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アエリアーナの告白
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1日かけて山をおりて、すぐ近くの町に入った。
ちいさい宿で、なぜか俺だけ個室を用意された。気を使わせた……のかな?もう別に疲れもなくなったんだけど。
今日はもう自由時間になって、みんな思い思いに過ごしている。
俺は……本を読んでいる。少しでも世界のことを知ろうと思って。
この世界の言語はどうやら言葉自体、頭に入っているらしい。しゃべるのも読むのも問題ない。聞いたこともないはずだったのに、最初から意味がすんなり通った。
本もそんなに入手しづらいものじゃなかった。もう2冊目。
こういうことしてると、大学を思い出すなーってほとんど覚えてないから、懐かしいって感覚だけだな。
ちょっとずつ、前の人生を思い出しているみたい。つっても、重要な事はぜんぜん思い出せない……弟がいたのかなとか、そういう。
ま、気長に行くぜ。思い出せなくてもそーゆーもんだって。
なんて、本を行儀悪くベッドで寝そべりながら読んでると。
ん?ノックの音だ。
「開いてるよ」
「失礼します」
おっと、アエリアーナだ。変なもの広げてないよな?とか思いながら、ベッドの上に座り直したよ。
アエリアーナは、いつもの白いワンピースに、若草色の肩掛けをはおってる。うーん、そのラフな感じもかわいい。
「どした?」
「……お話があります。今、いいでしょうか」
「うん?いいよ」
重要なことかな……なんか緊張してるみたい。
椅子なんてものがないから、ベッドの横に座らせた。
「……そ、その……はぁ」
「だ、だいじょぶか……?」
俯いて、ぎゅって膝の上でスカートをにぎりしめて、息も乱れて……なんかこう、俺まで緊張してきた……はっ、こ、告白!?ねえな、さむ。
「き、聞きたいことがあって」
「う、うん、なんだ?」
わっ、ガバッ、ってアエリアーナはこっちを見た。
桃色の唇が、ぱかって開く。
「ずっと聞きたかったんだ……きみ、転生者、だろ」
「……はい?」
なんと?
え、なんだ?
アエリアーナちゃん、なんか泣きそうになってる?
「春崎りゅうと。日本人の名前だ、それに、最初の……」
「まっ待て!」
…………………っくりしたー!
え?そういう感じ!?
ってどういう感じだ!?
今、転生人生一番の驚きです。
「……って、ことは、き、きみも……」
くしゃって、泣き笑いの顔になったアエリアーナは、こっくり頷いた。
「俺は、松田公一郎……元の世界では、男でした」
「……っ!」
TS!
TSってやつだこれ!
……アエリアーナちゃんが……男……
……そういうわけでもないしそれ問題じゃない。
すっごい驚きすぎて、頭がすっこーんどっかいって、戻ってこーい……
「そ、そうだったん、だ」
喉がカラカラになってる。
アエリアーナ、……ええと松田?は、大きく頷いた。
「第一が最初から変だったからすぐに分かりました。災禍がそんなベラベラしゃべるわけない見たことないシーンだ、それに土下座とか、聖女って口走るなんて、なんでお前が知ってるんだと、」
「お、おう、分かった分かった落ち着いて」
めちゃくちゃしゃべりよる。
今までのちょっと控えめに微笑む言葉少ななアエリアーナちゃんはどこへ。
はっと、松田は、前のめりだった姿勢を戻した。
「す、すいません、その、しゃべりすぎて……」
「う、うん。その、気持ちはわかるよ……」
こんな異世界で同じ奴見つけたってだけで、そりゃうれしいだろ。
かるーく言ったら、今度はボロボロ泣き始めた松田……
お、っまえ、見た目は可憐な少女なんだから!
「……お、れが、『聖贄』の……アエリアーナって……こ、こわすぎて……」
「あ、あー……」
……そうか、それも知ってるのか……
そりゃ泣く。
「その、な?こうやってシナリオ変わったんだ、よかったな」
いや、いいのか?まだ混乱してていいか悪いかなんて……
でも、松田はこくこく頷いて……よっぽど怖かったんだろうなぁ……
今は泣かせとこ。
ひとしきり泣いて落ち着いたら、松田はぽつぽつ話し出した。
「龍兎が転生したのは、あの第一の災禍の封印が解けた時、ですよね」
「ああ」
りゅうとってどの漢字当てるか分からんよな。漢字は教えたよ、日本語は意識したら書けるから。
松田はしばらくぶりに見た日本語に感動していた。
「あの時、もちろんシーンが違うってのはすぐに分かりました、俺はあのときこわくて逃げ出したくて、第一が、攻撃してくるのは、ぜんぶ逃げてやるつもりで、」
第一で最初のエロスチルだもんな……触手(髪)はヤだろ、うん。
「……土下座、始めたときは、夢かなんかかって思いました……すごい、謝ってくるし」
「俺だって必死だったんだぞ!」
生きるか死ぬか、なんでもやるに決まってるだろ!
くす、って少しだけアエリアーナの顔が笑った。うーむ中身男っていっても、外は推しだから混乱中です。
「龍兎は、聖女って言いました」
「言ったの?」
「覚えてないんですか」
「もー必死で何言ったかなんて……」
聖女って言っちゃったなら、そりゃ疑うわ。
聖女一行が第一を倒しに来たなんて、いくら理性があっても知りようないだろ、ずっと封印されてたのにさ。
「そうだったんですね。……俺は、この人が、一緒なんじゃないかって、むしろ、そう思いたくて、色々やってみたんですけど」
「うん?色々?」
アエリアーナはすこし、にやりって悪い顔した。
「……自己紹介、してないんだよ、俺」
……………はうわ!?
そうだ!してない!されてない!
「あと、名前も聞いた」
「あー!それ!名前!」
聞くわけないじゃん!瘴気のかたまりの敵なんかに!
クリスティナが不思議そうな顔するわけだよ!俺に気を取られたから、疑問がこっちに向いちゃったんだ。
「日本人の名前聞いて、俺は……本当に……」
また鼻をすすり始めた。
うーむ、よほど怖い思いを……って、あれ?
「なんで今まで黙ってたの」
「……」
黙り込むな。
もじ……って、スカートをいじるのは本当に俺の推しなんだけどな。
混乱はしてるけど、驚きが大きいのか、TSとか聞いてもぜんぜんなんにも思わないぞ。
ちょっと惜しい気もするけど、言ったってなあ……
「……陰キャのオタクなんです、俺……」
「……コミュ障」
「……はい……」
話しかけようとして、話しかけられなかった、と。
だから、あれこれ俺が気づくように仕向けたけど、スルーされた。
気づかねえ俺もだが、松田よ……減点な。
「えー……じゃあ、お前はこの世界のいつ頃転生したんだ?」
「……ゲーム開始の数ヶ月前……」
こいつは死んだこともばっちり覚えていたらしい。転生トラックってなに。事故って言ってほしかった。
神様にも会ったらしい。
会ったのかよ、神様。
なんかすっごい軽いノリだったらしい。姿は見えなくて、ぼんやり光みたいなシルエットだけ。
で、その神様が言うには――
「世界を滅ぼす魔神というものが現れ、数多ある世界を壊しまくったらしい。その神含め他の神々は魔神を封印したが、減った世界の代わりに虚無が蔓延った。ブラックホールみたいなものらしい。それは徐々に広がっていき、宇宙自体のバランスが取れなくなった。そこで神々は世界を新しく作ることにした。できた穴を埋めるようなものだと。けど、そんなにいっぱいの世界を、一から設定するのは面倒だ、そこで神々は考えた――数多ある他の世界の空想上の世界を、そのまま創り出してやろうと!」
すちゃっと、最後に松田は眉間に指をくいっと……あ、眼鏡だったのね。
「ふーん」
「……」
松田はやらかしたことに気づいたらしい。しおしお肩がすぼまっていく。
けどまあ、この世界がどんなのかは分かった。
適当に選んだな、神様。
「で、なんで俺たちが転生したわけ」
「……その、」
「しゃべりは気にしないから、俺も似たようなもんだし」
陰キャではないと思うけど。
松田くん、エンジンかけ直した。
俺たちが、というより松田が転生した理由。
世界を生まれさせたけど、万が一うまく回らず、また魔王やら魔神やらが出てきたりしたらかなわんと、その世界――物語に詳しい、死んで役目を終えた魂を主軸に置こうとしたのだとか。
ここで松田はミスをした。
軽すぎる神様、何の世界かは教えてくれなかったらしい。
松田、そういうノリのいい奴苦手そうだな……自分がオタクだったし、やり込んだRPGのどれか(ゲーム世界っての多いよな)だと思っていたら……まさかのヒロイン陵辱ゲー、しかも自分がヒロイン。
「それは俺のミスだ。だが、龍兎は別だ。神に会わず、なんで必要のない転生をしたのか……」
「そうだよな……」
「俺なりに考えたが、『世界に詳しい、死んだ人間』に同時に引っかかったのが龍兎なんでは?」
「……なるほど、検索したら複数ヒットしたみたいなものか!」
「なんで龍兎が、という理由にはなります。あとは俺を転生させるときに、PCでいうならファイル(魂)を同時選択するようなミスが起こった……とか」
「まあ、それでいいや。納得したー」
「そうだとしても、なぜ時間差があったのか、配役はなぜ第一……」
「いーから!」
そーゆーの答えが出てくるとも限らないし、深みにハマりそう。
それよりも、やっとゲーム知ってるやつがそろったんだ、この先のことだよ!
「この後のことだよ!この後が大変だろ」
「……そうですね」
松田ははっと、表情が切り替わる。
アエリアーナが松田でも、聖女の役割は果たすつもりなのは今まで一緒にいたから分かる。
災禍は冗談抜きにやばいから、放置できないだろ。
色々話をするうちに、おたがいのことも分かってきた。
まず――ゲーム知識がふたりともあやふやだった。
……まじかよ!?
俺も松田も、フルコンしてないんだ。ゲームがルート分岐が多くて、スチル回収が大変なのもあった。ストーリー自体は一本で、マルチエンディングなんだが、ともかく別仕立てのシーンが多い。イラストとボイスがすごく良くて、ストーリースキップするけどスチル回収のために何周もやるやつが多かった。
俺は3周弱、松田は1周半。……細かいところはボロボロ落としてるなあ……
ストーリーは単純だから、誰々の行動を変更させる、とか、このイベントをどうにか回避、その後にあーだこーだ、だとか、細かい動きをしなくていいのはうれしいが。
で、俺のほうがなぜか周回が多い。
松田、そこまでこのゲーム好きじゃなかったらしい。
だからか、ダインのことは、俺のほうがよく知っていた。
そもそも俺だって、選択ミスしていなければ知らなかった、ダインの過去。
ダインは名家の私生児だった。
前当主の、かなり遅くに出来た、メイドとの子供。どうも無理やり……って気がするんだよな。
母親は屋敷を出てダインを産んだけど、ダインが小さい頃に、前当主の遺言で、また戻された。
けど、母子に待っていたのは壮絶ないじめだった。
耐えられず、母親はダインが10歳の頃に死亡、その後もダインはいじめ……虐待を受けながら、数年暮らした。
それで、溜まっちゃったんだろうな――瘴気が。
理性を失って暴れて、一家を……惨殺した。
それが、領主の目を引いたらしい。
そいつは処刑されるはずだったダインを引き取り、騎士団に入団させた。
領主とやらは何者かさっぱり出なかったが、あんまりいいやつじゃなさそうだな、騎士団でも浮きまくっていじめられていたダインをかばおうともしてなかった。ストーリーはそういうの詳しく描写しないタイプだから、よくわからないけど。
で、たびたび暴走して問題を起こすダインは、ものすごく強かった。
瘴気で理性を吹っ飛ばすまでもなく、十分に。
やがて、暴君騎士とあだ名され、ついには聖女のお付きとして災禍討伐隊に任命される。
松田は、昨日の話は初耳で、演技じゃなくびっくりしていた。
「設定があるのは知ってたが、瘴気の話も……予想はしてたんだが、具体的にゲームでは見てなかったんだ」
「けっこう隠されてたからな」
「第五の選択肢のどれかか?あそこかなり条件隠れてて、」
「そこまで知っててなんで見てないんだ?」
「……これは、攻略サイトから」
はーん、選択肢仕様を見て満足しちゃったな。
「でも、俺も……結局ゲームに書いてあることだろってしか、考えてなかったから」
何を思ってダインは今まで生きていたのか。
俺はフレーバー程度の過去を読んで、単純にかわいそうになって同情しただけだった。
しんみり反省してると、松田は、ぐっと息を呑んだ。
「そんな、こと、ないです」
「松田?」
「私は……あれを聞いても、じゃあ、私は、怖かった私は、笑って許さなきゃならないのかって」
「……それは、当たり前に思うことだろ」
コンラートも言ってたな。
俺が身代わりになった形だけど、どっちにしろダインの犯罪や迷惑行為やらは変わらない。
「俺があそこで話したのは、怒るにしても、ええと、適切な怒り方ってあるだろ。なんにもわからない子供に、頭ごなしに叱ったって、分かるはずがないじゃん」
まあ、ホントはダインだって好きでこうなったんじゃないって知ったうえで怒ってくれっていう、フェアを目指すつもりだったんだ。
ちょっと、いや、かなり失敗した気がする……
「やったことは、理性をなくしたからって、許せないのは感情的にそうだろ」
無理な話だろ。
ただ――俺は、もう人間じゃない。
「襲われかけたお前がダインを許せないのは普通だろ?俺がおかしいんだよ、もうごはん的な感覚になってて、良いの悪いのどうでもいいんだよ」
「……本当に?何も思わないんだ?」
松田がじっと俺を見る。嘘ついてないか見破ろうとしてる?
「うん、本当に。ダインに同情してるのもあるけど……それは、俺の気持ちだから」
松田たちの感覚のほうが人間としては正常だ。
ただ、俺がダインをかわいそうに思ってて、許してあげたいだけだ。
「俺、俺は……」
おっと、松田がまた泣き始めたぞ。
「お前が、襲われてたとき、すごく、ほっとして……っ、俺じゃなかったって、よかったって」
「……うん」
「悪かっ、た、本当に、ごめん」
そりゃ、何ヶ月も怯えて暮らしてたら、そうなるだろ。それに、罪悪感があるってことも、お前はまともなやつだよ。
うーん、推しの姿で泣かれると弱い……はらはらと涙をこぼすアエリアーナちゃん、尊い。
「うん、俺を助けてくれたから、それでいいよ」
「……助けた?」
「俺を殺さないでくれただろ?話まで合わせてくれて」
「……だって、転生者ならっ、俺を助けてくれるかも……って!」
うわあん、って、号泣!?
ああ、俺を助けたらお前を助けてくれるっていう打算?まーた当たり前の事を。松田、さては腹黒か?
「泣くなって!もー気にするなよ!」
「うっ、おれ、アエリアーナになってから、っ、今まで抜いた推しに懺悔しまくって……っふぐ、こわかったよな、気持ち悪かっ、うう……」
ひとりで大反省会やってるよ。
お前アニオタじゃないの?なあ、非実在性って知ってる?
ずっと怯えて暮らしてた反動なんだろうな、松田のこれって。
またちょっと泣かせておいた。
ちいさい宿で、なぜか俺だけ個室を用意された。気を使わせた……のかな?もう別に疲れもなくなったんだけど。
今日はもう自由時間になって、みんな思い思いに過ごしている。
俺は……本を読んでいる。少しでも世界のことを知ろうと思って。
この世界の言語はどうやら言葉自体、頭に入っているらしい。しゃべるのも読むのも問題ない。聞いたこともないはずだったのに、最初から意味がすんなり通った。
本もそんなに入手しづらいものじゃなかった。もう2冊目。
こういうことしてると、大学を思い出すなーってほとんど覚えてないから、懐かしいって感覚だけだな。
ちょっとずつ、前の人生を思い出しているみたい。つっても、重要な事はぜんぜん思い出せない……弟がいたのかなとか、そういう。
ま、気長に行くぜ。思い出せなくてもそーゆーもんだって。
なんて、本を行儀悪くベッドで寝そべりながら読んでると。
ん?ノックの音だ。
「開いてるよ」
「失礼します」
おっと、アエリアーナだ。変なもの広げてないよな?とか思いながら、ベッドの上に座り直したよ。
アエリアーナは、いつもの白いワンピースに、若草色の肩掛けをはおってる。うーん、そのラフな感じもかわいい。
「どした?」
「……お話があります。今、いいでしょうか」
「うん?いいよ」
重要なことかな……なんか緊張してるみたい。
椅子なんてものがないから、ベッドの横に座らせた。
「……そ、その……はぁ」
「だ、だいじょぶか……?」
俯いて、ぎゅって膝の上でスカートをにぎりしめて、息も乱れて……なんかこう、俺まで緊張してきた……はっ、こ、告白!?ねえな、さむ。
「き、聞きたいことがあって」
「う、うん、なんだ?」
わっ、ガバッ、ってアエリアーナはこっちを見た。
桃色の唇が、ぱかって開く。
「ずっと聞きたかったんだ……きみ、転生者、だろ」
「……はい?」
なんと?
え、なんだ?
アエリアーナちゃん、なんか泣きそうになってる?
「春崎りゅうと。日本人の名前だ、それに、最初の……」
「まっ待て!」
…………………っくりしたー!
え?そういう感じ!?
ってどういう感じだ!?
今、転生人生一番の驚きです。
「……って、ことは、き、きみも……」
くしゃって、泣き笑いの顔になったアエリアーナは、こっくり頷いた。
「俺は、松田公一郎……元の世界では、男でした」
「……っ!」
TS!
TSってやつだこれ!
……アエリアーナちゃんが……男……
……そういうわけでもないしそれ問題じゃない。
すっごい驚きすぎて、頭がすっこーんどっかいって、戻ってこーい……
「そ、そうだったん、だ」
喉がカラカラになってる。
アエリアーナ、……ええと松田?は、大きく頷いた。
「第一が最初から変だったからすぐに分かりました。災禍がそんなベラベラしゃべるわけない見たことないシーンだ、それに土下座とか、聖女って口走るなんて、なんでお前が知ってるんだと、」
「お、おう、分かった分かった落ち着いて」
めちゃくちゃしゃべりよる。
今までのちょっと控えめに微笑む言葉少ななアエリアーナちゃんはどこへ。
はっと、松田は、前のめりだった姿勢を戻した。
「す、すいません、その、しゃべりすぎて……」
「う、うん。その、気持ちはわかるよ……」
こんな異世界で同じ奴見つけたってだけで、そりゃうれしいだろ。
かるーく言ったら、今度はボロボロ泣き始めた松田……
お、っまえ、見た目は可憐な少女なんだから!
「……お、れが、『聖贄』の……アエリアーナって……こ、こわすぎて……」
「あ、あー……」
……そうか、それも知ってるのか……
そりゃ泣く。
「その、な?こうやってシナリオ変わったんだ、よかったな」
いや、いいのか?まだ混乱してていいか悪いかなんて……
でも、松田はこくこく頷いて……よっぽど怖かったんだろうなぁ……
今は泣かせとこ。
ひとしきり泣いて落ち着いたら、松田はぽつぽつ話し出した。
「龍兎が転生したのは、あの第一の災禍の封印が解けた時、ですよね」
「ああ」
りゅうとってどの漢字当てるか分からんよな。漢字は教えたよ、日本語は意識したら書けるから。
松田はしばらくぶりに見た日本語に感動していた。
「あの時、もちろんシーンが違うってのはすぐに分かりました、俺はあのときこわくて逃げ出したくて、第一が、攻撃してくるのは、ぜんぶ逃げてやるつもりで、」
第一で最初のエロスチルだもんな……触手(髪)はヤだろ、うん。
「……土下座、始めたときは、夢かなんかかって思いました……すごい、謝ってくるし」
「俺だって必死だったんだぞ!」
生きるか死ぬか、なんでもやるに決まってるだろ!
くす、って少しだけアエリアーナの顔が笑った。うーむ中身男っていっても、外は推しだから混乱中です。
「龍兎は、聖女って言いました」
「言ったの?」
「覚えてないんですか」
「もー必死で何言ったかなんて……」
聖女って言っちゃったなら、そりゃ疑うわ。
聖女一行が第一を倒しに来たなんて、いくら理性があっても知りようないだろ、ずっと封印されてたのにさ。
「そうだったんですね。……俺は、この人が、一緒なんじゃないかって、むしろ、そう思いたくて、色々やってみたんですけど」
「うん?色々?」
アエリアーナはすこし、にやりって悪い顔した。
「……自己紹介、してないんだよ、俺」
……………はうわ!?
そうだ!してない!されてない!
「あと、名前も聞いた」
「あー!それ!名前!」
聞くわけないじゃん!瘴気のかたまりの敵なんかに!
クリスティナが不思議そうな顔するわけだよ!俺に気を取られたから、疑問がこっちに向いちゃったんだ。
「日本人の名前聞いて、俺は……本当に……」
また鼻をすすり始めた。
うーむ、よほど怖い思いを……って、あれ?
「なんで今まで黙ってたの」
「……」
黙り込むな。
もじ……って、スカートをいじるのは本当に俺の推しなんだけどな。
混乱はしてるけど、驚きが大きいのか、TSとか聞いてもぜんぜんなんにも思わないぞ。
ちょっと惜しい気もするけど、言ったってなあ……
「……陰キャのオタクなんです、俺……」
「……コミュ障」
「……はい……」
話しかけようとして、話しかけられなかった、と。
だから、あれこれ俺が気づくように仕向けたけど、スルーされた。
気づかねえ俺もだが、松田よ……減点な。
「えー……じゃあ、お前はこの世界のいつ頃転生したんだ?」
「……ゲーム開始の数ヶ月前……」
こいつは死んだこともばっちり覚えていたらしい。転生トラックってなに。事故って言ってほしかった。
神様にも会ったらしい。
会ったのかよ、神様。
なんかすっごい軽いノリだったらしい。姿は見えなくて、ぼんやり光みたいなシルエットだけ。
で、その神様が言うには――
「世界を滅ぼす魔神というものが現れ、数多ある世界を壊しまくったらしい。その神含め他の神々は魔神を封印したが、減った世界の代わりに虚無が蔓延った。ブラックホールみたいなものらしい。それは徐々に広がっていき、宇宙自体のバランスが取れなくなった。そこで神々は世界を新しく作ることにした。できた穴を埋めるようなものだと。けど、そんなにいっぱいの世界を、一から設定するのは面倒だ、そこで神々は考えた――数多ある他の世界の空想上の世界を、そのまま創り出してやろうと!」
すちゃっと、最後に松田は眉間に指をくいっと……あ、眼鏡だったのね。
「ふーん」
「……」
松田はやらかしたことに気づいたらしい。しおしお肩がすぼまっていく。
けどまあ、この世界がどんなのかは分かった。
適当に選んだな、神様。
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「……その、」
「しゃべりは気にしないから、俺も似たようなもんだし」
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松田くん、エンジンかけ直した。
俺たちが、というより松田が転生した理由。
世界を生まれさせたけど、万が一うまく回らず、また魔王やら魔神やらが出てきたりしたらかなわんと、その世界――物語に詳しい、死んで役目を終えた魂を主軸に置こうとしたのだとか。
ここで松田はミスをした。
軽すぎる神様、何の世界かは教えてくれなかったらしい。
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「そうだよな……」
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「……なるほど、検索したら複数ヒットしたみたいなものか!」
「なんで龍兎が、という理由にはなります。あとは俺を転生させるときに、PCでいうならファイル(魂)を同時選択するようなミスが起こった……とか」
「まあ、それでいいや。納得したー」
「そうだとしても、なぜ時間差があったのか、配役はなぜ第一……」
「いーから!」
そーゆーの答えが出てくるとも限らないし、深みにハマりそう。
それよりも、やっとゲーム知ってるやつがそろったんだ、この先のことだよ!
「この後のことだよ!この後が大変だろ」
「……そうですね」
松田ははっと、表情が切り替わる。
アエリアーナが松田でも、聖女の役割は果たすつもりなのは今まで一緒にいたから分かる。
災禍は冗談抜きにやばいから、放置できないだろ。
色々話をするうちに、おたがいのことも分かってきた。
まず――ゲーム知識がふたりともあやふやだった。
……まじかよ!?
俺も松田も、フルコンしてないんだ。ゲームがルート分岐が多くて、スチル回収が大変なのもあった。ストーリー自体は一本で、マルチエンディングなんだが、ともかく別仕立てのシーンが多い。イラストとボイスがすごく良くて、ストーリースキップするけどスチル回収のために何周もやるやつが多かった。
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で、俺のほうがなぜか周回が多い。
松田、そこまでこのゲーム好きじゃなかったらしい。
だからか、ダインのことは、俺のほうがよく知っていた。
そもそも俺だって、選択ミスしていなければ知らなかった、ダインの過去。
ダインは名家の私生児だった。
前当主の、かなり遅くに出来た、メイドとの子供。どうも無理やり……って気がするんだよな。
母親は屋敷を出てダインを産んだけど、ダインが小さい頃に、前当主の遺言で、また戻された。
けど、母子に待っていたのは壮絶ないじめだった。
耐えられず、母親はダインが10歳の頃に死亡、その後もダインはいじめ……虐待を受けながら、数年暮らした。
それで、溜まっちゃったんだろうな――瘴気が。
理性を失って暴れて、一家を……惨殺した。
それが、領主の目を引いたらしい。
そいつは処刑されるはずだったダインを引き取り、騎士団に入団させた。
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はーん、選択肢仕様を見て満足しちゃったな。
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「そんな、こと、ないです」
「松田?」
「私は……あれを聞いても、じゃあ、私は、怖かった私は、笑って許さなきゃならないのかって」
「……それは、当たり前に思うことだろ」
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俺が身代わりになった形だけど、どっちにしろダインの犯罪や迷惑行為やらは変わらない。
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まあ、ホントはダインだって好きでこうなったんじゃないって知ったうえで怒ってくれっていう、フェアを目指すつもりだったんだ。
ちょっと、いや、かなり失敗した気がする……
「やったことは、理性をなくしたからって、許せないのは感情的にそうだろ」
無理な話だろ。
ただ――俺は、もう人間じゃない。
「襲われかけたお前がダインを許せないのは普通だろ?俺がおかしいんだよ、もうごはん的な感覚になってて、良いの悪いのどうでもいいんだよ」
「……本当に?何も思わないんだ?」
松田がじっと俺を見る。嘘ついてないか見破ろうとしてる?
「うん、本当に。ダインに同情してるのもあるけど……それは、俺の気持ちだから」
松田たちの感覚のほうが人間としては正常だ。
ただ、俺がダインをかわいそうに思ってて、許してあげたいだけだ。
「俺、俺は……」
おっと、松田がまた泣き始めたぞ。
「お前が、襲われてたとき、すごく、ほっとして……っ、俺じゃなかったって、よかったって」
「……うん」
「悪かっ、た、本当に、ごめん」
そりゃ、何ヶ月も怯えて暮らしてたら、そうなるだろ。それに、罪悪感があるってことも、お前はまともなやつだよ。
うーん、推しの姿で泣かれると弱い……はらはらと涙をこぼすアエリアーナちゃん、尊い。
「うん、俺を助けてくれたから、それでいいよ」
「……助けた?」
「俺を殺さないでくれただろ?話まで合わせてくれて」
「……だって、転生者ならっ、俺を助けてくれるかも……って!」
うわあん、って、号泣!?
ああ、俺を助けたらお前を助けてくれるっていう打算?まーた当たり前の事を。松田、さては腹黒か?
「泣くなって!もー気にするなよ!」
「うっ、おれ、アエリアーナになってから、っ、今まで抜いた推しに懺悔しまくって……っふぐ、こわかったよな、気持ち悪かっ、うう……」
ひとりで大反省会やってるよ。
お前アニオタじゃないの?なあ、非実在性って知ってる?
ずっと怯えて暮らしてた反動なんだろうな、松田のこれって。
またちょっと泣かせておいた。
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もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
校正も自力です(笑)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
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初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
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