ジョブスキル『座敷わらし』で、幸せな家を作ります!

鹿音二号

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4.束の間の平穏の終わり

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しばらくして、今日はおしまい、と夕方になる前にメレに治癒をやめさせた。もう何十人診ただろう。さいわい、大きな怪我の人はいなくて、エネルギーもそこまで消費していないようだ。

「今日もお疲れさん。これでいいかい?」

宿のおかみさんは、ただ場所を借りさせてもらえるだけでなく、まかないもくれるようになった。数人分だ。

「いつもありがとうございます」
「うちも儲けさせてもらってるから、これくらいはね」

噂になって、メレ目当てのお客が増えたらしい。
うまく宣伝効果になっているようで、ほっとしたミカだった。

いっぱいの荷物を抱えて、宿を出る。
笑って送り出してくれるおかみさんは……ミカに気づいているのかもしれない。相変わらず、食べさせてくれるまかないはおいしかった。
最近荷物が多いので、板に紐を付けて引きずるカートもどきを作った。車輪などは付いていないが、軽くてかさばる荷物を運ぶ時はずいぶん楽になった。発案した子は、大工のスキルを持っているのかもしれない。

「今日もいっぱい人が来たね」
「うん。大丈夫?疲れてない?」
「んーちょっとだけ。でも大丈夫だよ」

まだローブでおたがい顔を隠しているけれど、メレの声は元気そうでほっとした。

「こんなにたくさんもらえて、本当にすごい」
「それだけメレのスキルはすごいんだよ」

もともと希少なスキルだと聞いた。
それを神殿や国が囲い込んでいるため、めったに庶民の目には触れないのだそうだ。
……念のため、とローブで顔を隠して絶対にメレをひとりにさせていなくて、本当によかった。
たぶん、メレの噂が広まり続けたら、神殿や国も黙っていないだろう。
その前に……もう少しだけ、メレにがんばってもらう。

(なんだか、子どもを利用する悪いおとなになったみたい)

罪悪感はずっとある。
本当は、メレだけに負担がかかるようなことをさせたくない。
けれど、生きていくためには、ミカたちは幼すぎた。できることはする、必死になってもどうにもならないことがある。
だから、メレのスキルを利用するのは、正解で不正解だ。

「私ね、ミカにお礼をいいたくて」
「……え?」

突然メレに言われて、考え込んでいたミカはきょとんとした。

「私のスキルを、どんなものかって教えてくれて……使い方も。だから、ありがとう」
「……お礼を言われることじゃないよ。だって、メレにばっかり働かせてる」

本当は引っ込み思案なのだ、メレは。
ミカが来る前は、兄のブローの後ろに隠れているような子だったという。それなのに……

「嫌なことさせてるでしょ?大勢の人に会わなきゃならないなんて……」
「ううん。これでいいの」

メレは小さく笑った。

「私、あの時……お兄ちゃんが死んでしまうって思った時に、お兄ちゃんが助かるなら私が代わりに死んでもいいと思ったの」
「え……」
「だって、お兄ちゃんはいつも私の、私たちのために危ないのに人から盗んで、いつもお金とご飯をくれた。誰よりもいちばん多く」
「そっか……」
「なのに、私はお兄ちゃんのうしろに隠れてばっかり。何もしなかった……」

だから、大怪我を負ったブローを見て、後悔したのだという。

「私も……何かしなくちゃって。だから、私がスキルでお兄ちゃんを治せて、それをミカがこうやって使えるよって言ってくれて……これが私のできることって思ったら、いくらでも力が湧いてくるの」
「でも、こうやって、メレだけ、働かせてる」
「お兄ちゃんが、みんながスリをやめてくれたから、それだけでうれしいの」

ふわりと風が吹いて、メレの笑った口元が見えた。

「私が今度はみんなを助けるの。私、本当はみんなが危ないことをするのは嫌だった……けど、生きるためにはしかたないって……ミカがここに来た時言ったでしょ?スリはいけないことって、やめようって。私と同じことを思ってる人がいるんだって、うれしかったの」
「……だって、それは、本当のことを知らなかったから……」
「いいじゃない、知らなかったんだもの。私は思っていても何もしなかったんだもの……」

少し、さびしげなメレの声。

「だから、ミカにはうんとお礼を言わなくちゃ。ありがとう」
「ううん、こっちこそ」

泣きそうだった。
父親に殴られていても、保護者という名目の大人がそばにいて、だから家もあって食べるものもあったミカに、メレを利用するミカに、お礼を言われることなんて本当はあってはいけないはずなのに。
うれしいと、思ってはいけないのに。
――だから、罰が当たったのだ。

家が、燃えている。

小さな小屋だったから、大きな火にはならない。けれど、まるで焚き火のようにあっさりと燃えていた。
昨日やっと穴を全部塞いだ屋根も、崩れそうなところを石を噛ませた壁も、ギイギイと鳴る扉は、数日後に新しい物に変える予定を立てて。
それなのに。

メレが、ぺたんと地面に座り込んだ。
ミカは、頭が真っ白になっていた。
その赤い炎をぼんやりと見つめているのは、ミカたちだけじゃなかった。

「……メレ、ミカ、どうしよう……おれたちの家が」

ブローが、燃える家を背中に、ぼんやりとこちらを振り返った。
他のみんなも、立ったまま、座り込んで、家だったものを見ていた。
無意識に、ミカがそのシルエットを数えた。いち、に、さん……8つの影。
ミカとメレは並んでいる。
全員、いた。

「……シュモーク、火を消せ!」

とつぜん、後ろから大きな声が下がった。

「子どもらを下がらせろ!崩れる可能性がある!」
「はっ!」

だだっと、なだれ込むようにミカたちの間に人影が現れた。
数人の、大人たちだ。
鎧を着て、剣を下げている人間もいる。
その大人たちが、仲間を捕まえ始めた。

「……はなせ!やだ!」
「さわるな!」
「や、やめて!」

走り出そうとしたミカの、後ろから腕をつかまれた。
振り返ると、身なりのいい男がミカを掴んでいる。彼は真剣な顔で、ミカに語りかけた。

「落ち着いてくれ!危害はくわえない。火から遠ざけるだけだ!」
「で、でも……みんなが、家が、」
「誓って、君たちを傷つけない。このままだと火に巻かれてしまう。少し離れるだけだ。いいね?」

ゆっくりと、彼は膝をついてミカの目を見て言い含めてくれる。
――この人は、大丈夫だ。
なんとなくそう思った。

ミカは頷くと、メレを立ち上がらせて少し後ろに下がった。
暴れるみんなも、そのうちこちらの方に連れてこられた。
泣き出すものや、怖さで真っ青になっている仲間を、ミカとメレが慰めているうちに、家の火は消された。
残ったのは真っ黒な、煤けた、変なオブジェクトのようなもの。
ミカは半月くらい、メレたちは何年も住んだ家が、なくなってしまった。

「……災難だったね」

さっきミカをとどめてくれた大人が、また膝をついてミカに語りかけきた。
落ち着いてよく見ると、本当に身なりがいい男だった。貴族と言われれば、信じてしまいそうなほど。けれど、こんなスラムにそんな人は来ない。
20代前半くらいだろうか。上品な顔立ちに、輝きそうな金髪を少し伸ばして肩くらいまである。瞳は穏やかそうな、青みがかった灰色。

「……だれ?」
「突然すまない。私はクレシオ・ディナータという。子爵という……貴族だ」
「子爵……?ご本人ですか?」
「ああ、そうだ。……疑うのも無理はない。だが、信じてほしい、君たちに話があって来たんだ」

ミカと、メレを見る彼の目に気づいて、思わずメレをぎゅっと抱きしめて、隠した。

「ミカ?」
「メレの力のことでしょう!?」
「なに!?」

ブローが慌てて近寄ってきて、メレとミカを背にかばって、そのディナータ子爵という男の前に立つ。

「ブロー!やめて、貴族だよ!」
「知るもんか!メレに何かしたらゆるさねえぞ!」
「……そうだね、その子の力は重要だ。だからこそ、遅かれ早かれ、こうなっていただろう。違うかい?」

穏やかに笑っているが、彼はミカを、責めている。柔らかい口調だけれど、言葉はグサグサと心に刺さった。

「……ブロー、大丈夫。きっとこの人は私たちを捕まえに来たんじゃない」

そうじゃなければ、こんなに言葉をくれたりしない。

「目的はなんですか」
「……まずは、君たちをわが屋敷に招待しよう。ここでは少々はばかる」
「……保護してくれるというんですか?」
「そうだ。誓って、君たちに悪いようにしない」

メレが目的なら。
強引に攫ったりしてもよかったはずだ。けれど、こうやって話しかけてくれて、火事からも守ってくれた。
少なくとも、いきなり全員殺したり、牢屋に入れたりはしない人だろう。

「……わかりました。お願いします」
「ミカ!?」
「大丈夫。私を信じてくれる?」

みんなの顔をひとりひとり見ると、渋々了解してくれた。
ディナータはほっとしたように微笑んだ。

「ありがとう。では、移動しよう」

数人ずつ、大人たちに付き添われて離れていく。みんな一度は家だったものを眺めて。

「……君が代表でいいのかい」

ディナータがミカに聞くが、首を振る。

「いいえ。メレの……治癒の力を持つこの子の兄の……さっきあなたに怒鳴った子がずっと仲間のリーダーです」
「けれど、君が一番話が通じそうだが?」
「私はちょっとお世話になっただけです」
「違うよ。ミカが一番分かってる」

さっきから手を握って離さないメレが、彼女にしては強い言葉で言った。

「私のスキルのこともミカが教えてくれたじゃない。このスキルで人を助けてその代わりに食べ物もらおうって言ったのも」
「ふむ、ではやはり君相手に話したほうがよさそうだ」
「え……」

ブローが少し傷ついた顔をした。

「リーダーはブローなので!」
「話は早いほうがいいだろう?」
「うう……分りました。では聞いて仲間に伝える役で」
「承知した」

ブローがしょんぼりとしているが、きっとメレにミカのほうがと言われたからだろう。

(あとで謝ろう)

でも、おとなとの話し合いはミカがなんとかしなければ。本当なら30歳くらいだし、きっと難しい話ができるのはミカだけだ。

(ディナータ子爵も、本当に味方とは限らない)

だんだんと暗くなる空に、少し不吉なものを感じた。

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