国も黙っていないだろう。
その前に……もう少しだけ、メレにがんばってもらう。
(なんだか、子どもを利用する悪いおとなになったみたい)
罪悪感はずっとある。
本当は、メレだけに負担がかかるようなことをさせたくない。
けれど、生きていくためには、ミカたちは幼すぎた。できることはする、必死になってもどうにもならないことがある。
だから、メレのスキルを利用するのは、正解で不正解だ。
「私ね、ミカにお礼をいいたくて」
「……え?」
突然メレに言われて、考え込んでいたミカはきょとんとした。
「私のスキルを、どんなものかって教えてくれて……使い方も。だから、ありがとう」
「……お礼を言われることじゃないよ。だって、メレにばっかり働かせてる」
本当は引っ込み思案なのだ、メレは。
ミカが来る前は、兄のブローの後ろに隠れているような子だったという。それなのに……
「嫌なことさせてるでしょ?大勢の人に会わなきゃならないなんて……」
「ううん。これでいいの」
メレは小さく笑った。
「私、あの時……お兄ちゃんが死んでしまうって思った時に、お兄ちゃんが助かるなら私が代わりに死んでもいいと思ったの」
「え……」
「だって、お兄ちゃんはいつも私の、私たちのために危ないのに人から盗んで、いつもお金とご飯をくれた。誰よりもいちばん多く」
「そっか……」
「なのに、私はお兄ちゃんのうしろに隠れてばっかり。何もしなかった……」
だから、大怪我を負ったブローを見て、後悔したのだという。
「私も……何かしなくちゃって。だから、私がスキルでお兄ちゃんを治せて、それをミカがこうやって使えるよって言ってくれて……これが私のできることって思ったら、いくらでも力が湧いてくるの」
「でも、こうやって、メレだけ、働かせてる」
「お兄ちゃんが、みんながスリをやめてくれたから、それだけでうれしいの」
ふわりと風が吹いて、メレの笑った口元が見えた。
「私が今度はみんなを助けるの。私、本当はみんなが危ないことをするのは嫌だった……けど、生きるためにはしかたないって……ミカがここに来た時言ったでしょ?スリはいけないことって、やめようって。私と同じことを思ってる人がいるんだって、うれしかったの」
「……だって、それは、本当のことを知らなかったから……」
「いいじゃない、知らなかったんだもの。私は思っていても何もしなかったんだもの……」
少し、さびしげなメレの声。
「だから、ミカにはうんとお礼を言わなくちゃ。ありがとう」
「ううん、こっちこそ」
泣きそうだった。
父親に殴られていても、保護者という名目の大人がそばにいて、だから家もあって食べるものもあったミカに、メレを利用するミカに、お礼を言われることなんて本当はあってはいけないはずなのに。
うれしいと、思ってはいけないのに。
――だから、罰が当たったのだ。
家が、燃えている。
小さな小屋だったから、大きな火にはならない。けれど、まるで焚き火のようにあっさりと燃えていた。
昨日やっと穴を全部塞いだ屋根も、崩れそうなところを石を噛ませた壁も、ギイギイと鳴る扉は、数日後に新しい物に変える予定を立てて。
それなのに。
メレが、ぺたんと地面に座り込んだ。
ミカは、頭が真っ白になっていた。
その赤い炎をぼんやりと見つめているのは、ミカたちだけじゃなかった。
「……メレ、ミカ、どうしよう……おれたちの家が」
ブローが、燃える家を背中に、ぼんやりとこちらを振り返った。
他のみんなも、立ったまま、座り込んで、家だったものを見ていた。
無意識に、ミカがそのシルエットを数えた。いち、に、さん……8つの影。
ミカとメレは並んでいる。
全員、いた。
「……シュモーク、火を消せ!」
とつぜん、後ろから大きな声が下がった。
「子どもらを下がらせろ!崩れる可能性がある!」
「はっ!」
だだっと、なだれ込むようにミカたちの間に人影が現れた。
数人の、大人たちだ。
鎧を着て、剣を下げている人間もいる。
その大人たちが、仲間を捕まえ始めた。
「……はなせ!やだ!」
「さわるな!」
「や、やめて!」
走り出そうとしたミカの、後ろから腕をつかまれた。
振り返ると、身なりのいい男がミカを掴んでいる。彼は真剣な顔で、ミカに語りかけた。
「落ち着いてくれ!危害はくわえない。火から遠ざけるだけだ!」
「で、でも……みんなが、家が、」
「誓って、君たちを傷つけない。このままだと火に巻かれてしまう。少し離れるだけだ。いいね?」
ゆっくりと、彼は膝をついてミカの目を見て言い含めてくれる。
――この人は、大丈夫だ。
なんとなくそう思った。
ミカは頷くと、メレを立ち上がらせて少し後ろに下がった。
暴れるみんなも、そのうちこちらの方に連れてこられた。
泣き出すものや、怖さで真っ青になっている仲間を、ミカとメレが慰めているうちに、家の火は消された。
残ったのは真っ黒な、煤けた、変なオブジェクトのようなもの。
ミカは半月くらい、メレたちは何年も住んだ家が、なくなってしまった。
「……災難だったね」
さっきミカをとどめてくれた大人が、また膝をついてミカに語りかけきた。
落ち着いてよく見ると、本当に身なりがいい男だった。貴族と言われれば、信じてしまいそうなほど。けれど、こんなスラムにそんな人は来ない。
20代前半くらいだろうか。上品な顔立ちに、輝きそうな金髪を少し伸ばして肩くらいまである。瞳は穏やかそうな、青みがかった灰色。
「……だれ?」
「突然すまない。私はクレシオ・ディナータという。子爵という……貴族だ」
「子爵……?ご本人ですか?」
「ああ、そうだ。……疑うのも無理はない。だが、信じてほしい、君たちに話があって来たんだ」
ミカと、メレを見る彼の目に気づいて、思わずメレをぎゅっと抱きしめて、隠した。
「ミカ?」
「メレの力のことでしょう!?」
「なに!?」
ブローが慌てて近寄ってきて、メレとミカを背にかばって、そのディナータ子爵という男の前に立つ。
「ブロー!やめて、貴族だよ!」
「知るもんか!メレに何かしたらゆるさねえぞ!」
「……そうだね、その子の力は重要だ。だからこそ、遅かれ早かれ、こうなっていただろう。違うかい?」
穏やかに笑っているが、彼はミカを、責めている。柔らかい口調だけれど、言葉はグサグサと心に刺さった。
「……ブロー、大丈夫。きっとこの人は私たちを捕まえに来たんじゃない」
そうじゃなければ、こんなに言葉をくれたりしない。
「目的はなんですか」
「……まずは、君たちをわが屋敷に招待しよう。ここでは少々はばかる」
「……保護してくれるというんですか?」
「そうだ。誓って、君たちに悪いようにしない」
メレが目的なら。
強引に攫ったりしてもよかったはずだ。けれど、こうやって話しかけてくれて、火事からも守ってくれた。
少なくとも、いきなり全員殺したり、牢屋に入れたりはしない人だろう。
「……わかりました。お願いします」
「ミカ!?」
「大丈夫。私を信じてくれる?」
みんなの顔をひとりひとり見ると、渋々了解してくれた。
ディナータはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。では、移動しよう」
数人ずつ、大人たちに付き添われて離れていく。みんな一度は家だったものを眺めて。
「……君が代表でいいのかい」
ディナータがミカに聞くが、首を振る。
「いいえ。メレの……治癒の力を持つこの子の兄の……さっきあなたに怒鳴った子がずっと仲間のリーダーです」
「けれど、君が一番話が通じそうだが?」
「私はちょっとお世話になっただけです」
「違うよ。ミカが一番分かってる」
さっきから手を握って離さないメレが、彼女にしては強い言葉で言った。
「私のスキルのこともミカが教えてくれたじゃない。このスキルで人を助けてその代わりに食べ物もらおうって言ったのも」
「ふむ、ではやはり君相手に話したほうがよさそうだ」
「え……」
ブローが少し傷ついた顔をした。
「リーダーはブローなので!」
「話は早いほうがいいだろう?」
「うう……分りました。では聞いて仲間に伝える役で」
「承知した」
ブローがしょんぼりとしているが、きっとメレにミカのほうがと言われたからだろう。
(あとで謝ろう)
でも、おとなとの話し合いはミカがなんとかしなければ。本当なら30歳くらいだし、きっと難しい話ができるのはミカだけだ。
(ディナータ子爵も、本当に味方とは限らない)
だんだんと暗くなる空に、少し不吉なものを感じた。
16
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
小さな貴族は色々最強!?
谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。
本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。
神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。
その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。
転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。
魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。
ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜
にゃ-さん
ファンタジー
平凡な村人・レオンは、勇者パーティの荷物持ちとして蔑まれ、ある日「役立たず」として追放される。
だが、彼の正体は神々が恐れ、世界の理を超越する“創世の加護”を持つ唯一の存在だった。
本人はまったくの無自覚——それでも歩くたび、出会うたび、彼によって救われ、惹かれていく者たちが増えていく。
裏切った勇者たちは衰退し、彼を捨てた者たちは後悔に沈む。
やがて世界は、レオン中心に回り始める。
これは、最弱を装う最強が、知らぬ間に神々を超える物語。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる