身代わり吸魔が暴君騎士に思うこと

鹿音二号

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無事でよかったよ

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「……じゃあ、お前はゲーム開始の数ヶ月前にアエリアーナの中に入って――」
「違います。……俺は、最初からアエリアーナ」
「うん?」
「世界は俺の転生時から始まっているって。……なんでゲーム開始からではないのかは、不明」

じゃあ、憑依?っていうんじゃないのか。元のアエリアーナを乗っ取るのじゃなくて。
もともとの用語?から思えば、転生っていうのもおかしいよな、って思うんだけど、他に言いようがない。俺が死んで、別の人間になるって。
憑依かぁ……俺は怪しいところだけど、元々理性も人格もない災禍だから……あっ、だから、第一だったのか!?

「ありえますな。憑依先の条件が自我のない、人間に近いものというのは……それだと第一しかない」
「……この身体のことを考えると、ちょっともやるけどな」
「……また裏設定とか?」
「うん……」

第一の災禍の依代になった青年は、天涯孤独だった。
生まれたときからひとりきり。誰も頼るものもいなくて、ただ生きるためだけに必死だった。
名前も自分で分からないんだ。でも、呼ぶ人もいないから、名前がないまま。
第一の災禍――瘴気のかたまりが発生したとき、それを神の祟りだと思い込んだ一派がいて、生贄を捧げて鎮めようとした。
さあ誰を生贄にしようか、というときに、少し前から名前もわからない輩が、近くをうろついているのをその代表だか教祖だかは知った。
いなくなっても誰も何も言わない、まさに適材適所。
名前のない青年は、仲間にしてやるという嘘の言葉に大喜びして――生贄にされた。

恨みは瘴気になる。
第一の災禍は、その瘴気に嬉々として生贄に乗り移る。
――青年の自我は、その時すでに瘴気で粉々にされて、封印されるときにはなくなっていたんだろうけど。
俺はそれを知ってちょっと泣きそうだったんだよな。

「こう、シナリオがおかしいというのはけっこう言われていますよね」
「やっぱそうなの?」
「考察スレも賑わっているんですよ、あちこち細かい設定が、この大雑把なメインシナリオにしては濃すぎて……」
「だよな、戦闘とかはいいかげんなのに」
「……噂によると、元はRPG用のシナリオを流用したとか。会社が『聖贄』を作るときに設立された小さい会社で、そこの代表が大手、」
「あ、そういうのはいい」
「……すいません」

知ってることは披露したくなるあるある。

「世界がゲーム開始の数ヶ月前から……何かヒントとか、気になることはなかった?」

ゲームには不可逆的に『ない』時間だからな。
しょぼん、と松田。

「……俺は……逃げ出すことばっかり考えてて……」
「……そっか」

そりゃ逃げよう!ってなるよな、未来は陵辱三昧って……

「でも逃げなかった?」
「……逃げられませんでした。教会の目厳しすぎ……聖女って、本当に自由がなかった」

どんよりと、アエリアーナの顔が暗ーく沈む。
ああーまあ、超重要人物だもんな、普通に設定見ても。お付きやら護衛やらいっぱいついてそう。

「あれが本当ならアエリアーナもおかしい……!まともな人間には耐えられないっすよ!」
「洗脳の疑いはあったよなー」

仲間に陵辱されてるのに、旅をそのまま続けようとするところとか。使命感はそのまんま。
オタク松田くん、また眉間にすちゃっと指を。

「思うんですが、そういう二次元用のシナリオのご都合だとか穴だとか、それを現実に則すために設定が生えてきたんでは。アエリアーナのこともですが、たびたび後付け的なものが出てくるような気がしてならない」
「あ、それはそうかも」

ダインの覇気とかな。

「俺もどうにか逃げ出すか、せめてダイン――暴君騎士だけでも討伐隊から外せないか、色々やったんですよ……俺なりに」

けど、コミュ障にはそもそも人に話しかけられない。
松田がやったことは、討伐隊結成の情報を手に入れること(教えてもらえてなかったらしい)、暴君騎士はよくないんじゃないかなーって愚痴みたいのをおえらいさんの前で言う、コンラートを昇格させた(そしたら護衛から外れるかと思った)、封印の場所を教えた。

「封印の場所を教えた?なにそれ」
「……それは俺がフライングしただけだと思う。焦って色々してたら、破れる封印の場所を教会が特定する前に口走ってしまったみたいで……だから、アエリアーナが神託を受けた聖女って、すごい盛り上がっちまって……」

どうも、それでせっかく昇格させたコンラートが戻ってきたみたい。
シナリオの強制力とか言われるやつ思い出すね……

「これ以上、何かしてもっとおかしなことになったら……って、もう、何もできなくなった」
「……がんばったな」

コミュ障なのにな。
目をうるってさせるアエリアーナ。かわいいのにな……
暴君騎士の任命は、横から権力でねじ込まれたような気配があるらしい。うーん本当に領主何者。

そもそも、この討伐隊、はみだしものの集まりのようなもんなんだ。
成人目前で、教会での力を持ちすぎた聖女。
たびたび暴走する札付きの強力な騎士。
魔物の血が混じっている魔道士――そうそう、クリスティナだ。あの子も苦労してるんだろうな……強い魔道士なのに、魔道士の組織で魔物の混ざりものって言われて蔑まれて……
僧侶はわからん。
それは松田が知っていた。

「フレェイは、神院のかなり大きな支部の次席です。それが……予定外の出世だったって」

なんでも、神院はありがちなドロドロの派閥争いが絶えないらしいな。
老齢の次席が亡くなって、空席になった地位に二大勢力の苛烈な争いが繰り広げられているさなか、第三の勢力(世俗側かなって松田は言った)が推したのが、日和見主義のフレェイだった。
僧侶としての力はあったんだけど、ふらふらしてるから、操りやすいと思われたっぽい。
そして、足の引っ張り合いをしている二大勢力の横で、どーんと出世してしまった。

「……ということは」
「消極的な暗殺ですね……」

さっさと◯んでこいというやつ。

「……コンラートは、どちらかというと聖女が……その、死ぬなり討伐失敗を見届ける、監視みたいなものなんです」
「え?そうなの?」
「これはゲームになかった。だけど、コンラートは枢機卿のお気に入りなんです。教会の……忠実な犬として」
「……こっわ」
「……最近は、ダインより、コンラートのほうが怖い……」

めちゃくちゃ顔色悪いよ松田……
……ということは、やっぱり。

「失敗する前提ってやつか」
「はい。考察スレもそこで盛り上がってました。聖騎士の設定はゲームにないみたいで、色々推論されてた。ただ、俺は違う意見だ」
「ん?」
「それこそこの世界の後付けじゃないかと。世界を救うために立ち上がる聖女に付けるお供の少なさの理由の。だっておかしいだろ、こんな危機的状況に軍隊も動かさないとか」
「……そういえばそうだな」

メタ的には、そんなめんどいもんエロゲに必要?みたいな説明がついちゃうな。
シナリオ流用うんぬんを真に受けちゃうと、また違ってくるよな……まあ、それよりもこの現実世界でどうなってるか、だな。

「……で、どうする、この後」

俺は災禍を放ってはおけないなって思う。
この第四まで倒せたノリで、ちゃんとシナリオ範囲完遂まで見届けたい気がする。
でも……なあ。こんなに怯えてる松田を無理して付き合わせるのもな……
この先浄化の力がないと、難しいのは本当だけど。
でも、松田はぐっと手を膝の上で握って、決意に満ちた顔をする。

「ここまできたら逃げられません。対策をして、無事討伐完了までしたい」

心配無用だったみたい。

「よし、じゃあ次は第五だな」
「それもありますけど……ほんとうに、あの、暴君騎士の暴走は……龍兎的に、大丈夫なのか?」

けっこう気にされてるなあ。
俺だってアエリアーナ助けられてよかった!だけで男に掘られないっつーの。

「ぶっちゃけると、本当にごはん的なっていうか、むしろ、クスリ的な」
「クスリ」

大真面目に頷いとこ。

「ぶっトぶ。あれやばい」
「それは違った意味で大丈夫か」

はわ、と違う表情で心配をはじめたね。

「今のところは。そういうエネルギー補給的な方に意識向いちゃって、嫌悪とかそういうのがびっくりするくらいない。で、ダインのは……すげー、おいしいんだ」

はあ、思い出しただけでヨダレでそう。

「……」

ん?なんか、顔赤くしてない?
あれ?BL的なのってお前大丈夫なの?

「まあ……だから、暴走して作戦とかだめにされるのはマズイけど、それのあとのことなら、俺はむしろ役得的な……」
「けど、ケガさせるのは、よくない」
「……痛みもだいぶ感じないんだ、この身体。今回のは見逃してやってよ」

……そうか、身代わりが運よく現れたけど、それは自分のせいかと思っちまうのかな。
だから、俺のことを気にするあまり、ダインに敵意があるのか。ずっと恐怖の対象だったしな。

「そこのところはだから、ぜんぜん気にしなくていいよ。ありがとうな、気を使ってくれてるんだろ」
「……俺の、代わりにさせてしまって、本当に……ごめん」

その悔しそうな顔は、なんだろうな?
でも、嫌な感じじゃない。

「うん、アエリアーナが無事でよかったよ」
「それは、そうだな」

くす、ってアエリアーナの顔で松田は笑った。
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