身代わり吸魔が暴君騎士に思うこと

鹿音二号

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愛の力

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ダインが龍兎に突っ込んでいった。
その姿がふっと消える。

――なんだと!?黒い……瘴気!?
まずい、ダインじゃなくてもモロに食らったら……っ
ん?防壁が……ああ、暗闇を作る魔法!?脅かしやがっ……ダイン!?
やつが、地面に倒れてる。
くそ、暗幕になって攻撃避けられなかったか……!
生きてるよな、おい!?
龍兎に言い訳するの俺はやだぞ!

ばんばんクリスティナが防壁を作って、ダインを守っている。
でも、ダインが倒れた少し後ろから動けないのか……いくら防壁があっても、それ以上龍兎に近づけない。クリスティナに髪を避ける身体能力はないんだ、防壁だってもう何十も壊されてるのに、気づかれて総攻撃受けたら終わりだ。

ダインは、起きて……こない。
遠目だから分からねえが、あれ、相当血が……それに、ドレインされた可能性もある。
って、俺たちの方にも髪を向けてきやがった!クリスティナ、お前、すごいな……いくつ防壁作ってんだ。壁だらけだ。
負けじとコンラートも防壁を作ってるが、あれはクリスティナのほど固くないんだ、だが助かった。
コンラートも一瞬ダインのところに身体が動きかけたみたいだな、けど、俺たちの守りが最優先だって。
オラトリオも結構唱えたんだな……

「もうすこし……」

くそ、頼む、もう少しなんだ。
もう少し……!
聖域自体はもう作れる、けど、力は全部入りきってない。ゲームで言うチャージってやつだ。
もっと、もっと魔力を……!

ばんって派手な音を立てて壁を髪が叩く。
くそ、こっちに気づいたのか!
と、僧侶がふと片手を袖に入れた。
まさか、諦めるつもりか?
睨むと、肩をすくめて……袖から手を出して、何かをぽいっと上へ投げた。
ぱあああっと光が頭上から降り注ぐ。温かい光……それが、しゅんっと音を立てて、ダインへと高速で向かっていった。
流れ星みたいだな……って。

ダインが起き上がった。
起き上がったぞ!頭振ってるが、すぐに剣を持って!

「ごふ」

横で、咳払いが聞こえた。
はっと見たら、ちょうど僧侶が口元を袖で隠していた。
……見えたぞ、赤いもの。

「……まさか、『双奏』?」

魔法を同時行使なんて、出来るやつは数人しかいないって聞いたぞ!?
お前、無茶しやがって……!

「いえ、虎の子を使っただけですよ。お高いので、すごく心と懐が痛みますが」

ああ、魔道具か。
もしかして……あれか?覚えがあるぞ、周囲で一番瀕死のやつだけ、死んでなければ全回復するっている……目ん玉飛び出る値段だぞ!?
起動に必要な魔力だって相当……ほとんど『双奏』と変わんなくないか?

「ふ、はは……経費で落とそうぜ」
「おや、なかなか世俗にもお詳しい」

にこぉっと、ゲームスチルでよく見た、うさんくささにまみれた笑顔だな。しかも懐からポーション出してる……魔力の特級ポーション。これも経費か?
って、俺は社会人経験がないんだけどな。

ダインが、攻撃を再開してる。
さっきよりも体のキレがいい。もしかしたらさっきの回復で瘴気を祓ったか?
っていうか、動きが速くなってってる……?
不可視の斬撃がいくつも出せるのは知ってたけど、それどころじゃない。
剣の動きは見えないが、ダインの周りだけ髪が一瞬で切り取られている。
本来なら、龍兎の髪を切るっていうことだけでも一苦労のはずなんだが……?

ダインが縦横無尽に飛び回ってるから、髪があちこち追いかけていってるけど、ほとんど消えて黒っぽい粒子が舞ってるだけ……あ、また暗闇の魔法か!?
俺の斜め前に立ってるコンラートが、剣を振りかぶった!
ざあっと闇は消えて……

「目眩ましを消す魔法ならございますので」
「……ふふ」

魔法を遠当てか?
いやあ、コンラートってマジ有能!何でもできる!これで教会の犬とかもったいなすぎ!

クリスティナがこっちに戻ってきた。

「もーダインの防御いらないよ!なにあれ」

苦笑するクリスティナに、コンラートはここに待機を伝えて前に出た。ああ、暗闇の魔法対策とオラトリオを優先するのか。頼むぞ……!

暗闇は発動しては消え、発動しては消え、その間にもダインは……ますます動きが速くなって……る?
いや、なんか、ダインが何人もいて……見える。
龍兎の周りを取り囲む。
戸惑うように龍兎はキョロキョロとして、髪を振り回す。
『ダイン』が全員、いっせいに剣を振るって――龍兎の髪が、ぜんぶバッサリ、切り落とされた。

(まさか、覚醒……!?)

分身の術……!?
元の世界のそれって、速さと動きでひとりがいっぱいいるように見せかけるらしいんだけど……ああ、これは、ダインがたくさん、だな。
一見地味だけど、ダインクラスの戦士が複数人は、過剰戦力だぞ……あ、消えた。
効果はそこまで長くないんだろう、でもどういう原理なんだよ……

ダインの速さと無数の斬撃に、第一の髪の再生が追いついていない。ちょっと伸びたところをバッサリやられるから……短髪の龍兎って、初めて見る。
でも、身体には傷ひとつ見当たらない。

すごいな、お前。
暴走もしてないどころか、さらに強くなってんじゃん。
愛の力ねえ……

感心していると、俺の方もなんかおかしい。
力が、湧いて出てくる。回復とか、そういうレベルじゃない、ぐんぐんと。
ええ……どこに覚醒要素あった?
超王道展開だな。

だけど……それは要らない。
今じゃないんだ。
龍兎はもうほとんど体も瘴気と同じだ。
本当は、絶対に聖域なんか使いたくない。
けど、第七の瘴気を消すにはこれしかない。

誰にも言わなかったが……これは、ほとんど、賭けだ。
元の青年の体が、依代っていう役割を忘れていなければ……今の龍兎の強さなら、一瞬で消滅にはならないだろう。
あとは、龍兎の自我が残っていると――信じて。

――怖い。
俺が龍兎を殺すかもしれないんだ。
ここに愛の力とやらが入ったら即死も間違いない。本能的にそう思った。
これは浄化の力じゃない、滅す力だ。
瘴気を根本から消し去る――

だめだろ。
覚醒の感覚を抑え込んで、ぐっと、最後の魔力を魔法に押し込んだ。

俺は、今、龍兎を助けるんだ。
これで貸し借りなしにしてやる。
あっちは貸した覚えがないんだろうけどな!

「おら!くらいやがれ!『聖域』!」



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(20250311)加筆修正しました。
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